ミズカンナ 水カンナ
Thalia dealbata Fraster ex Roscoe (1807)
科 名 : クズウコン科 Marantaceae
属 名 : ミズカンナ属 Thalia Linn. (1737)
英語名: powdery thalia
原産地 : 北アメリカ
用 途 : 耐寒性があり、公園などの水辺に植えられる


樹木ではなく、大型の水性、湿性植物。 下の段に連なる二箇所の池に植えられている。 正門に近いのが「ハンノキ池」、もう一つは梅林手前の「ミズカンナ池」。 池の名前は筆者が付けた 仮称である。

ミズカンナ の 位 置
写真①: F 11 ハンノキ池
写真②: E 6 ミズカンナ池
花は小さく目立たない。 しかし その苞の白と花弁の紫色 、そして葉の黄緑が美しいコントラストで 絵になる。 まずは 葉が出だした春の様子から。

                 ① : ハンノキ池            2011.4.5
少しだけ緑色が見えるのは、昨年の名残か。
池さらいをするわけではないので、何年間もの葉が沈殿していることだろう。 繊維が多いので、すぐに分解されるのだろうか?

葉鞘の様子             2011.5.6
筑波植物園。 株数が少なく、昨年の枯葉は剪定されている。 
ミズカンナには樹木のような幹は無く、水中の地下茎から毎年新しい茎が伸びる。 複数の葉が伸びて集まったものを 「偽茎 ぎけい」と呼ぶ。

新 葉         2013.5.28
一つ前の葉の「葉鞘 シース」部分から 次の葉が出る。 基本的に枝分かれはしない。 幼葉は ぐるぐる巻の状態。

②:ミズカンナ池             2011.5.17
キショウブが咲く5月、新葉は 2枚程度。

葉の形
ほぼ左右対称。 かなり丸いものと細長いもの。

葉の裏は少し白い

葉 縁
周囲はきれいな赤の覆輪が付く。 表面に向かって左側が巻き込まれていたので、葉縁や 時に葉身にも皺が寄る。 右側は きれいなカーブ。

2011.6.11                   ② : ミズカンナ池                    2011.6.16
5枚程度の葉が出て、頂部から出た花序が すでに葉よりも高く 伸び出している。
② : 花序とつぼみが目立つ        2011.6.26

2008.7.6                 花序の様子                2011.6.26
複数の穂状花序を持つ「複穂状花序」で、全体が総苞に包まれる。 総苞は一定期間残っているが、それぞれの穂状花序を包んでいた小苞は薄く、すぐに落ちる。 花序軸は ジグザグになる。 


花の様子        2008.7.6
白い一対の苞から2つの花が咲く。 詳細は観察していないが、萼や花弁は目立たず、紫色に垂れ下がっているのは、雄しべが変化したもの。 出だしで「紫の花弁」と書いたのは、間違いだった。 下から順次開いて、9月下旬まで 3ヶ月近く咲き続ける。

受粉しないと花はすぐに落ちるが、種子ができると 花と種子が同居する。

まだ青みが残る 実          2011.8.30
萎れた雄しべ以外に、子房の周囲が全体に茶色くなっている。 これが花弁だったのだろう。 なぜかわからないが滅多に実は生らないそうだ。

秋の様子              2013.10.3
まだ咲いている花もあるが、下の葉が 黄変してきた。



 
ミズカンナ の 位 置
写真①: F 11 ハンノキ池
写真②: E 6 ミズカンナ池

名前の由来  ミズカンナ Thalia dealbata

和名 ミズカンナ : 水中に育つカンナ の意味
カンナは クズウコン科と同じく「ショウガ目」に属する「カンナ科 カンナ属」の植物。 湿度を好む種で、昔 アメリカの植物園で水中に植えられているのを見たことがある。 
「水」 カンナ
この時はあまりカンナに興味が無く、また撮影解像度が低かったため、せっかく名札が写っているのだが 種名は未確認。 園芸品種だと思われる。 カンナについては、いずれ「ダンドク」で。

