アジサイ 紫陽花
Hydrangea macrophylla Ser. (1830)
APG分類: アジサイ科 Hydrangeaceae
旧科名:  ユキノシタ科 Saxifragaceae
属 名 : アジサイ属 Hydrangea
   Gronov. ex Linn. (1737)
英 名 : hortensia, hydrangea
中国名 : 繍球、八仙花
原産地 : 日本の暖帯
用 途 : 庭園樹として植えられる。
漢字「紫陽花」は 誤用といわれている。

「アジサイ」は、アジサイ全般を表す ”広義の名称”としても使われるが、” 狭義 ” の使い方では 本種の和名を指す。

「アジサイの学名」や「ガクアジサイ」の項と記述内容が重複する。

@:アジサイの小径  2011.6.21.
「アジサイの小径」は 標識41番から 42番までで、青い色の花が多い。写真は本館方向を振り返って見ている。以下の写真で タイトルが白地のものは、すべてここの「アジサイ」を撮影したもの。

園内には 本館裏の標識31〜41番に「アジサイ園」があって、アジサイ以外の各種が植えられている。その他の場所にも標識無しのものがあるが、「アジサイ」 と 「セイヨウアジサイ」 との違いは はっきりしないため、判断が難しい。

アジサイ の学名・分類 の変遷


日本原産の植物であるアジサイを、初めて世界に紹介したのは エンゲルベルト・ケンペル (1651 -1716) である。ドイツ生まれの医師・博物学者。オランダ商館の医師として17世紀末に長崎に約二年間滞在し、江戸参府にも 二度随行した。
記載したのは『廻国奇観』(1712)で「紫陽 シヨウ、アジサイ、アンサイ、アジキイ」のタイトルで数行の説明があるが、図版は無く、どの種なのかはよくわからない。

1.

最初に学名を付けたのは C. P. Thunberg (1743-1828) で、「ガマズミ属」に分類した。「葉が大きな ガマズミの仲間」ということになる。
   ガマズミViburnum macrophyllum (1784)





2.
(最初の発表は J. A. Murray による)
1775年に来日したツュンベリーは ほかに 「ヤマアジサイ」 と 「コアジサイ」にも命名しているのだが、「ガクアジサイ」には気がつかったようだ。日本での行動が幕府によって制限されたためだろう。

アジサイ属はそれ以前にすでに定義されており、フランス人の N. C. Seringe (1776 -1858) が アジサイ属 に変更した。
   ユキノシタ科 アジサイHydrangea macrophylla (1830)

3.

近年の分類学者、エングラーによる分類までは これが採用されていたが、その次の代表的な分類学者である クロンキストは、アジサイ類を「科」として独立させ、
  バラ目 アジサイ科 アジサイ


4.
とした。「目」は 「科」の ひとつ上の分類ランクである。

ところが 葉緑素の遺伝子解析による APG分類 II では、「目」の位置が大きく変わり、ミズキ目 に変更された。
ミズキ目 アジサイ科 アジサイ属

アジサイは ガクアジサイから生まれた栽培品種 (園芸品種)だが、チュンベリーが ガクアジサイを見逃した?ために、原種の前に 栽培品種に学名が付けられた。
原種である ガクアジサイ には後から名前が付けられため、学名的には、アジサイの「品種」扱いとなった。


アジサイは 高さ2〜3mの落葉低木で、根元から新しい茎を勢いよく伸ばすが、一年目には花を付けず、2年目と3年目に花序を出す。このため、一年目のシュートを切り詰めすぎると、翌年に花が咲かない事になる。 そして およそ5年で枯れれてしまうので、一本の茎に注目すると寿命が短いが、次々に更新していくことによって、株としては永続していく。

根元から出た枝      2011.6.21.
 2011.6.21       一年目の枝 と 古い枝
葉は 十字対生である。
葉の様子        2011.6.21.

つぼみの状態       2013.5.29.
花序の出初めは 当然のことながら、装飾花のサイズも小さい。
( この花はセイヨウアジサイ だと思われる )

鋸歯のある装飾花の萼片     2012.6.3.
色が付いていない黄緑色の状態から、周辺部にだけ青が差している この状態が美しい。『園芸植物大事典/小学館』には 装飾花の萼片は全縁 と書かれているが、そうでないものもあるようだ。

花の様子        2011.6.21.
花弁に見えるのは萼が大きくなったもの。

事典の記述として、「アジサイは ガクアジサイの花序全体が装飾花に変化したもの」と書かれていることがある。これは間違いで、装飾花の陰に隠れて本来の形の花がたくさん残っている。
下からのぞく       2013.5.30.
中は がらんどう。
黄緑色の玉が 装飾花ではない花のつぼみ。

が 正常な花の萼
本来の花は 萼も花弁も 5枚がほとんど。それなのに、装飾花の発達した萼は 4枚が多い。装飾花には子房がないので種子はできない。

咲き出した両性花       2013.6.7.
内側にある両性花が咲いている。この両性花に種子ができるのかどうか、未確認である。

紫色になった葉       2001.1.7.


 
アジサイ の 位 置
@: E12-13

10番通り イロハカエデ並木の右手
A: E13 ac 本館裏手の アジサイコーナー

名前の由来 アジサイ Hydrangea macrophylla

アジサイ
いくつかの説があるが、
  @ アヅサヰ・アヅサアヰ(集真藍) あるいは
  A アツフサアヰ(集総藍) が変化したもの、
の二説が有力。     『語源辞典/植物編』吉田金彦

通常のアジサイではなく、ガクアジサイに名付けられた可能性もあるので、周囲が白で中心に青い細かな花が密集している様子からは、@ となろうか。

種小名 macrophylla : 大きな葉の という意味
本項トップの一覧表にも記したが、最初の命名者 ツュンベリー の命名は、なぜか ガマズミ属に分類し、
Viburnum macrophyllum (1784)
であった。(最初の発表は J. A. Murray による)

ツュンベリーはガマズミ属として、「アジサイ」「ヤマアジサイ」 と 「コアジサイ」 だけでなく、同時に 「ガマズミ」「ヤブデマリ」 その他にも命名している。もちろん後者は間違いではなく、現在でも正名として生きている。

スイカズラ科(APG分類ではレンプクソウ科)ガマズミ属 ガマズミ
ガマズミ Viburnum dilatatum (1784) Thunb.
ガマズミの葉に比べると、確かに、アジサイの葉は数倍大きい。花は コアジサイ に似ている。
また次の写真 ヤブデマリは イメージがアジサイ属のノリウツギ や ガクウツギ に似ている。
ヤブデマリ Viburnum plicatum v. tomentosum

当時の分類法は、師リンネが考案した 雄しべと雌しべの数に注目する いわゆる『性分類』だった。そうはいっても、ガマズミ属の花は「合弁花」で、アジサイ属とは大きな違いがあり、ツュンベリーのミスと言えよう。

属名 Hydrangea
『園芸植物大事典』にはギリシア語の 「水 hydor」と「容器 angeion」が起源のラテン語 とある。ラテン語では「hydria」が 「かめ・壺」で、アジサイ・ウツギ類の果実の形からきている。
ガクアジサイの実
 
蓋のある壺のイメージ
 
アジサイに当てる漢字 紫陽花 について
アジサイに「紫陽花」の字を当てるのは 誤用 と言われている。
牧野富太郎が昔から 事あるごとに本に書いているのだが、一向に訂正されない。ほかに適当な漢字が無いためだろう。

原典は 白楽天(白 居易) というから、8世紀の中国。 詩の前書きに 「招賢寺ニ山花一樹アリテ人ハ名ヲ知ルナシ、色ハ紫デ気ハ香バシク、芳麗ニシテ愛スベク、頗ル仙物ニ類ス、因テ紫陽花ヲ以テ之レニ名ヅク」とあり、詩 本文は、
何年植向仙壇上、早晩移植到梵家、雖在人間人不識、与君名作紫陽花
である。
これをアジサイとしたのは 10世紀末の 源 順(みなもとのしたごう)の『倭名類聚鈔』だそうだが、そもそも中国には「ジョウザン 常山」などの類縁種はあっても、アジサイは(恐らく)自生しない。
万が一、早い時代に日本のアジサイやガクアジサイが中国に渡っていたとしても、アジサイには香りがない

そこで、牧野いわく「これが白楽天の詩にある道理がないではないか」と なる。 『植物一日一題/1953』/1998編集再版


 植物の分類 : APG分類II による アジサイ属 の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の
分類場所
バラ目  トベラ科、スグリ科、ベンケイソウ科、バラ科、ユキノシタ科、
 アジサイ科( ミズキ目に移された↓)、など 
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
ミズキ目  ミズキ科、ヌマミズキ科、アジサイ科
アジサイ科  ウツギ属、アジサイ属、バイカウツギ属、イワガラミ属
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した?植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