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![]() 2025.3.30 |
科 名: | ツバキ科 Theaceae、チャノキ連 | ||||
属 名: | ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属 | |||||
中国名: | 滇 山茶 diān shan cha | |||||
同 別名: | 云南山茶 | |||||
原産地: | 中国南西部 | |||||
用 途: | 観賞用、種子から油を採取 | |||||
備 考: | 中国では採油植物としても古くから栽培され、現存する栽培種には、少なくとも明王朝(1368~1644)の時代に遡るとされるものがある。「Flora of China より」 | |||||
野生種: | C. reticulata f. simplex ヤマトウツバキ | |||||
栽培品種であるトウツバキが先に命名されたために、野生種であるヤマトウツバキが「品種」として命名されたもの。現在は トウツバキと同種。 最後に参考として掲載している。 |
タイトルが水色の写真は、10年以上前の撮影(過去の様子)であることを示す。 |
中国、特に雲南を代表する椿。1820年にヨーロッパに伝えられた。ツバキ節だが、サザンカ節のサザンカなどと同様に子房に毛があるそうだ。筆者自身は未確認。 |
樹 形 2024.8.25. | |
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左:北方向を見ている。トウツバキは ▲で、通路に面した左の ヤマトウツバキ に隠れて影が薄い。 |
右写真:右奥に ヤマトウツバキ、手前右にもほかの木があるので全体像が写せない。暑さに弱いためか、次の 2011年の写真と較べて、さほど大きくなっていない。中国では 10~15m にもなるそうだ。 |
樹形 2011.4.7. | 幹 2022.8.25. |
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10年以上前の姿。まだ周りの木は大きくなく、トウツバキ全体が写っているのだが、葉の数が少なく、奥のツバキが見えてしまっている。日本のツバキ類はとっくに咲いているか(赤いのはユキツバキ) 終わってのに、本種はまだ蕾だった。 |
右写真:2022年の夏までは、ぶら下げ型の名札だった。根元附近で 約6cm。樹皮は淡い茶色で無毛。 |
蕾 2025.4.6. |
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花 2011.5.3. |
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蕾の状態から間が空きすぎて、最後のひとつを何とか撮影。基部下には咲き終わった花があり、各所で新梢が伸び出していた。花弁の数は 8枚と思われ、トップの写真とは様子が異なる。 |
トップに掲げた写真ならば、次の図の C. reticulata、17~18枚 に引けを取らない。花弁の数は「flora of China」では 5~7(しばしば もっと多い)であり、『園芸植物大事典』では 5~11枚 と様々である。 |
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![]() 『The Botanical register』第13巻、1078図 |
葉 2022.8.25. |
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種小名の「reticulata 網目状の」のとおり、細かな葉脈までが凹んでいて、表がに網目がはっきりと見えるのが特徴である。前図でもそれが表現されている。 黄色いのは7cmのサザンカの葉。 |
表面の詳細 | 葉 裏 |
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表面に艶はあるのだが、全体がエンボス状になっており、ヤブツバキのようにテカテカと光ることはない。 |
樹齢 600年 | 果 実 |
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中国雲南省 楚雄市紫渓山風景区の自生個体。 「古樹名木保護牌」番号 22、「雲南山茶」樹齢 600年とある。 |
柵に囲まれていて近づけなかったが、葉に較べると、果実がいかに大きいかがわかる。 |
トウツバキの 位 置 |
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B10 c | ● | 精子発見のイチョウの右、トイレの手前 |
名前の由来 トウツバキ Camellia reticulata | |
和名:トウツバキ 唐椿 | |
本種がいつ日本に伝えられたかは未確認だが、「中国のツバキ」の意味である。 | |
中国名:滇 山茶 「flora of China」の標記 | |
「滇」diān は Wikipediaによると〈前漢時代の紀元前3世紀頃から、雲南省東部の滇池周辺にあった滇人による西南夷の国〉で、後に雲南省の別称となった。 | |
つまり 滇山茶は、雲南省を代表するツバキ(中国語は山茶)を意味する。このため本種は、前掲の看板にあるように「雲南山茶」とも呼ばれている。 | |
種小名 reticulata: 網状の | |
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細かな葉脈までが凹んでいて、表面に網目がはっきりと見えることから。すでに知られていたヤブツバキ(下)との対比だろうが、リンドリーが、赤い大きな花を種小名に使わなかったのが不思議である。 | |
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John Lindley (1799-1865) はイギリスの植物学者、園芸家、蘭の研究家。父親の果樹園を手伝っていたが、フッカーの知己を得、さらに植物学者のバンクスを紹介されてその助手となった。その後、生涯に多くの著作・園芸書を著した。 リンドリーが本種を記載したのは 植物雑誌『The Botanical register』第13巻 図版1078(前掲)。 | Lindley |
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『The Botanical Register』について (主にWikipediaによる) |
副題は「イギリスの庭園で栽培されている 彩色図による外来植物、その来歴と栽培方法」。 |
