|
||||
![]() |
科 名: | マメ科 Fabaceae nom. cons. | ||
亜科名: | ジャケツイバラ亜科 Caesalpinioideae | |||
節 名: | ネムノキ節 Mimoseae | |||
属 名: | アデナンセラ属 | |||
Adenanthera Royen ex. Linn. (1737) | ||||
和 名: | ナンバンアカアズキ 南蛮赤小豆 | |||
別 名: | Saga (シンガポール植物園) | |||
中国名: | 海紅豆属 Hai hong dou | |||
台湾名: | 孔雀豆 | |||
原産地: | 中国南部、バングラデシュから東南アジア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、オーストラリア (GRINによる) | |||
用 途: | 観賞用、装身具に加工 | |||
観察地:小石川温室、ガイアナ協同共和国、シンガポール、ドミニカ共和国. | ||||
|
|
会社勤めをしていた時の出張先や、海外の植物園での写真を中心に掲載する。 当初は和名どころか学名もわからなかったが、いまでは「ナンバンアカアズキ」が一般的になり、温室の名札もこれである。 |
小石川温室 第2室 |
![]() |
40cmほどの鉢植えで 高さは4m強。枝は細いものの、大きな複葉は50cm近くある。 |
南米北部のガイアナの首都ジョージ・タウンの植物園で初めて見たこの豆科植物。 外観が「赤い果実」は世界にごまんとあるが、この赤いタネ!! |
艶々と美しく、夢中になって拾い集めて持ち帰ったが、頼りにする2冊の植物事典には載っておらず、長い間名前がわからなかった。 |
モザンビークの出張の帰りがけに寄ることができたシンガポール植物園に大木があり、4年以上経ってから、ようやく学名が判明した。 |
持ち帰った種子 |
![]() |
この色! この艶! 大きさは7~9mmで、小さな蜆貝(シジミガイ)のような形である。世界一美しい種(タネ)であること間違いなし。 |
樹形 ガイアナ 2004.10.30. |
![]() |
優雅な橋の架かった池の縁に植えられていて、幹の太さは 40 cm 程度。半球形の樹冠で 周辺は枝垂れている。 |
ちょうど種子散布の真っ最中。池の上に大きく張り出しているので、池を浚えば紅色の宝石がザクザクと採れるはずだ。 |
鈴生りの赤い実がよく見える | 落ちた莢 |
![]() |
![]() |
熟すと莢が割れて、螺旋状に捩じれる。落下した時には赤い種子はほとんど離れ落ちてしまっている。白い部分は果実の内側で、果皮の表面と地面がちょうど同じ色なのでわかりにくい。 |
珍しい互生の小葉 |
![]() |
2回偶数羽状複葉で、これで1枚の葉。暑さのために小葉は閉じ加減となっている。前掲写真左と較べると、小葉が平らで厚みが薄いように見える。熱帯の太陽下で地植えで育っているものと、温室栽培の差だろう。 |
樹形 シンガポール 2009.1.20. |
![]() |
園内に(当時)11本ある 樹木遺産 Heritage trees のひとつ。 |
朝から暑い中で広い植物園を歩き回ったために熱射病気味になり、もう帰ろうと一度はこの木の前を通り過ぎてしまって、危なく見過ごすところだった。 待てよ! やはり遺産樹木は見ておかなければ、と戻って説明を読んでみたら この「赤い種子」の木だった。頭が痛いのを我慢して地面をくまなく探してみたが、種子はたった2個しか見つからなかっため感激は今一つだったが、学名がわかったことは大収穫だった。 |
2個見つかっただけでもましだった理由は、シンガポールで Saga と呼ばれるこの木は大変に有名で、種子を100個?集めると望みが叶うと言われているおかげで、皆が拾い集めるため。 また植物園の管理の良さも理由のひとつで、園丁が常に掃除をして廻っているためでもある。 |
余談だが、その後に出かけたドミニカ共和国では皆の関心がないらしく、いやというほど落ちていた。 |
板根状になっている | |
![]() |
![]() |
シンガポール植物園のホームページの解説では、 | |
|
|
とある。 | |
いったいどんな花が咲くのかと、ハワイ大学の Carr 教授のホームページを見てみると、ちゃんとありました。 |
ハワイ大学のアデナンセラ Copyright:Dr. Gerald Carr. | |
![]() |
![]() 掲載許可 取得済み |
![]() |
花序は長い総状で、葉と較べると、花の大きさは極めて小さく、ジャケツイバラの花とはずい分違う。 小花はまさに「星型」で、黄色い「スターダスト」だ。 |
名前の由来 Adenanthera pavonina | |
ナンバンアカアズキ 南蛮赤小豆: | |
|
|
属名 Adenanthera: | ||||||||
|
||||||||
|
種小名 pavonina:孔雀の という意味 | ||
動物園でよく見かける インドクジャク Pabo cristatus などの羽の色は緑と青である。「赤い種子」を青い孔雀と表現するのはおかしいので、由来は別のところにあるはず。 | ||
インドクジャク Wikipedia より | ![]() | |
この由来の解明も「pavonina の命名物語」参照。 | ||
現地名のひとつ Saga: | ||
シンガポール植物園の木の前に「遺産樹木」の解説パネルがあり、ホームページの解説とは違うものだった。 | ||
