ガクアジサイ 額紫陽花
Hydrangea macrophylla Ser.
APG分類: アジサイ科 Hydrangeaceae
旧科名:  ユキノシタ科 Saxifragaceae
旧学名:  Hydrangea macrophylla f. normalis
属 名 : アジサイ属 Hydrangea Linn.
           (1737)
別 名 : ズイノキ 髄の木
原産地 : 房総半島、三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島、その他
用 途 : 庭園樹として植えられる。アジサイはガクアジサイから派生した。

「アジサイの学名」や「アジサイ」の項と重複する内容あり。
本ページは、以下の構成となっている。
 ガクアジサイの学名について
 園内の栽培状況
 冬 芽
 花序の構成
 装飾花の萼片数
 両性花の花弁数
 アジサイコーナーの品種
 名前の由来



ガクアジサイの学名について
ガクアジサイは日本に自生する原種で、栽培品種であるアジサイ(狭義、特定の種) のもとになったものである。江戸時代に来日したチュンベリーは アジサイには学名を付けたが、ガクアジサイを見逃した?ようで、原種の前に栽培品種に学名が付けられた。
  アジサイ Viburnum macrophyllum (1784)
         → Hydrangea macrophylla (1830)
後になって、原種である ガクアジサイ に名前が付けられため、学名的にはアジサイの「品種」扱いとなった。
  ガクアジサイ Hydrangea macrophylla f. normalis
長い間 この学名が使われていたが、遺伝子解析による分類 APG では、遺伝子的な違いがなかったためか、ガクアジサイ と アジサイ は同じ学名 Hydrangea macrophylla となっている。
             (米国農務省の DB. GRIN による)

強いて ガクアジサイ を学名表示するとすれば「栽培品種」という扱いになるのだろうか? 
ガクアジサイ Hydrangea macrophylla 'normalis' ?


@:メイン・スロープの角    2011.6.21.
本館に向かって大きく左に曲がる所。その右奥に ガクアジサイの群落がある。手前のツツジの陰であり、先を急いでいる人には目にはいらない。
ボリューム満点         2011.6.11.
立ち入り禁止区域の中に植えられていて ロープ越しだが、ゆっくり観察できる。

装飾花のガクは白      2011.6.21.


A:本館前ベンチの並び

A:高さは せいぜい 2.5m     2011.6.3.
2012.6.15
このガクアジサイは装飾花が赤紫色。奥にヒマラヤスギと本館、左手が作業小屋。小屋のさらに左にも植えられている。



B:本館裏の アジサイ・コーナー   2012.7.10.
中央がガクアジサイ、ただし 名札なし。


C:竹垣で囲われた サネブトナツメの右手 2013.6.4.
放置された藪状態。装飾花の色は 青系。

根元の様子


D:新しく”発見”した株     2013.6.18.



冬 芽
茎頂は裸芽、側芽は鱗芽。ただし、茎頂は初めから裸芽状態になるわけではない。
12月下旬の頂芽   2021.12.21. 2月中旬の様子  2016.2.19.
左写真:晩秋の落葉前。茎の成長の最後に普通葉とは異なる小形の葉 "高出葉" を2対つけ、その中に冬芽が形成されている。
右写真:落葉後の越冬時。普通葉の脱落痕の先に6対の細長い脱落痕がある。特殊な例かもしれないが、高出葉2対のほかにさらに4対もの高出葉 あるいは芽鱗が脱落して、この状態になったことになる。

側芽の芽吹き      2016.3.8.
側芽(腋芽)は鱗芽で、緑色の成葉となるのは6対目からのようだ。
もしも越冬前に芽鱗が脱落すれば、ここでも 裸芽 となる。



花序の構成
葉と花序の様子       2013.5.30.
葉は十字対生で、花(花序)は枝の先端に付く。写真は 発育良好な場合の典型的な 花序のパターンで、装飾花は8個。

2出 集散花序          2013.5.28.
花序のパターンを表す用語はわかりにくい言葉が多い。なぜこれが 集まり散じる「集散花序」なのか?「集合散房花序」の略かも。

ともかく「二出」とは、花軸から側枝が2本生じ、花軸と合わせて3本となるパターンで、二回の枝分かれをした場合の花の数は7個となる。(下図) 
ガクアジサイはこれを何回も繰返すので、「複 二出集散花序」。
二出集散花序のパターン図

花序の基部
最初に少しだけずれた位置で二組の花柄が出るので、中央と合わせて5本となる。

花の付き方の詳細
その後2回分岐した花序群の片方の1輪が装飾花となるので、2×4組で8個となる。ガクアジサイを模したパターン図を作ってみた。

は 両性花のかたまりを示し、数回分枝している。

装飾花が6個       2013.5.30.
勢いが無いと 花序の大きさも小さいが、なぜか萼片の枚数は多め。

たまには数が8個以上に     2013.6.1.
9個目は 「額」 でない位置に・・・・。  目黒 自然教育園


装飾花の萼片数  と 花弁の数
装飾花の萼片数       2011.6.5.
この花序では 装飾花の数は7個。そして 萼が大きく変化した結果 という装飾花の、その萼片の数は通常4枚。5枚のものも見かけるが、成長不良品?の3枚は少ない。装飾花の中央部には ちゃんと花があって開花することもあるが、子房や雌しべが退化しているようで、実が生ることはない。

開花した装飾花の花
花弁数は 萼片の数と同じだが、必ずしも一致はしない。雄しべの数は 原則として花弁の倍。
装飾花の基部 子房がない
装飾花には子房がないか極めて小さい。右側、両性花の小さな萼の下には子房がある。(子房下位)

