トンキンユチャ 東京油茶
Camellia drupifera Lour. (1790)
科 名: ツバキ科 Theaceae、チャノキ連
属 名: ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属
          サザンカ節
中国名: 越南油茶 yue nan you cha
原産地: 中国南部、ベトナム
用 途: 種子から油を採取
備 考: 採油植物として古くから栽培されていたため、ある植生が自生なのか、栽培種が逃げ出したものかがはっきりせず、原産地は不確かということである。
「Flora of China」による

本種は サザンカが属する サザンカ Oleifera 節で、サザンカと同様に子房に毛があるのが特徴のひとつである。
別名を付けるとしたら ベトナムサザンカだろう。

樹 形         2024.8.25.
ツバキ園の奥、この右手前に「精子発見のイチョウ」、左側にトイレがある。高さ3m強。
満 開          2025.2.16.
満開と言っても一度には開花せず、まだまだ蕾がある。

2013年の 樹形     2013.3.8.
前掲写真よりも少し左寄りの位置から。この時の樹高は 2m程度だったが、現在は高さ・横幅とも大きくなっている。

樹木の基部
色は淡い茶色。遠目には滑らかに見えるが、サンドペーパーのようにざらついている。右側の太い主幹には苔が付いている。


花のつく位置      2012.1.11.
花は頂芽だけでなく、下位の腋芽にも多数つく。12月から咲き始めるが、時間差で咲くために花期が長い。
花は冬芽の芽鱗の腋につく  2012.2.21.
小さな芽鱗の基部につくため、写真を撮りにくい。咲き終わった花がある一方で、まだこれから大きくなる蕾がある。
苞 と 萼        2012.2.21.
蕾の基部の茶色いものが苞片、その内側の頂部が薄茶色や黄緑色の花被片が 萼に相当する。この後 白い花弁が伸び出す。
花          2013.3.8.
花弁は5枚のことが多く、先端が2裂する。サイズは 径6cmから大きなものは8cm。
2025.1.26.
前掲写真のような細長い花弁よりも、むしろ幅広が一般的。
花を横から       2025.2.16.
真後ろからは取りにくいため、横から。苞と萼を区別しにくいのは、ツバキ亜属の特徴のひとつ。

サザンカの葉との比較   2024.8.25. 葉 裏

 明るい黄緑色。中肋だけが目立つ。
緑が濃いのが、落ちていたサザンカを並べたもので 長さ 7cm。表から見た時に鋸歯が目立たないのは、葉縁が裏側に折れ曲がっているため。
花のつく位置      2024.8.25.
ほとんどの事典では 茎頂 や 葉腋 となっているが それは間違いで、それぞれの芽の芽鱗の腋につく。ここでは2個ずつついている。前掲右写真のように、下位の腋芽につくことも多い。


 
トンキンユチャの 位 置
B10 c 精子発見のイチョウの右、トイレの手前


名前の由来 トンキンユチャ Camellia drupifera
 和名:トンキンユチャ 東京油茶
以前の名札は学名の仮名書きだったが、最近新しくされたものには、ベトナム北部地域およびハノイの旧名「トンキン」の名が付いた。GRIN の自生地を見ると 中国南部のいくつかの省とベトナム で、中国から続く地域とするならば「ベトナム北部」となろう。
和名を「アブラツバキ」としているケースが多い。確かに油を採るツバキのひとつだが、これは 「ユチャ C. oleifera」の別名であり、本種に使うと混乱の元になる。
 種小名 drupifera: 核果の
これがわからなかった。
核果は「(本来)1心皮・1種子を含み、内果皮が木質化して核となったもの」であり、命名者 ルーレイロが間違えたとしか思えなかった。ツバキ類は複数の心皮があり裂開する「蒴果」である。
ただし、まだ本種の果実を観察したことがない。また、検索しても画像が出てこない。もし本種の果実が裂開しないのなら、蒴果とは言えないかもしれない。
核果の例 オオシマザマラ
ルーレイロの記述を見た結果、彼は「クルミのような硬い果実」として使っていることがわかった。
João de Loureiro (1717-1791) はポルトガルの宣教師で 医師、植物学者。宣教師としてインド、マカオを訪れ、その後コーチシナ(現在のベトナム南部)に35年間滞在した。1781年頃に帰国して『コーチシナの植物 Flora Cochinchinensis』(1790) を出版した。
本種の記載はその第2巻 411ページ。ツバキ属の記載は1種だけで、以下が全文。

drupis、Drupa (緑の下線、各1カ所) は単に〈果実〉の意味で使われているようで、「堅果には溝があり、4室」と明記しているので、現在使われている 核果 の認識とは違う。そして「果実はクルミと同じ形、大きさは様々で食用になる」とある。
なお、生育地(採取・観察)はコキンシナ、ベトナム南部だが、栽培品となっているので和名の候補とはならない。
ルーレイロが観察した個体の柱頭・子房は「4本・4室」で、小石川植物園の柱頭 3本とは異なっている。しかし、本種は変異が多いようで、データベース「Flora of China」の記述に拠れば、子房は3~5室となっているのでOK。
 属名 Camellia:人名による
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。
 中国名 越南油茶 yue nan you cha:
ベトナム油茶 である。
ユチャ C. oleifera は、その名の通り種子から油がよく取れる。その分類は本種やサザンカと同じ サザンカ節 Oleifera 節に属し、ごく近縁である。



 参考:混乱していた学名
筆者が参考にしている GRIN には特にコメントはないが、本種の学名については、ふたつの「ノート」がある。
 ・「Flora of China」 本種の項 後半のコメント
Camellia drupifera の身元(独自性)は、長い間不確かなものだった。ユチャ C. oleifera(1818) やトガリバサザンカ C. kissi(1820) よりも古くに名付けられたにもかかわらず、ずっと両者のどちらかと同種の可能性があると考えられていた。
ルーレイロは、本種の実(capsul、"Drupa")が4室で花柱も4本あり、前記のどちらとも違うことを特徴付けていると主張した。ルーレイロが述べたこれら全ての特徴は、採油植物として栽培されていることとあわせて、C. gau- chowensisC. vietnamensis (ふたつは同種)と一致する。
本種の「タイプ標本」は存在しないが、ルーレイロの記載はコーチシナで栽培されている植物を観察したもの。
この学名をはっきりとしたものにするために、我々は次の名前の新しいタイプ標本を定めた。
Camellia drupifera Loureiro, Fl. Cochinch. 2: 411. 1790. TYPE: China. Guangxi: Liucheng Xian, Satang Forest Station in cultivation, Jul 1956, Huang Tso- Chieh [Huang Zuo-Jie] 2042 (neotype designated here, PE) based on the holotype of C. vietnamensis T. C. Huang ex Hu (Acta Phytotax. Sin. 10: 138. 1965).
 ・Yリストのノート
Sealy (Rev. Gen. Camellia 1958)では、この学名のタイプが現存せず,さらに複数の異なった種に適用されたことを考慮して,nom. confusumとして扱うことを提案している。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