命名規約の例外として、却下をまぬがれた学名。 |
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古い標本の研究中に新事実が見つかったり、古い文献に「先取権」のある学名が発見されたりすると、命名規約に従って、学名を変更することになる。 |
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しかし、現在使われている学名が、すでに長い間一般に通用し、慣れ親しんでいる場合には、かえって混乱をきたすことになる。
これを避けるために国際植物科学会議で検討され、なるべく現在のものを使うように決められている。
つまり、本来「正名」から外れて「異名」に変更される運命の学名を救済して、「保留名」として正式に使い続ける、という考えである。 |
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学名は初めに文献に発表した人のものが採用される。
それではどこまで文献を遡るか ということになるが、植物の学名に関する規約では、1753年発行の『植物の種』をスタートとすることになっている。これより古い文献に記載があっても取り上げられない。
(植物命名規約の定義では、1753年5月1日 以降)
リンネ以前にも学名に「属名・種小名」をつけるという「二命名法」の考えを取っていた学者がいたが、リンネは『植物の種』で、ほかの植物学者が著していたものも含めて、彼自身が確認していた全植物、およそ 999属、6,900種を分類し直し、新しく「種小名」を命名した。
この「業績」によって、学名に関する文献の第一号の栄誉が与えられた。ただし、リンネの「分類方法」は雄しべと雌しべの本数を基準とする考え方で、科学的ではなかった。
また種小名の付け方も、本人が序文の中で下記のように断っているように、「とりあえず」の名前もある。 |
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記載の一端に植物の小名を加えておいた。それによって繁雑なく各植物をひとつの名で呼ぶことができるからである。しかし私は特に精選しない名(思いつくままの名の意味)を採用し、その精選は他日に譲る。
すべての植物学者はしかし最も深き注意をもって十分なる種類の識別法を除外して、小名だけを用いるような事をしてはならぬ。しからざれば科学はまた以前の無知時代に帰るであろう。 |
復刻版『植物の種』:中井猛之進の訳を現代かな使いに
訂正。( )内も中井の注。 |
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実際に後年になって、リンネ自身が同じ植物に新しい種小名を付け直した例もある。ところがせっかくの「精選した名前」は採用されず、現在の規約によって最初に決めた『植物の種』の「とりあえずの名」が永遠に残ることになってしまった。
二命法の考え方はリンネ以前からあったが普及していなかった。このため、種小名の保留名は トマト と コムギ のふたつだけである。
グループ名としての属名は古くからあったので、『植物の種』以前に命名されていた 1,100もの属名が、保留名となっている。 また 科名にも保留名がある。 |
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正式な学名は命名者も含めて表記する。 このため上記 1,100 の属名保留名は、命名者だけが違っているものが多い。 |
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Thevetia テヴェティア属 のケース: |
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@ 1737年 リンネが『植物の属 第T版』に属名を記載
A 学名の命名の出発点の『植物の種』(1753) には記載なし
B 1758年以降、リンネのThevetia属を支持する文献が出現
C 1763年 M.アダンソンが『Fams.第2巻』に正式に属名を記載 |
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20世紀になって、リンネの命名が保留名として認められる。
本来の正式名称はCの Thevetia Adans. だが、「リンネの命名」を保留することが決められ、辞典などには |
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Thevetia L . nom.cons. |
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と記載される。 |
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以下に 保留名に関連する用語を掲げる。 |