ビワモドキ 枇杷擬き
Dillenia indica Linn. (1753)
科 名 : ビワモドキ科 Dilleniaceae
属 名 : ビワモドキ属 Dillenia L.(1753)
原産地 : インド、タイ、マレーシア
英 名 : elephant-apple
中国名 : 五椏果
用 途 :

花と葉を鑑賞するために栽培される。
インドでは、酸味のある果実を食用とする。『植物の世界』
撮影地 :
小石川温室、シンガポール
ドミニカ共和国 、ほか


新設された温室で鉢栽培されている。高さ 約 2.5m。このサイズでは、開花や結実はいつのことになるかわからない。
小石川 温室 第2室


2006年にサント・ドミンゴ植物園で 初めて実が生っているところを見たあと、熱帯の植物園で何度も出会ったが、一度も花を見たことがない。

樹 形
シンガポール植物園。大きくはなく、高さ 約 5m。

インドネシア ボゴール植物園。赤茶色の割れ肌が特徴。

葉の大きさは様々だが、大きいものは長さ40cm、幅15cmになる。
表面にはつやがあり、ギザギザのはっきりとした鋸歯。葉脈が目立つところは「ビワ」に似ているが、非常に薄手である。

果 実
直径約 12cm の実は細い枝の先に一つずつ付く。肥大した萼に包まれていて硬い。

落ちていた実
出張中の時、中の様子を知りたくて落ちていた実を「解剖」した事がある。萼はしっかりと重なり合っている。若い実だったためか非常に硬く、小さなナイフで削り取るのに苦労した。
次の写真は 4枚の萼をすべて取り去り、最後の5枚目も一部を切り取った状態である。
上から 横から
中央に菊の花のように残っているのが「雌しべ」、果実の周囲に残っているのが「雄しべ」である。落下することなく そっくり残っているのは、開花・受粉後、たちまちのうちに萼が閉じて花を包み込むためである。ただし花弁は散ってしまう。

開花時の様子を示すのに本種の写真がないので、参考に同じ属の「フィリピンビワモドキ」(仮称)の花を掲げる。
Dillenia philippinensis Rolfe (1884)

京都植物園の温室

 


地植えされている
名前の由来 ビワモドキ Dillenia indica
ビワモドキ:ビワに似ている の意
ビワモドキの葉のサイズと形、葉の付き方、表につやがあって裏にはないところなど、全体としてビワに似ているが、並べてみると違いが目立つ。
ビワモドキの方が葉が薄く、しなやか。また葉脈の数がビワよりも多く、鋸歯の尖り方も鋭角であるために、そっくりというわけにはいかない。あくまで「モドキ」である。
ビワモドキ ビワ

 
種小名 indica:インドの
原産地(のひとつ)を表している。
 
Dillenia ビワモドキ属 :
18世紀ドイツの植物学者で、オックスフォード大学の植物学教授となった J. J. Dillenius (1684 - 1747) を顕彰して、リンネが名付けたもの。
リンネ(1707-1778)と同時代の人で、オックスフォード時代には 1ヶ月ほど、リンネと共に研究した。
『Wikipediaより』
 
ビワモドキ  ←
 ビワ (枇杷):Eriobotrya japonica Lindley(1822)
← Mespilus japonica Thunb. (1784)
バラ科ビワ属。ビワの原産地は日本と中国である。日本でも奈良時代から果実を利用していたようだが、現在栽培されているビワの元は、江戸時代末期に中国から入ってきたものである。
一般的にビワの名の由来は、実の形が楽器の「琵琶」に似ているためと言われている。

詳しい記述については「ビワ」を見ていただきたい。
 種小名 japonica:日本の という意味
1775年に来日したツュンベリーが、日本で採取したビワに対して名付けたものである。その時に分類した属名は Mespilus属 / セイヨウカリン属だった。


植物の分類 : APG IV による ビワモドキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている。 以下は主な 目(モク)
基部被子植物: アンボレラ、スイレン*1、アウストロバイレア(シキミ*2)
モクレン類: カネラ、コショウ、モクレン*3、クスノキ
独立した系統: センリョウ
.単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ*4、ヤマモガシ、ヤマグルマ*5、ツゲ
コア真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ*
ビワモドキ目  ビワモドキ科・ビワモドキ属
バラ上類: ユキノシタ
バラ目 群: ブドウ
マメ 群: ハマビシ、マメ、バラ、ブナ、 ウリ
未確定群: ニシキギ、カタバミ、 キントラノオ
アオイ群: フウロソウ、フトモモ、ムクロジ、アオイ、アブラナ、など
キク上類: ビャクダン、 ナデシコ、など
キク目 群: ミズキ、ツツジ
シソ 群 : ガリア(アオキ)、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、キク、セリ、マツムシソウ、など
後から分化した植物(進化した植物)  * は以下に参考写真を載せたもの
 

トピックス 原始的な花の特徴
花の各器官は胞子葉・葉が変化したものとされ、萼片・花弁・雄しべ・心皮などを総称して「花葉」と呼ぶ。
初期に分化した植物は、単一雌しべ(単心皮)が複数ある「多心皮類」であることが多く、軸の周りに多数の雄しべ・雌しべ・花被が螺旋状・輪生状に並ぶのが特徴である。
以下に、ビワモドキとそのほかの例を示す。

ビワモドキ属の花の構造 ビワモドキの果実
ビワモドキは 他種との類縁が少ない、1目・1科・1属という特殊な植物。離生心皮の子房が輪生状に並んでいる。雄しべも柱頭もそのまま残存。

参考 1:スイレン科 スイレン

園芸種 Mrs.Edward Whitaker
被子植物の中では最も早くに分化した植物のひとつで、萼片と花弁や 花弁と雄しべの分化が不完全。

参考 2:マツブサ科 シキミ属 シキミ
早落性の苞葉に続く萼片と長い花弁との間に、中間的な花被片がある。複数の単心皮が輪生状に癒合しているが、離生心皮である。
王冠型の果実は、スイレンの開花時の子房や柱頭の形によく似ている。

参考 3:モクレン科 ハクモクレン
モクレン類の花被片は3枚。ハクモクレンは外花被(c1〜3)が多少細長いものの内花被との区別がほとんど無く、萼として分化していない。多数の離生する雄しべや雌しべが、軸の周りに螺旋状に付く。右写真下部は、雄しべの一部と花弁を取り除いてある。

参考 4:キンポウゲ科 セリバオウレン
複数の単心皮(単一雌蕊)が輪生状に離生する 多心皮類。

参考 5:ヤマグルマ科 ヤマグルマ
花序の形は違うが、それぞれの花は複数の単心皮が輪生状に並んだ離生心皮で、シキミの果実にそっくり。ただし、シキミの種子は各1個なのに対して、ヤマグルマには多くの種子がはいっている。
心皮の側面同士が癒合していて、合生心皮なのかどうかが判りにくいが、種子散布時に心皮ごとに内縫線(腹側)で裂開することがポイントのようだ。


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