バショウ 芭蕉
Musa basjoo Siebold et Zucc.(1830)
科 名 : バショウ科 Musaceae
属 名 : バショウ属 Musa Linn. (1737)
英語名 : Japanese banana
原産地 : 中国南部とされる
用 途 : 観賞用として植えられる。
葉の繊維から布や紙を作る。
葉や根を煎じて利尿・解熱薬にする。


樹木ではないが、高さ 4 〜 5m になり、東京でも越冬する耐寒性のある単子葉植物の多年草である。正門をはいって すぐ左手にある。

@ : バショウの林  2010年10月10日
葉の基の部分「葉鞘」は何重にも巻重なり、茎(偽茎)を作る。

@ : 同じ場所の冬の姿  2009年2月8日
株を切らないと 寒さのために枯れた葉が汚らしいが、茎は生きている。
根 元 新 葉

地際で直径 25cm

中央の円筒形の葉。

A:葉の様子
分類標本園内 北の端の株。葉は強風が吹くと切れてすだれ状になる。

2010.10.17             花 と 実             2008.1.4
バショウ属の花は地下から茎(偽茎)の中心を通って出てくる。
花序の基の方には雌花が付いて実が生るが、後半の花の雌しべは子房が退化していて不稔である。雌花と雄花の咲く時期が異なるため、1本の「木」では実が生らない。
左の花序ではまだ雌花が咲いている。 右はすでに雌花は咲き終わって、実が生っている。 咲いているのは雄花である。

開花中の雌花       2014.6.18.
苞の下で開花中の花を見ると、しっかりした四角い黄緑色の子房があることがわかる。その左では房が大きくなりつつある。

開花中の雄花       2014.6.18.
前掲写真とは別の花。すでに雌花は終わっていて、咲いているのは子房が退化して透き通った状態の雄花。苞の陰だが、果実は太くなってきている。

         花序を真下から見上げる    2010.10.17
10月17日だが、遅くに花序が出てきたために 秋に花を見ることができた。花の一群は「苞」に包まれており、次から次へと咲いていく。 

雄 花        2010.10.17.


ある冬、植物園の係員が作業しているところに居合わせ、花序を1本貰うことができた。

実はまだ 真っ青だったので、家に持ち帰って 1ヶ月半 水栽培で追熟した。「バショウの実も食べられる」と聞いていたからだ。

花の写真はすぐに撮ればよかったのだが、これもそのままにしてしまった。

苞 と 雄花
1ヶ月半も放置したので、花弁部分が黒ずんでしまった。
花は上下2列になっていて、18個 あった。 
全体の長さ 約 5cm。長い黄色い部分が 5本の雄しべの葯である。雌しべも形としてはあるが、子房が退化していて実は生らない。

花序の 縦断面

横断面  直径 約8cm
初めに縦に切ったものを合わせてある。外側が花の上の方の断面、中にいくに従って花の基の方の断面になっており、白い子房が並んでいる。
花の落ちた跡
花軸には 螺旋状に付く 苞+花 の痕跡がくっきりと残る。

それなりに 熟した実
黒くなったものには種子が・・。若い実の中の種子は成熟していない。どの事典にも 「バショウの実はタネが多くて食べられない。」と書かれている。
ところが、
熱川バナナワニ園の清水さんの報告 (同園友の会会報) によると、完熟すれば食べられるそうで、味もまずますとか。

そこで、黄色くなったものは ちゃんと皮がむけたので食べてみた。しかし 木で熟したものでないためか、えぐくてとても食べられなかった・・・。

 
バショウ の 位 置
写真@ : F15 a 70番通り すぐ 左側 多数
写真A : E9 c 分類標本園内 数株
D15 a 立入り禁止区域内
F5 c 70番通り左側、奥のトイレの先

名前の由来 バショウ Musa basjoo

バショウ 芭蕉 : 意味は不明
種小名 basjoo :
平安時代には渡来していたと考えられており、シーボルトが basjoo という学名を付けたために、英語名は Japanese banana と呼ばれているが、原産地は中国のようである。

「バショウ」は漢名「芭蕉」の音読みであるが、事典には「芭蕉」の意味そのものの解説はない。
漢和辞典を引くと、「蕉」にはやつれるという意味があり、バショウの葉が破れやすいことと関係がありそうだ。

Musa 属 : 人名による
バショウ 科 Musaceae :
初代ローマ皇帝アウグスツスの侍医 ムサ(A. Musa 紀元前64-全14年)にちなむ。 別の説としては、バショウのアラビア名に由来するという。
『園芸植物大事典』による

