グランサムツバキ グランサム椿
Camellia granthamiana Sealy (1956)
科 名 : ツバキ科 Theaceae Mirb. nom. cons.
属 名 : ツバキ属 Camellia Linn. (1735)
中国名 : 大苞白山茶 da bao bai shan cha
原産地 : 香港の九龍半島 大帽山の山中
       『園芸植物大事典』
中国本土にも見られるという(Wikipedia)
用 途 :
 
植物園に植栽される程度で、一般には普及
していない。

ヤブツバキを代表とする普通のツバキと比べて、以下のような違い・特徴がある。
 ・本種は「原始ツバキ亜属」に分類され、
    ツバキ亜属のツバキやサザンカとは異なる
 ・大輪で 大きなものは径15cm以上
 ・ツバキは一般に5(〜6)弁が多いが、本種は7〜10弁
 ・満開時には花弁が外側に反り返る
 ・子房は5室 (ツバキ亜属は3室)
 ・雄しべの数が多く、中央に盛り上がった形となる
 ・雌しべ・子房・萼・苞、芽鱗・低出葉、
       枝・葉柄・葉裏の中肋などに毛が密生する
 ・葉脈の多くがくぼみ、裏面に突出する
小石川植物園では普通のツバキよりも早く、サザンカのように 11月から咲き始め、年末にはほぼ終了してしまう。

@ 左奥 メタセコイア、右はヒッコリー  2021.12.15.
下の段 メタセコイアの林の手前に、植えられている。
高さ約6.3m、枝張りが大きくなり、幅約5m。
なお、この木の陰にもう一本、グランサムツバキの名札を付けた木があるが、明らかに別種、名札の付け間違いである。

@ 9年前の姿       2013.1.29.

@ 20年前の姿 2000.12.16.
前掲写真からは13年前。高さは3m強だったと思われる。ここから 高さと共に幅・ボリュームが大きくなった。

A ツバキ園内        2021.12.11.
ツバキ園の温室側のフェンス沿い。高さは約 4.7m。イロハモミジ並木から撮影。


@ 幹  2021.12.11.
表面は滑らかで、径11cm強。後ろに見えるのがメタセコイア。左の茶色い幹は 実生で生えてきた別の木。

葉        2016.11.12.
表面の葉脈はくっきりと凹む。

葉裏 と 葉表       2019.1.25.
逆に 裏側に大きく突出する。葉裏は明るい緑色。

冬 芽    2016.11.2. 芽吹き   2018.4.14.
花をつけなかった頂芽と側芽。11月に早くも芽が動き出しているように見えるが、芽吹くのは春になってから。頂側芽(左写真 最上部の葉の腋芽)は成長しないことが多いが、芽吹きの写真では頂側芽(頂芽の右側)も伸びている。
芽鱗に続く数枚の高出葉は明るい黄緑色、成葉は芽吹き時には赤茶色である。

着果枝の頂芽の伸び            2018.10.25.
左写真は、着果後に伸び出した頂枝に今年 再び花をつけた例で、2年続けて花をつけることは珍しい。着果枝の頂芽は伸び出さないことが多い。伸びたとしても枝は細く、通常は右写真のように花をつけない。

できたての蕾           2022.08.18.
頂芽の第一芽鱗(最下の鱗片)の腋に蕾が発生。苞葉は初めは緑色。 左:苞葉の周囲が黒くなり始めている。

2011.11.15             花のつく位置             2018.10.25
離れた位置からは蕾が茎頂についているように見えるが、ツバキ属の花は(ほぼ)共通して頂芽の第1芽鱗の腋につく(右写真)。芽鱗が大きく押し広げられて、その基部が裂けている。
蕾の色の濃い部分は苞葉、白い部分が萼だが明確に分かれているわけではない。
頂芽に2個 腋芽の芽鱗にも
蕾は頂芽に2個つくこともある。また頂芽だけでなく、腋芽の第1芽鱗の腋につくこともある(右写真)。

.2009.11.3        花 後ろから    2021.12.15.
苞・萼と花弁は はっきりと分かれている。
この花の花弁の数は9個。平開後に周囲が外側に反り返る。

花冠と雄しべが脱落した花           2013.12.4.
苞・萼と雌しべを残して脱落する。柱頭は5裂しており、花柱や子房には細毛が密生している。
結実率はかなり低く、この花も受精していないようだ。

落下した花冠と雄しべ群            2017.12.6.
花弁とうし および花冠と雄しべ群とは基部で合着している。
中央(雌しべの周囲)の花糸は周囲のものよりも太い。

幼 果        2022.8.18.
ある程度の大きさになるまでは、苞に囲まれていて見えない。

果 実        2018.10.25.
受精から1年弱のこの果実には表面に毛が宿存。葉の裏側になってわかりにくいが、春には頂枝が伸長した。

熟 果               2021.12.21.
子房は5室で刮ハであることが確認できた。両方の写真とも頂芽は伸びていない。

種 子
地面を探し回って、ようやくいくつか見つけることができた。


 
グランサムツバキ の 位 置
@: F13cd 70番通りの右、メタセコイア林の手前
A: C10 c 10番通り右、ツバキ園内のネットフェンス間際


名前の由来 グランサムツバキ

グランサムツバキ : 人名による
本種は1955年に香港の山中で発見され、当時の香港総督 アレクサンダー・グランサム(1899-1978)を顕彰して名付けられた。


第22代香港総督
在位 1947-1957






Wikipedia より
Alexander Grantham
命名者は ヨセフ・ロバート・シーリー(1907-2000)。
イギリスの植物学者で、中国の植物相 特にツバキ属を専門分野とした。
ツバキ : 
常緑で厚手の葉が光沢がある所から、「ツヤハキ(艶葉木)」あるいは「ツヤバキ」が短縮されたもの。
古語は「ツバ」で、同じく光沢があるさまをいう。
Camellia 属 : 人名による
17世紀後半 チェコに生まれ、フィリピンで宣教活動と動植物の研究を行った Georg J. Kamel (1661-1706)を顕彰したものだが、リンネは頭文字の K を C としている。ラテン語では K を使うことがほとんどないためだと思われる。
ツバキ科 Theaceae : 
ツバキ科の基準属は Camellia属であるが、科名は ツバキ属の チャ 茶 tcha から生じた thea が保留名として使われている。
保留名となった経緯については チャ の項を参照。
中国ではツバキ属は 山茶属 あるいは茶属である。



植物の分類 : APG IV 分類による グランサムツバキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
 ツツジ目 カキノキ科、ツバキ科、ハイノキ科、リョウブ科、ツツジ科、など
 ツバキ科 ツバキ属、モッコク属、サカキ属、ヒサカキ属、ナツツバキ属、など
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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