ウスバヒメサザンカ 薄葉姫山茶花
Camellia euryoides var. nokoensis T. L. Ming (1899)
← Camellia nokoensis Hayata
科 名: ツバキ科 Theaceae、チャノキ連
属 名: ツバキ属 Camellia、後生ツバキ亜属
節 名: ヒメサザンカ節 Theopsis
別 名: ウスバヒメツバキ (園の名札、YList)
原産地: 中国 湖南省南西部、江西省、四川省、台湾
中国名: 毛蕊柃葉連蕊茶 
 mao rui ling ye lian rui cha
備 考: 以前の園の名札は 「ウスバヒメサザンカ」と 「ウスバヒメツバキ」の両方があったが、現在は「ウスバヒメツバキ」、学名も「var. nokoensis」となった。
タイトルが水色の写真は、10年以上前の撮影(過去の様子)であることを示す。


 
本種は下の段と ツバキ園北側の2ヵ所に植えられている。
F13 b 70番通り右側、グランサムツバキの手前
B9d ツバキ園 北側入口の目の前


.2022.8.23      ① 樹 形 ① 樹形  2000.4.8.
左:

右:
西方向を見ている。後ろが 70番通り。幹は太くなっているが、枝は主に南側に伸びている。右の木はヒッコリー。
20年以上前の姿。盛んに細い徒長枝を出していた。
左写真とは撮影方向が異なる。

② 樹 形   2025.1.5.
北側の出入り口からすぐの所。幹の太さは 基部の二又付近で 約9センチ。

満 開    2000.4.8.
古い写真で 発色が悪い。写真は3年生枝で、花は前年枝の茎頂付近と側枝の腋芽の芽鱗の腋につく。新梢は開花してまもなく伸び始める。
徒長枝        2025.1.15.
ほぼ2列互生。年を越したので2年生枝。腋芽はほとんど葉芽。
2022.8.25             幼 果            2024.11.10
左右で約3ヶ月の違いがあるが、葉のサイズと比較すると大きくなっていることが分かる。右写真では花柱が残っている。蕾が大きくなりつつある。
① の枝振り        2024.11.10.
陽当たりが悪いこともあるのかもしれないが、通常の枝は細く葉の重みで枝垂れる。左側は手で持って 葉裏を見せたもの。あまり白くはない。葉が細長いのが特徴。
右の枝は4年生枝で、今年枝に来春の蕾がついている。3年生枝には葉が無く、2年生枝の一部も落葉している。
カーソルを乗せると、年枝境と 年数を表示する。
多くの蕾             2024.11.10.
花のつき方は様々だが、この枝では頂芽(の芽鱗の腋)に2個ついている。
.2024.11.10  腋芽にもふたつ  蕾の生長   2025.1.5
左:腋芽の脇にふたつの蕾。これを見れば、蕾が葉腋につくのではないことは明らかである。小さくてわからないが、ツバキ類一般のように腋芽の「芽鱗の腋」についていると考えられる。
右:真冬で 葉の色が少し黄色くなっている。



名前の由来 ウスバヒメサザンカ
Camellia euryoides var. nokoensis
 和名 ウスバヒメサザンカ:
「ヒメサザンカ よりも葉が薄手」という意味だが、本種にはウスバヒメツバキ の別名があることだし、ヒメサザンカ C. lutchuensis と較べてもあまり意味がない。
確かに本種の葉はしなやかで、さまざまなうねりがある。
一番の特徴は、先が細長く尖っていることだ。
ウスバヒメサザンカ 参考:ヒメサザンカ C. lutchuensis
茶色の葉はサザンカで 長さ7cm。
母種で自生地が本種とほぼ同じ中国南部の C. euryoides と較べる必要があるのだが、情報がほとんど無く、詳しい比較ができていない。

 変種名 nokoensis:台湾 能高山産の
小石川植物園 第三代園長 早田文蔵が、台湾の能高山(のうたかやま)で発見したもの。早田は音読みで ノウコウザン と読み、新種名を C. nokoensis とした。
命名物語 参照。
能高山 (Wikipedia より)