 
 トピックス 1

バショウの年輪 ?
バショウは多年草ではあるが、茎が木質化することはない。 
もちろん年輪があるわけもない。
バショウの茎の断面
2006年の暮れ、小石川植物園入口近くのバショウ群は、数本を残して 根元からバッサリと切られた。
 
その断面は、ネギやタマネギと同じ理屈なのだが、まるで「年輪」のように見えた。
 
その中で、花を咲かせた株は中央に太い「花茎」が残っていた。
 
バショウの花序が、地中から伸びてきた証拠である。
 

 
大きな面積を占める「花茎」 花の咲かなかった株

 

2007年春、なかなか新しい芽が出てこないと思っていたところ、2週間行かなかったあいだに変化が起きていた。
バショウの新芽  2007年5月19日


新芽といっても、もとの株の中央から出てきたもの。
しかし、昨年花茎が伸びた株からは芽が出てこない。

 
 トピックス 2

色とりどりの バショウ科
小石川植物園には路地で越冬する「バショウ」しか植えられていない。
熱帯性の種の多くはは温室で栽培される。
バショウ科の花そのものは目立たないが、苞の色が様々で美しいので紹介したい。

まず 極めつけはピンク色の美しいバショウ。


バラバショウ(仮名): Musa ornata Roxb. (1824)
京都府立植物園 温室 2007.5.13
この色の取り合わせ! あまりの美しさに、しばし見とれていた。

バショウ類の花序は茎の上部から出てきたあとに、下向きに垂れ下がることが多いが、このバショウは実が大きくならないのか、直立したままである。
咲いているのは雌花が退化した雄花群で、雌花は咲き終わって下の方に短い実が生っている。

なお 名札には「Musa rosacea Jacq.」とあったが、どうも 間違いのようだ。
和名がなかったので、名札の種小名 rosacea の意をくんで「バラバショウ」とした。 色がピッタリだったためである。
 

バナナ Musa acuminata Colla の一品種
京都府立植物園 温室 2007.5.13
世界中で様々な種が食用バナナとして栽培されているが、acuminata の系統が一番多いようだ。
茎(疑茎)が黒くなる特徴がある。
房の重さに耐える花茎の太さは、4cmぐらい。


センナリバナナ
    Musa chiliocarpa Backer ex. K. Heyne (1922)



前出の Musa acuminata の特異な型 ということであるが、次から次へと雌花が咲いて、小型の果実がたくさん付いている。

粉をふいたような苞の表面とは違い、内側のつややかな赤紫色が美しい。
伊豆熱川バナナワニ園 温室
2006.11.4


フイリバナナ Musa×paradisiaca Linn. 'Koae'
花は終わっていたが....。
伊豆熱川バナナワニ園 2006.11.4
バナナワニ園"秘蔵"の「フイリバナナ」。なにしろ、ハワイの王族しか食べられなかった門外不出のバナナである。
葉の「斑」も美しいが、果実にまで縞模様がはいるところがポイント。

そして「最高に美味」だとか....。


Musa cv. ' Pisang Seribu '
濃い緋色の苞に包まれた雄花群。

 
奄美大島 奄美アイランド植物園 2007.4.9
実の様子はセンナリバナナと同じような感じ。

並んでいる雄花の説明 :
黄色いのが花被片で、3枚のがくと2枚の花弁が合着したものが雄しべを囲んでいる。さらにもう1枚が内側にある。

右の写真は、その花被片を持ち上げて開いた状態にした。
5本の緋色の雄しべの中央に白い雌しべが見えるが、子房は退化している。


バショウ属と近縁の ムセラ属「チユウ(チヨウ)キンレン」は小石川植物園に植えられているので、別項で取り上げる。

チユウキンレン Musella lasiocarpa C. Y. Wu (1978)
小石川植物園 左2004.9.11 右2007.5.19

 トピックス 3

コバルト・ブルーに包まれた種子
バショウ科とは近縁のストレリチア科であるが、名前が「オウギバショウ」であることから、取り上げたい。国内では温室で育てられているが、温室では花や実を見たことがない。その種子が素晴らしい色をしているのだ。
オウギバショウ 扇芭蕉
Ravenala madagascariensis J.F.Gmel. (1791)
左はまだ小さいもので 高さ4〜5m。 芭蕉に似た葉が2方向にしか出ないので、扇状になる。 右の写真の葉の間にあるのが花である。

熟して開いた果実


種子は黒いのだが 正確には仮種皮(かしゅひ) が青い色をしている。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