![]() |
||
|
この説明では、Saga の意味や由来がわからない。 | ||
また、きれいな種子に難癖を付けるようで申し訳ないが、私が拾ってきた種子は、一瞥しただけで大きさ(重さ)のバラツキがあることが分かる。そんなものが、高価な「金」を量る標準器として本当に使われていたかどうかも疑われる。 | ||
そこでさらに、植物園の売店で買った文献、『Trees of Our Garden City』というシンガポール植物園出版のガイドブックの「用途」の部分の解説を見ると | ||
|
||
用途の項目であるために、ここにも Saga の名称の解説はない。 分銅としての役割は、1個ではなく、何個かで金どれだけ、というように用いられたものと思われる。 |
||
「落ち葉」の問題は、Sagaの成長が速く、6~8か月に一度、つまり年2回 葉を落とすことによる。 |
旧 ジャケツイバラ科 Caesalpiniaceae: ジャケツイバラ亜科 Caesalpinioideae: |
||
カエサルピニアは、ローマ法王クレメンス8世(在位1592 -1605) の侍医で植物学者の、チェザルピーノ A. Cesalpino(1524-1603)、ラテン語の綴りCaesalpinus を顕彰している。 | ||
マメ科 Fabaceae Lindl. , nom. cons. | ||
Faba は、ギリシア語の Phago 食べるに由来し、果実を食用にすることに基づく。 別名 Leguminosae は、莢状の果実がある の意味。 |
||
|
||
最近 アメリカ農務省のデータベース GRIN では、マメ科の下位の分類が変わった。 以前は マメ亜科、ジャケツイバラ亜科、ネムノキ亜科が並列だったが、現在はネムノキ亜科が無くなり、ジャケツイバラ亜科の中の「ネムノキ節」となった。 |
Adenanthera属 と pavonina の命名物語 |
まず、学名の根拠であるリンネの『植物の種』(1753)を見てみよう。 |
『植物の種』第1巻 384ページ |
![]() 符号は筆者が記入 |
1行目の記述は「葉は二回複葉」とあるだけ。3行目も「葉は二回複葉、小葉は互生」。原産地はインド。 本書には図はなにも無く、いったいこれで本種を正確に特定して記載したことになるのだろうか? |
手掛かりは、ここに記載されている5つの参考文献である。リンネの自書も含めて、著者名と書名の略称が挙げられている。これで本種に関する 1753年以前の命名の様子を知ることができ、さらにはその文献内にも同様に参考文献が記載されており、リンネよりも200年以上前の状況を知ることができる場合もある。 |
まずは5冊を刊行順に並べ、Adenanthera属 や pavonina の名前が記載されていないかどうかを調べたが、ラテン語が部分的にしか解釈できないために、理解が十分でない部分がある。 |
は正名、 | は異名 | ||
内は 推定事項 | |||
肖像写真は Wikipediaより 図版は、Biodiversity Heritage Library より |
|
|||||||
年 | 著者 | 書 名 | |||||
Ⓐ | 1686 | Hendrik van Rheede |
インド マラバルの庭園(植物誌) 『Hortus Indicus Malabaricus』第6巻 p.25 図.14 |
||||
![]() |
|||||||
|
|||||||
Ⓑ | 1735 | ~1737 リンネ | クリフォード氏庭園誌『Viridarium Cliffortianum』 | ||||
|
|||||||
![]() 同書 36ページ |
|||||||
|
|||||||
Ⓒ | 1737 | リンネ | クリフォード氏植物園誌『Hortus Cliffortianus』 | ||||
![]() 同書 158ページ |
|||||||
|
![]() 『Hortus Indicus Malabaricus』 第6巻 図1 |
![]() オウコチョウ Caesalpinia pulcherrima |
オウコチョウの花に限るならば、10本の長い雄しべを クジャクのトサカに喩えたもの と言えよう。 |
![]() Wikipedia より |
![]() 2008.3.16 ドミニカ |
|
|||||||
![]() |
|||||||
|
Ⓓ | 1740 | Adriani van Royen |
ライデン植物誌『Florae leydensis prodromus : exhibens plantas quae in Horto academico Lugduno -Batavo aluntur』p.462 |
||||
|
|||||||
Ⓔ | 1747 | リンネ | 『セイロン植物誌 Flora Zeylanica』 p.70、71 | ||||
![]() |
|||||||
|
|||||||
![]()
|
|||||||
その後(あるいは以前から?) pavo~ の種小名は、様々な科の植物に用いられている。 |
なお、アオイ科の Pavonia属 は、スペインの植物学者 José Antonio Pavón (1754–1844) を顕彰したもので、クジャクとは関係ない。 |
小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ |