アメリカアサガラ アメリカ麻殻
Halesia carolina Linn. (1759)
科 名 : エゴノキ科 Styracaceae
属 名 : アメリカアサガラ属 Halesia
  John Ellis ex. Linn. (1759)
      nom. cons.
中国属名: 銀鐘花属
英語名 : Carolina silverbell, silverbell-tree
原産地 : 北アメリカ東部、
 同 中北部 (イリノイ、オクラホマ)
用 途 : 時に庭木として植えられる。

黄葉する落葉樹。和名に「アメリカ」が付く植物はたくさんあるが、このホームページでは初めての登場。その大きな理由は、小石川植物園が アジアを中心とした植物をコレクションしているためである。

ロープが張られた井戸の横の区域    2013.5.15.

井戸 跡 ↑いいい
旧小石川養生所井戸の隣の区域は、以前 カルミアなどが植えられていたが、他の場所に植え替えられて整地された。「養生所記念館」のようなものを建てる計画だった、と聞いた事がある。現在は ロープが張られていない。
繁っている2本のアメリカアサガラも 以前から植えられていたもので、幹の太さが15センチぐらいはあったように思う。
それが 一度切られた後に、根際からたくさんの枝が出たのが 現在の姿。事典によると 本来 10mぐらいの高さになるそうだ。

春の開花        2011.4.20.
2年後         2013.4.5.
確実に大きくなっている。2013年は 開花が早かった。葉は開花と同時に展開しだす。

昔の 太い幹の様子      2000.4.22.
名札の幅が 25センチなので、幹の太さは 約 18センチあったことになる。
若い幹     2013.5.25.

昔の枝の様子       2000.4.22.
当然 今よりも太い枝があった。


冬 芽              2017.3.16.
頂芽は葉芽で、丸い大きな側芽は花芽の可能性が高い。
右写真:頂芽が裸芽のように見えることがあるが、これは高出葉が残ったもの。
高出葉の内部に3枚ほどの芽鱗があり、芽吹き時には低出葉も認められる。
葉の裏は白い       2011.4.15.

裏面には柔らかい毛があり、白く見える。
新 葉        2012.4.22.

葉脈が凹んでいる。
浅い鋸歯
葉脈のパターン

花の様子        2011.4.15.
花序は前年の枝から出る。一箇所に2~4(5)個がぶら下がる。

花の詳細          2012.4.22.
合弁花で 萼も花弁も 浅く4つに裂ける。

若い実            2012.6.5.

「翼」は 4枚        2012.6.5.
子房は下位で、花柱や枯れた柱頭が残る。

熟した果実        2006.9.1.

落ちた実を並べて     2010.10.17.
長い果柄、尖った花柱、4枚の翼



黄色く色付く葉      2010.11.21.


 
アメリカアサガラ の 位 置
D9 d , E9 c 井戸の横、ロープ内

名前の由来 アメリカアサガラ Halesia carolina

 和名 アメリカアサガラ アメリカ麻殻 :
アメリカ原産のアサガラ。
  ← アサガラ 麻殻 : Pterostyrax corymbosus
アサガラも またその近縁のオオバアサガラも、実物を見たことがない。アサガラは近畿地方以西の本州、四国、九州と 中国に自生する。和名は、アサガラの材が柔らかくて折れやすく、まるで麻殻のようだという比喩による。

麻殻は 別名 苧殻(おがら)とも言い、皮を剥いだ麻の茎のことで、現在でも お盆の迎え火・送り火用に売られている。
 種小名 carolina : 原産地の一つを表している
北米東海岸中南部 カロライナのことで、州名としては ノースカロライナ・サウスカロライナの2州がある。

学名はラテン語であり、事典には ローマ字読みに近い「ラテン語読み」がカタカナで載っている。carolina は 普通なら「カロリナ」となるところだが、属名もあわせて英語読みされて、ヘイルジア・カロライナ となっている。本種の原産地、命名者、顕彰された属名の人物ともに 英語圏だからだろう。
 属名 Halesia ヘイルジア : 人名による
イギリスの聖職者にして科学者、Stephen Hales ヘイルズ (1677-1761)を顕彰したもの。ヘイルズは植物学でも活躍したという。
Stephen Hales
Wikipedia より
 
