ボ ケ 木 瓜
Chaenomeles speciosa Nakai (1929)
← Cydonia speciosa Sweet (1818)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : ボケ属 Chaenomeles Lindl. (1847)
            nom. cons.
中国名 : 皺皮木瓜 zhou pi mu gua
原産地 : 中国、ミャンマー
用 途 : 平安時代に渡来したとされ、庭木として栽培される。


園内には 何カ所かにボケと思われる木があるが、名札があるのは 梅林附近の一株だけである。
ところが、その木の花は「八重」で、原種ではないようだ。

               @ : 八重咲きのボケ          2011.4.9

   2011.4.9                     花の様子 と 名札

A : 梅林あずま屋近くの 一重のボケ     2014.5.1
手前中央がボケ。 奥の明るい所に あずま屋がある。

名札はないが、これは一重。

  B : 別の場所の ボケと思われる 花               2011.3.30


場所は 下の段 標識47番の所。 
ミズカンナ池とハナショウブ池を区切る橋の、
すぐ近く、ハゼノキの足元。 名札無し。
事典にも書かれているが ボケには実が生りにく いそうで、園内でボケの実を見た記憶がほとんどない。

若葉 と 托葉             2014.5.1
一対の托葉はそれぞれ半円形以上に広がり、主軸を取りまく。

枝が変化した トゲ
秋に葉は落ちても トゲは何年間も残る。

@ : 新緑の時期            2012.5.18

史蹟 小石川植物園 に残された昔の基礎石   2014.4.10
右奥の赤い花が ボケ
ボケの周りに四角い石が散乱している。 これは日本庭園の西側に建っていた昔の「集会室」の基礎石で、明治時代末から昭和31年(1956年)までの1万分の1地図には、建物の姿( 印)が載っている。 
1921年(大正10年)の地図
「早稲田」の部分、国土地理院/ 地図サイズ 400 × 195 ドット


 
ボ ケ の 位 置
写真@ : F5 a
70番通り突き当たり、標識26番の奥
写真A : F5 ac 70番通り、梅林のあずま屋の位置 左手
写真B : E6 ac 40番通り 評議47番、ハゼノキの足元
現在は刈り込まれて 背が低い
        そのほか 園内数カ所に。

名前の由来 ボ ケ Chaenomeles speciosa

ボ ケ : 中国名から
「木瓜」の現在の中国語の音は、mu gua ムーグア。 日本語では ボクカ、モクカ、モッカ などとなる。 これらが転訛して「ボケ」となったもの。 木瓜 を一般名称ととらえれば、これでよい。

というのは、『園芸植物大事典/小学館』では 中国名「木瓜」は、マボケ Chaenomeles lagenaria と カリン Pseudocydonia sinensis の両方に当てられているが、肝心の「ボケ」の項には中国名の表記は無い。

一方、ハーバード大学によるデータベース『eFloras.org / Flora of China』 では、木瓜 はカリンに当てられているのだが、その学名は Chaenomeles sinensis であり、Chaenomeles属 ・木瓜属は、カリン属ということになる。 では本種 ボケ C. speciosa はというと、 皺皮木瓜 zhou pi mu gua となっている。

種小名 speciosa : 美しい という意味
最初の命名者はイギリスの植物学者・園芸家・鳥類学者だった スウィート Robert Sweet (1783-1835) で、1818年に Cydonia属 マルメロ属 として記載した。
「美しい」のは花だろうが、その根拠がわからない。 現在のマルメロ属は マルメロ Cydonia oblonga 一種しかないが、本種の命名当時にはいくつかの種が マルメロ属として分類されていた。
命名年 学名 和名 命名者 現在の学名
1754  Cydonia  マルメロ属  ミラー   同 左
1768  C. oblonga  マルメロ  ミラー   同 左
1806  C. japonica  クサボケ  パースーン  Chaenomeles japonica (1834)
1806  C. vulgaris  マルメロ  パースーン  = Cydonia oblonga
1812  C. sinensis  カリン  ソウイン  Pseudocydonia sinensis (1906)
1815  C. lagenavia  クサボケ  Loiseleur  = Chaenomeles japonica (1834)
1818  C. speciosa  ボケ  スウィート  Chaenomeles speciosa
      C.は Cydonia の略
ボケの命名時点で対象になったのは、マルメロ、クサボケ、カリン の3種である。 それぞれの花は みな美しい。 ボケが更に美しいかどうかは、個人的な見解となろう。
マルメロ クサボケ カリン
Wikipedia より 小石川植物園 分類標本園 小石川植物園
後に、マルメロ以外はほかの属に分類変更された。

Chaenomeles ボケ 属 :
ギリシア語 chaino( 開く、開ける ) + melon ( リンゴ )で、果実が裂ける、割れ目ができる と信じられていたため、だそうだ。
                       『園芸植物大事典/小学館』
果実の写真は「宿題」である。


Chaenomeles の 命名物語

『園芸植物大事典/小学館』では ボケ属の学名を Choenomeles とし、Chaenomeles を異名としているが、一般的には 後者 が使われており、GRIN で 保留名となっている。 

命名年 学 名 和名 命名者
@ 1780  Pyrus japonica  クサボケ  チュンベリー
A 1818  Cydonia speciosa  ボケ  スウィート
1822  Choenomeles  ボケ属  リンドレイ  本来の 正名
 Choenomeles japonica  クサボケ  同 上  @ を訂正、クサボケの本来の正名
1847  Chaenomeles  ボケ属  リンドレイ  現在の正名
解説 :
リンドレイは『英国の植物』という著作で、新たに多くの属名を記載したが、その中に すでに
自身がたてていたボケ属 Choenomeles と一文字違いの Chaenomeles があった。
後に、新しい方の属名が普及してしまったため、これが保留名とされた。
1929  Chaenomeles speciosa  ボケ  中井  A を訂正、現在の正名




植物の分類 APG II 分類による ボケ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所  バラ目  トベラ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 バラ目  バラ科、グミ科、ニレ科、アサ科、クワ科、イラクサ科、など
バラ科  モモ属、サクラ属、リンゴ属、 ボケ属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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