「額」の内側に密生しているのが両性花で、よく実を結ぶ。不思議なのは 両性花の花弁数の多くが「5枚」なのに、装飾花の萼の数は 4枚が多いこと。
理由は花に聞かないとわからないが、額を構成するにあたって、4枚の方が四角く整いやすく、見映えがするからだろう。

標準装備の装飾花       2013.6.7.
装飾花は4枚が多いと言っても自然界の作品であるから、少し探せば、すぐに原則以外の状態を見つけられる。
ほとんどが 3枚 5枚が多い


両性花の花弁数
両性花の花弁は 原則5個           2013.6.7.
雄しべの数は 花弁の倍で 10本。花弁だけでなく、雄しべの花糸や雌しべも すべて青い。つぼみを見ると 花弁の数がよく分かる。なかには 4枚のものも。

雌しべの先が3つに割れている。写真の中には、すでに花弁や雄しべが落ちた花が たくさんある。(を付けたのはふたつだけ )
この突起は、果実が熟した後も長く残る。

横から見た花
萼の様子がよくわかる。

お役ご免         2012.7.8.
装飾花は、明るい色で虫を引きつける役目があるのだろうが、両性花の花弁が全て落ちる頃には垂れ下がって下を向く。枯れながら数ヶ月も付いていることもあるが、やがて落下する。
@ の装飾花 裏が赤、表は黄緑に        2013.7.17.
     裏         表
かんむり付きの果実      2011.7.24.

赤く色付いた 果序           2012.10.31.
右写真のは、装飾花の落ち跡。


アジサイ・コーナー ガクアジサイの品種

和名 学名
ガクアジサイ
の品種

フイリガクアジサイ

斑入り額アジサイ
H. macrophylla
f. normalis
cv. Maculata
ロイヤル・ブルー H. macrophylla
f. normalis
cv. Royal Blue
ヤエガクアジサイ

八重額アジサイ
 H. macrophylla
f. normalis
 cv. Yaegakuajisai
ジョウガサキ

城ヶ崎
 H. macrophylla
f. normalis
 cv. Jogasaki
サン・ルージュ

赤い太陽
H. macrophylla
f. normalis
cv. Sun Rouge


 
ガクアジサイ の 位 置
@: D15 ab メインスロープ カーブの右奥
A: C13 d 標識11 作業小屋 横
B: E13 a 本館裏手の アジサイコーナー  いくつかの品種が植えられている
C: B5 ac サネブトナツメの右手
D: D7 c 震災記念碑の手前
 その他 多数

名前の由来 ガクアジサイ
Hydrangea macrophylla

ガクアジサイ 額アジサイ:
装飾花が 花序の周りだけにあり、それを額縁に見立てたもので、「萼」アジサイ ではない。

ズイノキ 髄の木
アジサイの茎の中心にある白い 「髄 ずい」 を、かつて灯心として使ったため。

旧品種名 normalis : 正規の、通常の
ガクアジサイから派生した「アジサイ」は古くから栽培されていたようだ。先にアジサイに学名が付けられたために、原種であるにもかかわらず、ガクアジサイには 品種名 form. が付け加えられた。
normalis の意味は「変異していない、元の種」である。

アメリカ農務省のデータベース GRIN の見解は、形態は違っているが 両者の遺伝子は同じ、すなわち両方とも
   Hydrangea macrophylla
である。起源的には アジサイが栽培品種 となる。

種小名 macrophylla : 大きな葉の
最初の命名者 ツュンベリー の命名は、なぜか ガマズミ属に分類し、
Viburnum macrophyllum (1784)
であった。(最初の発表は J. A. Murray による)

ツュンベリーは、「アジサイ」「ヤマアジサイ」 と 「コアジサイ」 だけでなく、同時に 「ガマズミ」「ヤブデマリ」 その他にも命名しており、これらの中では アジサイの葉が最も大きかった事による。

属名 Hydrangea
『園芸植物大事典』にはギリシア語の 「水 hydor」と「容器 angeion」が起源のラテン語 とある。ラテン語では「hydria」が 「かめ・壺」で、アジサイ・ウツギ類の果実の形からきている。
ガクアジサイの実
 
蓋のある壺のイメージ
 
アジサイに当てる漢字 紫陽花 について
アジサイに「紫陽花」の字を当てるのは 誤用 と言われている。
牧野富太郎が昔から 事あるごとに本に書いているのだが、一向に訂正されない。ほかに適当な漢字が無いためだろう。

原典は 白楽天(白 居易) というから、8世紀の中国。 詩の前書きに 「招賢寺ニ山花一樹アリテ人ハ名ヲ知ルナシ、色ハ紫デ気ハ香バシク、芳麗ニシテ愛スベク、頗ル仙物ニ類ス、因テ紫陽花ヲ以テ之レニ名ヅク」とあり、詩 本文は、
何年植向仙壇上、早晩移植到梵家、雖在人間人不識、与君名作紫陽花
である。
これをアジサイとしたのは 10世紀末の 源 順(みなもとのしたごう)の『倭名類聚鈔』だそうだが、そもそも中国には「ジョウザン 常山」などの類縁種はあっても、アジサイは(恐らく)自生しない。
万が一、早い時代に日本のアジサイやガクアジサイが中国に渡っていたとしても、アジサイには香りがない

そこで、牧野いわく「これが白楽天の詩にある道理がないではないか」と なる。 『植物一日一題/1953』/1998編集再版



 植物の分類 : APG分類II による アジサイ属 の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の
分類場所
バラ目  トベラ科、スグリ科、ベンケイソウ科、バラ科、ユキノシタ科、
 アジサイ科( ミズキ目に移された↓)、など 
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
ミズキ目  ミズキ科、ヌマミズキ科、アジサイ科
アジサイ科  ウツギ属、アジサイ属、バイカウツギ属、イワガラミ属
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した?植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