Sydenham T. Edwards (1768–1819) は、カーチスが始めた有名な『The Botanical Magazine』の図版を描いていたが、編集者と仲違いしてやめたあと、1815年に『The Botanical register』の出版を始めた。エドワードの死後、別の編集者が第13巻まで出版し、第14巻からはリンドリーが担当して、タイトルを『Edwards's Botanical Register』とした。なおリンドリーは、第11巻から本文を担当していた。 |
編集者 | 本文担当 | ||
『The Botanical Register』 | |||
・第1巻 - 第5巻: | 1815-1819 | エドワード | John Bellenden Ker、エドワード |
・第6巻 - 第10巻: | 1820-1824 | James Ridgway | John Bellenden Ker |
・第11巻 - 第13巻: | 1825-1827 | James Ridgway | リンドリー、本種は第13巻に記載 |
『Edwards's Botanical Register』 | |||
・第14巻 - 第23巻: | 1828-1837 | リンドリー | リンドリー/新シリーズ 1~10巻 |
・第24巻 - 第33巻: | 1838-1847 | リンドリー | さらなる新シリーズ 1~10巻 |
第13巻の出版は 1827年。通常の図版は1ページだが、特別に見開きページの図版が まず先行してから、本文が続く。 |
英語名:Captain Rawes's Camellia 本文2行目 | |
英語名は本種をイギリスに運んだ、Richard Rawes 船長(1784-1831) に献名したもの。Rawes は、東インド会社の商船 Warren Hastings号 の第6回航海で持ち帰った。 | |
本文に続く解説文(略)によると、本種は ロンドン ブロムリー地区の Thomas Carey Palmer様 の温室に(1820年に)もたらされたが、1826年の春まで開花しなかった。本書の出版は 1827年で、絵に描かれたのは、1824 年に別の商船で運ばれたものだそうだ。 | |
解説文では、ヤブツバキとの違い、特に葉の葉脈の違いを強調している。 |
解説文の冒頭で splendid 素晴らしいツバキと表現しているのは、本種がピンクの八重咲きであるためで、それまでに知られていたツバキ属6種、チャノキ属1種の中の、ヤブツバキにも勝ると考えたためである。 |
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.1753 | Camellia japonica | リンネ | ヤブツバキ | ケンペル 1712 『廻国奇観』 |
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.1753 | Thea sinensis | リンネ | チャノキ | 同 上 |
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.1784 | C. sasanqua | チュンベリー | サザンカ | |
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.1790 | C. drupifera | ルーレイロ | トンキンユチャ | |
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.1818 | C. oleifera | C. Abel | ユチャ | |
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.1820 | C. kissi | ウォーリッチ | トガリバサザンカ | |
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.1826 | C. euryoides | リンドリー | - | |
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.1827 | C. reticulata | リンドリー | トウツバキ | 本種 |
ヤブツバキ以外の花の色は白で、サイズも概して小さかったので、本種は大変な評判となったことだろう。 |
属名 Camellia:人名による | |
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。 |
付 録:ヤマトウツバキ |
雄しべが花弁に変化した 八重の「栽培品種」である本種に対して、Camellia reticulata の学名が付けられた。 |
1958年になって Joseph Robert Sealy (1907-2000) が、『ツバキ属の見直し Revision of the Genus Camellia』に |
Camellia reticulata f. simplex ヤマトウツバキ |
を発表するまでの 130年もの間、栽培種しか知られていなかったことになる。 それはともかくとして、せっかく原種に付けられたこの名前は、APG分類では トウツバキ と同一種となってしまった。遺伝子的には変わりがない、ということである。異名ではないこともあって、GRIN にはもはや simplex の文字は見あたらない。 |
園芸品種である アジサイ Hydrangea macrophylla に対して、原種である ガクアジサイを H. macrophylla f. normalis としていたものが、同様に「同種」とされたのと同じである。 |
ヤマトウツバキ C. reticulata ( f. simplex) | |
和名:ヤマトウツバキ 山唐椿 | |
先に命名された種 C. reticulata は八重咲きの栽培品種で、その原種に対して命名したもの。山中で発見されたものなのだろうか。 ヤマトウツバキは シーリーが『Revision of the Genus Camellia』に記載したのだが、1958年の出版でまだ著作権が生きており、内容が公表されていないために採取地などはわからない。 | |
品種名 simplex: 単一の、一重の | |
小石川植物園の花弁数は、5~6枚。 | |
GRIN や Flora of china には載っておらず、遺伝子的には同一種と見なされているようだ。 |
樹 形 2024.8.25. |
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ツバキ園の北側。トウツバキのすぐ手前。高さ 約 2.5m。 |
蕾 | 冬 芽 ともに 2025.2.4. |
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蕾は高さ 19mm。開花まであと2ヶ月か。通常の芽鱗は黄緑色だが、中に鮮やかな小豆色になるものがある。 |
.2011.4.9 花 | 葉 2022.8.25. |
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