トガリバサザンカ 尖り葉山茶花
Camellia kissi Wallich (1820)
C. kissii は誤用
科 名: ツバキ科 Theaceae、チャノキ連
属 名: ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属
別 名: ヒマラヤサザンカ
中国名: 落瓣油茶 luo bàn you cha
原産地: 中国南部、インド、ブータン、ネパール、東南アジア
用 途: 種子から油を採取
備 考: 和名は、『園芸植物大事典』および 筑波植物園目録 2018 による。『原色樹木大図鑑』と「Y-List」はヒマラヤサザンカだが、命名者の記述に従えば、ネパールサザンカの方がふさわしい。

初めから分類の話になってしまうが、本種は ツバキ亜属の トガリバサザンカ Paracamellia 節で、サザンカが属する サザンカ Oleifera 節ではない。しかし ごく近縁で、サザンカと同様に子房に毛があるのが特徴のひとつであるため、和名に「サザンカ」が付くことに問題はないと考える。

.2024.9.8     樹 形 樹 形     2011.2.3.
..
高さ2m弱で 開花中。
ツバキ園の奥、この右後ろに「精子発見のイチョウ」、左側にトイレがある。
枝折れが何カ所もあって、不格好な形になってしまっている。風の影響は少ない場所なので雪害だろうか。
根元附近の径 約6cm。


開花の様子                2011.2.3.
花は枝の先だけでなく、様々な部分に多数の蕾がつく(右写真の右側)。1月から咲き始めるが、チャノキは前年のうちから、ヤブツバキは通常2月からなので、特に早いとはいえない。
花弁の数は5枚が多いが、それ以上のこともあるようだ。
花は冬芽の芽鱗の腋に
2012.1.12
小さな芽鱗の基部につくため、写真を撮りにくい。
子房には毛がある
柱頭は3裂。右側は花弁が落ちかかった状態。

サザンカの葉との比較      2022.8.23.
茶色いのがサザンカの落ち葉で 長さ 7cm。本種の葉は、確かに先が尖っているものが多い。サザンカとの違いは、中肋に沿って内側に湾曲していること。また、表面がつや消し気味で波打っておらず、鋸歯の切れ込みも浅い。
幼 果       2022.8.25.
子房は3室。まだ十分に充実していない。
花 芽        2024.9.8.
頂芽、腋芽に多くの花芽がつく。複数つくこともある。


 
トガリバサザンカの 位 置
①: B9 d 精子発見のイチョウの右、トイレの手前


名前の由来 トガリバサザンカ Camellia kissi
 トガリバサザンカ
本種は ツバキ亜属の サザンカが属する サザンカ Oleifera 節に近縁の トガリバサザンカ Paracamellia 節で、サザンカと同様に子房に毛があるのが特徴のひとつであり、その葉の先がサザンカよりも尖っているため。

中にはさほど尖っていない葉もある。このためか、本種の和名を ヒマラヤサザンカ とする考えがある。
 属名 Camellia:人名による
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。
 中国名 落瓣油茶 luo bàn you cha:
油茶 ユチャ C. oleifera は、その名の通り種子から油がよく取れる。しかしその分類はサザンカと同じ サザンカ Oleifera 節に属し、本種の トガリバサザンカ Paracamellia 節とは少し異なる。
また「落瓣」つまり「花弁が落ちる」の由来・意味するところがわからない。どんな花でも、花弁が落ちるのは当たり前のことである。もし 油茶よりも種子(たね)が落ち易いのなら、「落种」となろう。
 種小名 kissi : ネパールの現地名
本種を記載したのは ウォーリッチ。
Nathanael Wallich (1786-1854)は オランダ生まれ、インドで働いた植物学者・外科医。
当初はカルカッタ近郊のオランダの入植地で、次にオランダの東インド会社、その後イギリスの東インド会社で働いた。
カルカッタ植物園の初期の発展に関わり、多くの新種を記載し、膨大な数の標本を採取した。その標本はヨーロッパにも送られている。
Wallich
ウォーリッチが、1818年11月に当時のカルカッタ植物園園長に宛てて、本種について記載・報告したもの (下図 標題部分)。それが、1820年になってAsiatic Society of Bengal の機関誌『Asiatic researches, ~』第13巻 429ページに掲載された。

中略
その文の中でウォーリッチは、さかんにチュンベリーの『日本植物誌』(1784) のサザンカとの類似性と相違点を述べている。
そして彼が繰り返し使っている「Napal tree」の種小名を kissi とする理由が明記されている。

それは緑の下線部分で、「Newar (ネパール盆地に住むネワール人) が使っている名前 Kissi または Kissi-Soah による」としている。ただし kissi の意味は書かれていない。
このことから、別名は ヒマラヤサザンカ よりも、ネパールサザンカ がふさわしいと考える。
いつの時からかこの Kissi が人名と誤解されて、命名規約の人名の記述方法に倣って kissii とされてしまった。
以下の事典類で誤用されている。
 『園芸植物大事典』、『原色樹木大図鑑』、「YList」
 「Flora of China」

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