種小名 dealbata : 白色となる という意味
最後に花をつつむ 苞 が、粉を噴いたように白くなっているため。
英語名 powdery thalia は、これをうけて付けられている。


Thalia ミズカンナ属 : 人名による
ドイツの医師で植物学者の Johannes Thal (1542–1583) を顕彰したもの。 命名者はリンネ (1707-1778) で、150年後の人物である。

リンネは『植物の種』(1753)に Thalia geniculata を記載しているが、自生地はアフリカ北部、北アメリカから南アメリカなので、ドイツの医師との直接の関係はなさそうだ。
Thalia geniculata
Wikipedia より


花の数は少ないが、ミズカンナに似ている

クズウコン科 : 澱粉が取れる ウコン
クズウコン科の植物は 約 30属、500種以上が、世界中の熱帯地方に分布しているが、南北アメリカ大陸に その 80パーセントがあるそうだ。
その クズウコン Maranta arundinacea も、メキシコ南部からアルゼンチン北部に産する。 根茎から澱粉が取れるため、「クズ(根から澱粉が取れる)」+「ウコンの仲間」と 名付けられた。
斑入り クズウコン
Wikipedia より
クズウコン科の植物としては、温室でグラウンド・カバーとして植えられている「カラテア属」をよく見かける。
カラテア・ベラ Carathea bella カラテア・ルイーザエ C. louisae
葉裏は 暗い緑色 葉の裏が 紫色になる種が多い

ク ズ
 ← ウコン 鬱金 Curcuma longa Linn. (1753)
ショウガ科 クルクマ属(ウコン属)、根茎はカレー粉の原料として有名である。 ほかにも黄色の染料として、タクアンやバターの着色、江戸時代中期に渡来して、薬用植物としても使われた。
2013.7.18               ウコン Curcuma longa Linn.               2005.8.29

Marantaceae クズウコン科 : 人名による
クズウコン科の基準となる Maranta 属は、16世紀イタリアの 医師・植物学者・文学理論家だった バルトロメオ・マランタ (1500 頃 - 1571)を 顕彰したもの。 

16世紀フランスの修道者で植物学者の プルミエ (1646-1704)が立てていたものを、リンネが正式に記載した形になっている。
マランタ
Wikipedia より


今回登場した ショウガ目に属す 3つの科、クズウコン科、カンナ科、ショウガ科は、よく似ている。 バショウ科、ストレリチア科と合わせて、その違いを調べてみた。

クズウコン科 カンナ科 ショウガ科 ストレリチア科 バショウ科
東京での
偽茎の寿命
 1シーズン  1シーズン  1シーズン 常緑。筑波では地上部は枯れる  半常緑
 果実が生ると枯れる
葉の形  葉鞘・葉柄・葉身
 葉枕(ようちん)が有る 
 葉柄が無い  葉柄が無い
 葉舌が有る
 葉鞘・葉柄・葉身  葉鞘・葉柄・葉身
花の数  各小苞葉内に 2個  同 2個  同 1~数個  同 1個  同 多数
子房の数  3室  3室  1~3室  3室  3室
胚珠の数  各室に 1個だが、
 通常は 1個だけできる
 各室に 1個
 計 3個
 多数  多数  多数

ミズカンナの 葉枕 ヘディキウムの 葉舌
葉枕部で折れ曲がる 葉鞘と葉身の連結部、軸側にある 薄茶色の膜
出たばかりの葉は直立しているが、やがて、多くの日差しを受けるために折れ曲がって 表を水平にする。




 
植物の分類 APG II 分類による ミズカンナ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロベイレヤ
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
ショウガ  バショウ科、ショウガ科、カンナ科、クズウコン科、など
クズウコン科   カラテア属、クズウコン属、ウラベニショウ属、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )
 
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