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科 名: | ツバキ科 Theaceae、チャノキ連 | ||
属 名: | ツバキ属 Camellia、ツバキ亜属 | |||
異名?: | C. japonica var. decumbens Sugimoto (1936) |
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中国名: | 短柄山茶 duăn bĭng shān chá | |||
原産地: | 日本海沿岸の山地:秋田、山形、福島、新潟、長野、富山、石川 など。 中国 浙江省(舟山島) |
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備 考: | ヤブツバキとは形態上、色々な違いがあるため、GRIN では ヤブツバキの変種となっている。両者の違いについては後半に記載。 |
小石川植物園では 少なくとも 2022年までは 異名の項に掲げた 「C. japonica var. decumbens」だったが、最近新しいものに取り替えられて、C. rusticana となった。 |
しかし 筆者が参考にしているアメリカ農務省のデータベース GRIN では、標題のように ヤブツバキの変種 である。 |
もし旧名札の C. japonica var. decumbens (1936) が有効な命名だとしたら、先取権があるのでこれが正名となるはずだが、後から名付けられた C. rusticana や var. rusticana が採用されている理由がわからない。 |
ユキツバキの位置 |
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ツバキ園の北側の入口から東方向を見たところ。ユキツバキは少し進んで、ヤマトウツバキの裏側にある。写真右側の柵のさらに右に、精子発見のイチョウがある。 |
樹 形 2024.8.25. |
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よううやく開花 2025.3.18. |
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2024~25年は開花が遅かった。剪定されているのだろうが、10年前(次の写真)よりも少しだけ横幅が広がっている。 |
2013.1.27. |
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幹 2024.8.25. |
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灰白色で滑らかな印象。 |
葉の様子 2024.8.25. |
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上部に乗せてあるサザンカ(濃緑色7cm)に較べると大きい。 |
蕾 2025.2.16. |
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ようやく色付いてきた。苞片の先が尖っている。 |
蕾 2012.3.30. |
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咲く前の方が美しい? 苞から萼へと次第にサイズが増す。 |
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開き始めると 花弁の周囲が波打ちだす。 |
花 2025.3.18. |
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ヤブツバキよりも平開し、雄しべも開き気味となる。小石川の個体の花弁は、事典に載っているものよりも波打っている。 |
ユキツバキの 位 置 |
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B10 c | ● | 精子発見のイチョウの右、トイレの手前 |
名前の由来 ユキツバキ C. japonica var. rusticana | |
ユキツバキ:雪椿 | |
本州北部から中部の降雪地帯に自生するため。 | |
ユキツバキの学名: | |
本種はヤブツバキの変種とされているが、別種 C. rusticana とする考えがあり、現在の小石川植物園の名札はこちらである。 |
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そこで、学名の採用状況を一覧にした。 |
学名 | 命名年 | 事典・データベース名 | 備考(発行年) |
C. japonica var. rusticana | 1998 | GRIN | アメリカ農務省 |
Flora of Chna | |||
World Plants | ドイツ | ||
Global Core Biodata Resource | デンマーク | ||
C. japonica ssp. rusticana | 1950 | 『植物の世界』 | 朝日百科(1997) |
C. rusticana | 1947 | 小石川植物園 | 2023年頃変更か? |
Plants of the World Online | キュー植物園 | ||
World Flora Online | |||
『原色樹木大図鑑』 | 北隆館(2016) | ||
『YList』(2014) | 米倉浩司・梶田 忠 | ||
『園芸植物大事典』 | 小学館(1988) | ||
『牧野新日本植物圖鑑』 | 北隆館(1961) | ||
C. japonica var. decumbens | 1936 | 筑波植物園 植栽リスト | 最新 2018年版 |
『樹に咲く花』 | 山と渓谷社(2000) | ||
