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科 名: | ツバキ科 Theaceae、チャノキ連 | |||
属 名: | ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属 サザンカ節 |
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中国名: | 越南油茶 yue nan you cha | |||
原産地: | 中国南部、ベトナム | |||
用 途: | 種子から油を採取 | |||
備 考: | 採油植物として古くから栽培されていたため、ある植生が自生なのか、栽培種が逃げ出したものかがはっきりせず、原産地は不確かということである。 | |||
「Flora of China」による |
本種は サザンカが属する サザンカ Oleifera 節で、サザンカと同様に子房に毛があるのが特徴のひとつである。 別名を付けるとしたら ベトナムサザンカだろう。 |
樹 形 2024.8.25. |
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ツバキ園の奥、この右手前に「精子発見のイチョウ」、左側にトイレがある。高さ3m強。 |
満 開 2025.2.16. |
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満開と言っても一度には開花せず、まだまだ蕾がある。 |
2013年の 樹形 2013.3.8. |
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前掲写真よりも少し左寄りの位置から。この時の樹高は 2m程度だったが、現在は高さ・横幅とも大きくなっている。 |
樹木の基部 |
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色は淡い茶色。遠目には滑らかに見えるが、サンドペーパーのようにざらついている。右側の太い主幹には苔が付いている。 |
花のつく位置 2012.1.11. |
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花は頂芽だけでなく、下位の腋芽にも多数つく。12月から咲き始めるが、時間差で咲くために花期が長い。 |
花は冬芽の芽鱗の腋につく 2012.2.21. |
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小さな芽鱗の基部につくため、写真を撮りにくい。咲き終わった花がある一方で、まだこれから大きくなる蕾がある。 |
苞 と 萼 2012.2.21. |
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蕾の基部の茶色いものが苞片、その内側の頂部が薄茶色や黄緑色の花被片が 萼に相当する。この後 白い花弁が伸び出す。 |
花 2013.3.8. |
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花弁は5枚のことが多く、先端が2裂する。サイズは 径6cmから大きなものは8cm。 |
2025.1.26. |
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前掲写真のような細長い花弁よりも、むしろ幅広が一般的。 |
花を横から 2025.2.16. |
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真後ろからは取りにくいため、横から。苞と萼を区別しにくいのは、ツバキ亜属の特徴のひとつ。 |
サザンカの葉との比較 2024.8.25. | 葉 裏 |
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![]() 明るい黄緑色。中肋だけが目立つ。 |
緑が濃いのが、落ちていたサザンカを並べたもので 長さ 7cm。表から見た時に鋸歯が目立たないのは、葉縁が裏側に折れ曲がっているため。 |
花のつく位置 2024.8.25. |
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ほとんどの事典では 茎頂 や 葉腋 となっているが それは間違いで、それぞれの芽の芽鱗の腋につく。ここでは2個ずつついている。前掲右写真のように、下位の腋芽につくことも多い。 |
トンキンユチャの 位 置 |
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B10 c | ● | 精子発見のイチョウの右、トイレの手前 |
名前の由来 トンキンユチャ Camellia drupifera | |||
和名:トンキンユチャ 東京油茶 | |||
以前の名札は学名の仮名書きだったが、最近新しくされたものには、ベトナム北部地域およびハノイの旧名「トンキン」の名が付いた。GRIN の自生地を見ると 中国南部のいくつかの省とベトナム で、中国から続く地域とするならば「ベトナム北部」となろう。 | |||
和名を「アブラツバキ」としているケースが多い。確かに油を採るツバキのひとつだが、これは 「ユチャ C. oleifera」の別名であり、本種に使うと混乱の元になる。 | |||
種小名 drupifera: 核果の | |||
これがわからなかった。 核果は「(本来)1心皮・1種子を含み、内果皮が木質化して核となったもの」であり、命名者 ルーレイロが間違えたとしか思えなかった。ツバキ類は複数の心皮があり裂開する「蒴果」である。 ただし、まだ本種の果実を観察したことがない。また、検索しても画像が出てこない。もし本種の果実が裂開しないのなら、蒴果とは言えないかもしれない。 |
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ルーレイロの記述を見た結果、彼は「クルミのような硬い果実」として使っていることがわかった。 | |||
João de Loureiro (1717-1791) はポルトガルの宣教師で 医師、植物学者。宣教師としてインド、マカオを訪れ、その後コーチシナ(現在のベトナム南部)に35年間滞在した。1781年頃に帰国して『コーチシナの植物 Flora Cochinchinensis』(1790) を出版した。 |
本種の記載はその第2巻 411ページ。ツバキ属の記載は1種だけで、以下が全文。 |
drupis、Drupa (緑の下線、各1カ所) は単に〈果実〉の意味で使われているようで、「堅果には溝があり、4室」と明記しているので、現在使われている 核果 の認識とは違う。そして「果実はクルミと同じ形、大きさは様々で食用になる」とある。 |
なお、生育地(採取・観察)はコキンシナ、ベトナム南部だが、栽培品となっているので和名の候補とはならない。 |
ルーレイロが観察した個体の柱頭・子房は「4本・4室」で、小石川植物園の柱頭 3本とは異なっている。しかし、本種は変異が多いようで、データベース「Flora of China」の記述に拠れば、子房は3~5室となっているのでOK。 | |
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属名 Camellia:人名による | |
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。 |
中国名 越南油茶 yue nan you cha: | |
ベトナム油茶 である。 ユチャ C. oleifera は、その名の通り種子から油がよく取れる。その分類は本種やサザンカと同じ サザンカ節 Oleifera 節に属し、ごく近縁である。 |
参考:混乱していた学名 | |
筆者が参考にしている GRIN には特にコメントはないが、本種の学名については、ふたつの「ノート」がある。 | |
・「Flora of China」 本種の項 後半のコメント | |
Camellia drupifera の身元(独自性)は、長い間不確かなものだった。ユチャ C. oleifera(1818) やトガリバサザンカ C. kissi(1820) よりも古くに名付けられたにもかかわらず、ずっと両者のどちらかと同種の可能性があると考えられていた。 ルーレイロは、本種の実(capsul、"Drupa")が4室で花柱も4本あり、前記のどちらとも違うことを特徴付けていると主張した。ルーレイロが述べたこれら全ての特徴は、採油植物として栽培されていることとあわせて、C. gau- chowensis 、C. vietnamensis (ふたつは同種)と一致する。 |
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本種の「タイプ標本」は存在しないが、ルーレイロの記載はコーチシナで栽培されている植物を観察したもの。 この学名をはっきりとしたものにするために、我々は次の名前の新しいタイプ標本を定めた。 |
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Camellia drupifera Loureiro, Fl. Cochinch. 2: 411. 1790. TYPE: China. Guangxi: Liucheng Xian, Satang Forest Station in cultivation, Jul 1956, Huang Tso- Chieh [Huang Zuo-Jie] 2042 (neotype designated here, PE) based on the holotype of C. vietnamensis T. C. Huang ex Hu (Acta Phytotax. Sin. 10: 138. 1965). | |
・Yリストのノート | |
Sealy (Rev. Gen. Camellia 1958)では、この学名のタイプが現存せず,さらに複数の異なった種に適用されたことを考慮して,nom. confusumとして扱うことを提案している。 | |
小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ |