シマサザンカ 島山茶花
Camellia brevistyla Cohen-Stuart (1916)
← Thea brevistyla Hayata (1908)
科 名: ツバキ科 Theaceae、チャノキ連
属 名: ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属
別 名: タイワンサザンカ
異 名:  Thea tenuiflora Hayata (1911)
中国名: 短柱油茶 duan zhu you cha
原産地: 中国南部、台湾
用 途: 種子から油を採取

以前の名札は タイワンサザンカ で、学名は異名の
C. tenuiflora だったが、最近新しいものに取り替えられ、学名も正しいものになった。
「筑波植物園目録 2018」および「Y-List」は、以前からシマサザンカだったが、早田文蔵が台湾で観察した種に名付けたものであり、また「シマ」の名は一般に「沖縄や奄美」を想起させるため、筆者は「タイワン」の方がよいと考えていた。
括弧内に別名が併記されているのは、「ほんとうはタイワン」にしたかった」という思いではないだろうか。小石川植物園の名札で別名併記は珍しいことである。
「名前の由来」の項で この経緯を考えてみた。
本種は ツバキ亜属の トガリバサザンカ Paracamellia 節で、サザンカが属する サザンカ Oleifera 節ではない。しかし ごく近縁で、サザンカと同様に子房に毛があるのが特徴のひとつであるため、和名に「サザンカ」が付くことに問題はない。



本種は、下の段、メタセコイア林の手前のツバキが植えられている所と、上の段、ツバキ園の北の端、トイレのすぐ近くの二ヵ所に植えられている。

シマサザンカの 位 置

樹 形 ①             2024.8.25.
70番通り側から東方向を見ている。夏は周りも緑一色なので わかりにくい。左隣の木がなくなったせいか、横枝が広がっている。上部は以前からチャンチンモドキの大枝と交錯している。
弱っているわけではないのに、地際から何本もの ひこばえが伸びている。
.1999.12.11 横から       2013.1.27.
左:25年ほど前。後ろの太い木は チャンチンモドキ。
右:10年前。横から北方向を見ており、右奥がメタセコイア。


樹 形 ②             2024.8.25.
ツバキ園の北の端、トイレ(白い建物)の手前。
左:カラタチ(左) と カメリア・クスピダータ C. cuspidata に挟まれて、内部では枯れてしまった枝も多い。幹は太く、根元附近で 約11cm。
2002.1.26.
20年以上前の姿。前掲写真とは違って東の空き地方向を見ており、手前にカラタチが無い。ツバキ園にカラタチがあることを不思議に思っていたが、この後に生えた実生なのか?

花のつく位置     2019.1.25.
腋芽についた例。第一芽鱗の腋についている。
.2019.1.25 2011.11.10.
左:腋芽の芽鱗の腋に2花がついた例。
右:頂芽についた例。花径は小さく、25mm程度。
花後に伸び出した新梢   2011.3.29.
葉のサイズ      2024.8.25.
近くのサザンカの下で拾った葉を乗せて。葉のサイズも小さく、3~4cm程度。
シマサザンカの葉を陽に透かす ツバキ(園芸品種)
サザンカ類 か ツバキ類 かを判別する方法のひとつは、葉を陽にかざしてみること。ツバキは葉脈が透けて黄緑色に見えるが、サザンカはそれがない。
ただし、ツバキが必ず透けるとは限らないようだ。

