イヌビワ 犬枇杷
Ficus erecta Thunb. (1805)
科 名 : クワ科 Moraceae
属 名 : イチジク属 Ficus Linn. (1737)
原産地 : 関東以西の本州、四国、九州。
朝鮮半島南部、台湾
用 途 : 特になし。
『花と樹の大事典』によると、実を子供が食べる。 若芽が食用になることもある。 葉は家畜の飼料となる。とあるが、いずれも過去の話と思われる。

小さなイチジクのような実を付けるイヌビワは繁殖力が強い。 鳥が食べて糞を落とすためか、園内いたる所で新たに生えた幼本を見かける。
@ : 林辺で横に広がる樹形 高さ 2.5m

 
A : 林内では あまり広がれない 高さ 2.7m

幹の様子
灰白色の特徴ある幹。
@の木は斜面に生えていて、幹がほぼ斜面に垂直になっている。

新緑時の様子 2009.4.18
新宿御苑
 
A : 葉の様子
ビワの葉とは違う・・・・。
 
           色付いた @ の木      2008.12.7
黄葉は遅くなってから。  このあと 落葉する。

 B:花 ? それとも 実 ?
分類標本園のもの。 枝が弧を描いて横に伸びていく様子がわかる。

イチジクの形は、花床が内側にくぼんで壺状になったもので、花時は「花嚢」と呼び 花が終わると「果嚢」となる。 どちらも「かのう」であるが、外観でははっきりしない。 熟すと赤みがかかる。
ほぼ一年を通じて付いている実の大きさは、大きくても25mm程度。
 
花の様子
イヌビワは雌雄異株であるが、これはどちらの「花」かはっきりしない。
雄花だろうか。

 
イヌビワ の 位 置
写真@ : F13 c 60番通り 右側斜面
F12 a 60番通り 右側斜面
写真A : B6 b 10番通り 右側、標識15の手前
E7 a 40番通り 右手
写真B : E11 a 分類標本園内、売店側から3列目右側
その他 園内各所

名前の由来  イヌビワ Ficus erecta

イヌビワ : 「劣ったビワ」の意味。
正確には、「ビワに似ているが、ビワより劣っている」という意味になる。

イヌを冠する植物はたくさんあるが、「イヌ」はもちろん動物の犬ではなくて、「元の植物・本家に比べて劣っている」あるいは「役に立たない」という意味で使われている。

それはともかくとして、何がビワに似ているのか?
まずは両者の葉を較べてみよう。
イヌビワの葉 ビワの葉


イヌビワの葉は先の尖った「楕円形」で、普通の葉の形である。鋸歯もなく無毛ですべすべしている。
ビワの葉は「狭い楕円形」。一面に毛が生えており、粗い鋸歯があって表面は凸凹している。
ご覧のように全然似ていない。

やはり似ているのは「実」とすべきであろう。
実の形がビワに似ているが、食べるほどのものではない、ということである。  実際に食べてみたことがあるが、まだ熟していなかったためか、まずくて食べられなかった。

個人的には、イヌビワ の別称の一つ「イチジク」が適切であると思う。
 
種小名 erecta : 「直立する」という意味。
イヌビワの実(花の集まりで、果嚢という)は葉の腋に付く。
垂れ下がることもあるが、普通は長い果柄で上向きに付く。
これが erecta の由来であろう。
 
 
Ficus イチジク属 無花果属 :
Ficusはイチジクのラテン語の古名に由来しているというが、その古名や意味は不明である。
世界の熱帯から暖帯まで約 800種ある。
 
イチジク Ficus carica Linn.
「イチジク」の和名の由来は、ペルシア語 anjir を音訳した漢名「映日果」(インジェクオ) がイチジクに転訛したものである。 『花と樹の大事典』

漢字の「無花果」は中国名で、それを「イチジク」に当てている。
無花果は、イチジクの花が外からは見えない「花嚢」の中にあり、そのまま果実となるところから名付けられた。
イチジクの実 イチジクの葉

左の写真の実はまだ青い。
実の付き方はイヌビワと同じだが、果柄はほとんどない。
 
クワ科 Moraceae : mor (黒の意) から。
クワに対するラテン古名に由来する。そのもともとの語源はケルト語の mor で、熟した時の黒いクワの実にからきている。
 
アカグワ
日本には6種ものクワが自生しているが、種類を特定できている写真がないため、外国産の写真を載せる。
Morus rubra Linn. (1753)
アーノルド植物園

植物の分類 APG II 分類による イヌビワ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所 イラクサ目  イラクサ科、アサ科、クワ科、ニレ科、など
 (イラクサ目はなくなる)
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ブナ、など
バラ目  バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、アサ科、クワ科、など
クワ科  パンノキ属、カジノキ属、イチジク属、クワ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ
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