命名者は、同時代のイギリスの自然科学者である Jhon Ellis エリス (1710頃-1776)で、ヘイルズより30才ほど歳下である。エリスはアメリカに渡り、珊瑚や食虫植物に関しての本を出版している。
植物学に関して ヘイルズから教えを受けたのかもしれない。なお、エリスはリンネと親交があり、Halesia の属名は、リンネが代わりに記載した。
現在の植物名規約には合っていないのだが、保留名 nomina conservanda (英語 conserved name) に指定されて、正式に使われている。
 エゴノキ科 Styracaceae、属名 Styrax : はっきりせず
一説によると エゴノキ属のある種の 古代ギリシア名にちなむと言われている。
 英語名、中国名 : silverbell-tree、銀鐘花
白い花を「銀の鈴」になぞらえたもの。中国には同属の種として Halesia macgregorii Chun. が自生しているが、1925年に記載されたもの。このため、属名はそれ以前に、英語を訳して命名されたものと思われる。
 

アメリカアサガラに関連した学名の 命名経緯

属名 Halesia が保留名となっている経緯や、命名者のエリスが付けた種小名などについて調べてみた。

命名年 和 名 学 名 命名者 備 考
1753  アカネ科
  ハテルマギリ属

 Guettarda  リンネ
Guettarda speciosa L.
アメリカアサガラとは無関係
Wikipedia より

 
1756  アカネ科
  ハテルマギリ属
Halesia  P. Browen
すでに リンネが名付けていた Guettarda属を、後からHalesia とした
ため、無効。(異名)
1759  アメリカアサガラ属  Halesia  エリスex.リンネ 保留名
Halesiaは、1756年に記載されて無効となっているため、規約上は無効。
しかし、これが長く使われていたため、近年に保留名とされた。
1759  アメリカアサガラ  H. carolina  リンネ リンネが『自然の体系 第10版』に記載した。正名。
(カロライナ産の)
1761  アメリカアサガラ  H. tetraptera  エリス (4翼の)
リンネが記載した2年後に、エリス自身が別の種小名で記載したが、
後からの命名であるため 異名。
1761  なし  H. diptera  エリス (2翼の)
翼が2枚の別種に命名したもの。 正名。
1762  なし  H. diptera  リンネ Halesia diptera Ellis.
次の年にリンネも同名で発表したが、
当然ながら 異名。
Wikipedia より
解説・推察:
アメリカに渡っていた、あるいは行き来していたエリスは、スウェーデンの植物学者 リンネと親交があり、アメリカアサガラの事を知らせていたものと思われる。リンネがアメリカアサガラを『自然の体系 第10版』(1759) に記載するにあたって、この新しい「属名」を ヘイルジアに捧げたいとしていたのであろう。
しかし、アメリカアサガラの学名に関しては、エリスの名はあがっていない。(ex. Linne とはなっていない。)
エリスは アメリカアサガラ だけでなく、果実の翼が2枚の H. diptera も発見していて、1761年に両者を記載している。
リンネは遅ればせながら? 翌年に同じ学名で記載したが、無効。



植物の分類 : APG II 分類による アメリカアサガラ の位置
エゴノキ科は、クロンキストの分類ではバラ亜鋼よりも前に位置付けられた「カキノキ目」にあったが、APG分類では ずっとあとから分化した場所に変更された。分類された「ツツジ目」そのものも、以前はエゴノキ科と近い位置にあった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所 カキノキ目  アカテツ科、カキノキ科、エゴノキ科、ハイノキ科
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
 ツツジ目  サガリバナ科、ツバキ科、サカキ科、カキノキ科、エゴノキ科、など
エゴノキ科  エゴノキ属、アサガラ属、アメリカアサガラ属、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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