 種小名 euryoides: ヒサカキ属のような
本種の母種は Camellia euryoidesEurya はヒサカキ属で、葉がヒサカキ類に似ているためだが、残念ながら 掲載可能な C. euryoides の写真がない。
参考:ヒサカキ E. japonica
 中国名:毛蕊柃葉連蕊茶 mao rui ling ye lian rui cha
この名前からすると雌しべ?に毛があることになる。
中国名も学名に倣っている。「柃」はヒサカキ、「連蕊茶」は カメリア・クスピダータ。
中国の植物のデータベース『Flora of China』の本種の項は説明文が2行しかない。それが母種との違い ということだろう。
以下が性状についての記述。( )内は 母種 C. euryoides
 ・葉は披針形 (楕円形~楕円卵形)。
 ・雄しべには繊毛があり、外側の花糸は基部で約3mm
  合着する (雄しべは無毛。基部で7-9mm合着)。
 属名 Camellia:人名による
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。


 
ウスバヒメサザンカ の命名物語
は正名、 は異名、
  図版は主に、Biodiversity Heritage Library より
肖像写真は Wikipedia より

台湾の植生を調査した早田文蔵は、ツバキ属でもいくつかの新種を記載した。初めは「チャノキ Thea属」としていたが、シリーズの途中で「ツバキ Camellia属」に切り替えた。

『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 備 考
1753  Camellia  リンネ  ツバキ属の
 (有効な)最初の命名
  C. japonica ヤブツバキ
 Thea  リンネ  ツバキ属の異名
  T. sinensis チャノキ  チャノキの異名
リンネが『植物の種』で記載したのは それぞれ1種だけだった。
学 名 命名者 備 考
1826  Camellia euryoides  リンドリー  自生地:中国・台湾
 和名:なし
John Lindley (1799-1865) はイギリスの植物学者、園芸家、蘭の研究家。父親の果樹園を手伝っていたが、フッカーの知己を得、さらに植物学者のバンクスを紹介されてその助手となった。その後、生涯に多くの著作・園芸書を著した。
リンドリーが本種を記載したのは 植物雑誌『The Botanical register』第12巻 図版983。
Lindley
この図からわかることは、
・葉先は尖る
・枝に毛がある
・花柄がある
・花は筒状で開かない
・開花時には前年葉は脱落
・今年枝が伸び始めている
学 名 命名者 備 考
1919  Camellia nokoensis  早田文蔵  異名 本種の元の名
早田文蔵(1874-1934)は 日本の植物学者。1904年に小石川植物園の助手となり、台湾の植物調査を行った。東京帝大理学部の講師・助教授・教授を経て、1924年には 附属植物園の第三代園長となる。
本種を記載したのは『臺湾植物図譜』第八巻。第七巻まではツバキ類を「Thea属」としていたが、八巻からは「Camellia属」に変更した。同書 10ページの脚注で、その変更の理由を述べている(要約)。
早田文蔵
「私が Camellia を属名とすることにしたのは、C. P. Stuart 氏の次のような意見に従うものである。“ リンネ氏の『植物の種』には両方の属があるが、国際規則では2つのグループを組み合わせる場合、著者は統合するグループ名を選択する権利があるとされている。Sweet 氏が両者を統合した最初の著者であり、その属名 Camellia が正しいことに疑いの余地はない。"」
Camellia属の命名者を (L.) Sweet としているのはこのためだが、現在の命名規約では リンネのままである。

中略

採取地は 能高山(緑の下線) の標高 約8千フィート(2,438m)で、「のうたかやま」を「Nõkõzan」と読んだために、種小名を nokoensis とした。詳細な図版もある(下図左側は 右の部分拡大)。
図によると、雌しべには毛がないが 花糸にはある。
学 名 命名者 備 考
1999  Camellia euryoides
   var. nokoensis
 ミン  正名
Tiān-Lu Mǐn 閔 天禄 (1937-2021) は中国の植物学者。
昆明植物研究所の機関誌『Acta Botanica Yunnanica』第21巻の「A systematic synopsis of the genus Camellia」で、変種として記載した。論文は公開されていないので、詳細は不明。

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