元 小石川植物園 | 2022年8月以前 | ||
属名 Camellia:人名による | |
キンカチャの「名前の由来」の項を参照のこと。 |
変種名 rusticana: | |
牧野の『植物學名辞典』によると「農夫の、野に植えた」であり、研究社『羅和辞典』では「いなかの、田園の」となっている。 命名者の本田正次は、なぜこの名を山中に咲くユキツバキに宛てたのか、解明できていない。 | |
異名:Camellia rusticana Honda (1947) | |
本種を別種として記載したのは、小石川植物園 第5代園長を務めた 本田正次 である。 | |
本田正次 (1897-1984)は 熊本県出身の植物学者。東京帝大教授、東京大学名誉教授。 本種を記載したのは『Biosphaera』第1巻だが手掛かりが無く、詳細は不明。ただ『植物の世界/朝日百科』に命名に関するエピソードが載っていたので、以下に引用する。 |
ユキツバキを独立した種として C. rusticana と命名した本田正次は、イタリアの作曲家マスカーニの歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』と語呂合わせをし、洒落て、「カメリア・ルスティカナ」としたという。 | |
この説明では、肝心の「洒落」の意味がよくわからない。 |
歌劇の原作はイタリアの小説家 ジョヴァンニ・ヴェルガ による同名の小説「Cavalleria (騎士) Rusticana (田舎の、素朴な)」で、兵役帰りの若く貧しい男と、元許婚者だった人妻やその夫との関係で、夫に決闘で殺されてしまうという悲話である。このため、命名が歌劇の内容に基づいているとは考えられない。 カヴァレリア Cavalleria → Camellia カメリア、は単なる語呂合わせと考えてよいだろう。しかし「田舎のツバキ」では、山中で雪に耐えて咲くユキツバキに失礼である。『植物の世界』では rusticana に「人里離れた」の意味があるとしているが、それでは「洒落」にならない。 |
冬の間は雪の下に埋もれて見えなくなる。そこで、 「留守 かな~?」 というのは どうだろう。 |
中国名 短柄山茶 duan bing shan cha: | |
ヤブツバキよりも「葉柄」が短いため。 |
本田が本種を別種としたのは、ヤブツバキとは様々な違いがあるためだと考えられる。以下に できるだけ写真を並べて説明したい。 | |
ユキツバキ と ヤブツバキ の相違点 |
部位 | ユキツバキ | ヤブツバキ (赤と白) | |
枝 | 折れにくい。耐雪で進化だろう。 | 折れやすい。 | |
葉の厚み | ヤブツバキよりも薄手。 | ||
葉柄 | ![]() |
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短く、毛がつくことが多い。 | 長く、無毛。(スケールは異なる) | ||
鋸歯 | ![]() |
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深くはないが 鋭い。 | 葉によってはもう少し鋭い。 | ||
蕾 | ![]() |
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撮影時期が違うが、気持ち楕円形 | |||
苞と萼 | ![]() |
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わずかに毛があるが 少ない。 | 毛が多い。シロヤブツバキ。 | ||
花 | ![]() |
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ヤブツバキよりも平開する。 | ヤブツバキも さらに開くことも。 | ||
雄しべ | ![]() |
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開き気味。花糸は黄色で短く 離生。 | 環状、花糸は白、基部は合着。 | ||
これだけ違いがあれば、ヤブツバキとは別種と考えてもおかしくない。APGでは「変種」となった。 |
ユキツバキ の命名物語 |
は正名、 | は異名、 | ||
図版は Biodiversity Heritage Library より |
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年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | ||||||||||||||
① | 1753 | Camellia japonica | リンネ | 本種の母種 ヤブツバキ | |||||||||||||
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年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | ||||||||||||||
② | 1936 | C. japonica var. decumbens |
杉本順一 | 無効な記載か? | |||||||||||||
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③ | 1947 | C. rusticana | 本田正次 | GRIN では異名 | |||||||||||||
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年 | 学 名 | 命名者 | 備 考 | ||||||||||||||
④ | 1998 | C. japonica var. rusticana |
T. L. Ming | GRIN での正名 | |||||||||||||
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