幼 果       2024.8.25.
子房の縫合線は ははっきりしない。
伸びた頂枝と側枝の色は早くも濃い茶色となっている。


 
シマサザンカの 位 置
①: F14c 70番通りの右手、グランサムツバキの手前
②: B9 d 精子発見のイチョウの右、トイレの手前


名前の由来 シマサザンカ Camellia brevistyla
 シマサザンカ
初めにも書いたように、以前の名札は タイワンサザンカ で、学名も異名の C. tenuiflora だった。本種と異名の元の名前はともに早田文蔵が名付けたもので、
  Thea brevistyla (1908)
  Thea tenuiflora (1911)
これらは 1916年にツバキ属に分類し直された。
1988年から1990年にかけて刊行された『園芸植物大事典』の「ツバキ属の主要分類」トガリバサザンカ節に、
  シマサザンカ C. brevistyla Cohen-Stuart
  タイワンサザンカ C. tenuiflora Cohen-Stuart
の両方が載っている。
すなわち、1990年頃までは両者は別種と考えられていたことになる。
その後に両者が同一種であることが判明し、先取権のある C. brevistyla、和名 シマサザンカが正名となった。
和名を タイワンサザンカ にしたくても、brevistyla にはすでに 固有の和名 シマサザンカ が付いていたのである。
 別名 タイワンサザンカ:台湾山茶花
前述したように、最近まで別種とされていたと思われる C. tenuiflora の和名である。早田文蔵が、台湾で採取された標本に対して命名したため。
C. brevistyla の子房は4室だが、植物園の個体の子房は3室のようなので、以前はこちらの名が使われていたと考えられる。
 属名 Camellia:人名による
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。
 種小名 brevistyla:短花柱の
命名者の早田文蔵の記述に「花柱はごく短い」とある。
それまで知られていた近縁の サザンカ(1784)、ユチャ(1818)などに較べて、花柱が短いことに注目したもの。
右は C. brevistyla を記載した『台湾山岳地帯の植物相 FLORA MONTANA FORMOSAE』(1908) の図の一部。
『命名物語』の①を参照。
 中国名 短柱油茶 duan zhu you cha:
まさに 種小名と同じである。ただし、これがいつから使われているのかは不明。
中国は ユチャ とともに本種の原産地であるため、早田の学名が記載された1908年の はるか以前から使われていた可能性が高い。

参考:ユチャ    筑波植物園.


 
シマサザンカ の命名物語
は正名、 は異名、
  図版は主に、Biodiversity Heritage Library より
肖像写真は Wikipedia より

本種のふたつの種小名 brevistyla(正名) と tenuiflora(異名) は、いずれも 早田文蔵が記載したものを コーエン-ステュアートが訂正し、最終的には両者が同種ということになる、という珍しい経緯をもつ名前である。

『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 備 考
1908  Thea brevistyla  早田文蔵  異名 本種の元の名
早田文蔵(1874-1934)は 日本の植物学者。1904年に小石川植物園の助手となり、台湾の植物調査を行った。東京帝大理学部の講師・助教授・教授を経て、1924年には 附属植物園の第三代園長となる。
本種を記載したのは『台湾山岳地帯の植物相 FLORA MONTANA FORMOSAE』で、副題は「モリソン山(玉山、旧新高山、標高 3,952m)およびその他の山岳地帯、標高 3,000~13,000 ft.に見られる植物の目録」。
早田文蔵

中略

63ページにチャノキ属の新種(sp. nov.)として記載し、種小名の由来となる「花柱が極めて短い」という記述がある。

■ 特徴:
子房は4室。

花柱は短く、雄しべより
短い。

花柱の先は
分かれて
いる。
学 名 命名者 備 考
1911  Thea tenuiflora  早田文蔵  異名
結果的に同じ種となった T. tenuiflora を記載したのは、『東京帝国大学理学部 紀要』第30巻に寄稿した『台湾植物相のための資料』で、副題は「台湾政府が行った植物調査をおもにキュー植物園標本館が作成した資料に基づく、先の FLORA MONTANA FORMOSAE (①)を補うノート」となっている。 後から付けた名前なので、異名。

中略
同書 46ページ。こちらも新種としている。

出版は後だが、川上氏による採取は ①の1906年よりも早い 1904年。
早田が別種と考えた要因は、「花柱が3本で 合着」だろう。
学 名 命名者 備 考
1916  Camellia brevistyla  コーエン-ステュアート  正名
1916  C. tenuiflora  同 上  異名
Combertus Pieter Cohen-Stuart (1889-1945) はオランダの植物学者だが、情報が少ない。オランダ領東インドの統治時代に、インドネシアのボゴールと、ボゴール植物園で長く働いたという。1942年以降の日本統治時代の状況は不明。
彼が ① および ② を訂正したのは『Mededeelingen van het Proefstation voor Thee. Buitenzorg, Dutch E. Indies』第40巻だが、この雑誌は公開されていないため、内容については不明。
 いつ、誰が、そしてどのようにして ① と ② が同一種と判定したのかは不明。


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