チャンチンモドキ 香椿擬き
Choerospondias axillaris Burtt et Hill (1937)
Spondias axillaris Roxb. (1832)
科 名: ウルシ科 Anacardiaceae
 基準属 Anacardia はカシューナットノキ
亜科名:  Spondiadoideae 亜科
属 名: チャンチンモドキ属 
中国名: 南酸棗 nán suán zăo
原産地: 日本(鹿児島県・熊本県)、台湾、中国南部、東南アジア、インド東北部、ネパール、ブータン
備 考: 雌雄異株。小石川の3本はいずれも雄株で、トップの写真は雄花序。
1属1種。

タイトル欄が .青い写真. は 10年以上前の撮影を示す。
筑波実験植物園に「雌株」があるので、後半で取りあげる。


小石川植物園の雄株

崖線の下の60番通りに沿って植えられた3本は、いずれも大木である。成長が早くて、40年で 20mにもなるそうだ。
 

①②は60番通りの左側、③は右側にある。

② ①:2本が並び立つ      2013.1.29.
10年以上前の写真なのでずっと大きくなっているはずだが、見た目にはわからない。
.2025.2.4  ①②:南から  ②①:北から  2011.1.5.
左写真:根元部分は重なっている。奥にメタセコイア林。
    高さを測りにくいが、3本とも20m以上ある。
③:60番通りの際に生えている          2025.2.16.
南から     60番通り. 西から
3本とも 空間のある西側・南側に、側枝を大きく伸ばしている。
① ②:幹               2024.11.10.
 左写真:手前が①
 右写真:60番通りから見下ろしたところ。
     手前が②
左写真:手前 ①の山側に伸びた側枝は、20年以上前にすでに
    折れていた。
支持根
傾いている側、大枝が伸びる側の 地際の根の上部が肥大して、倒れないように踏ん張っている。
樹 皮
樹皮は粗く不規則に縦に裂けて長く残るが、最後には剥げ落ちる。樹皮の深さによって割れ方が異なって、メッシュ状になることもある。赤いところは幹がどんどん生長している部分。
若い枝の樹皮
①の折れた枝の基部から伸び出したもので、皮目が多い。太さは5cm強。夏は日陰になるので成長が悪く、折角伸び出しても枯れるものが多い。


冬 芽     2024.11.10.
まだ落葉前 11月の状態。ツタウルシ(ウルシ)属のハゼノキなどには頂芽があるが、本種は明らかに茎頂を脱落している。春には頂側芽が伸びて代伸するが、枝はほぼ直線となる。勢いのある枝では下位の側芽も伸びることが多い。
芽吹き    2004.4.3. 参考:チャンチン 2010.4.22.
和名の由来。芽吹きの様子が チャンチンに似ているため。左写真は、若い枝の頂芽だけが伸び出したもので、すべて栄養枝。
開花前          2007.4.29.
遙かかなたで 何百となく芽吹いた新梢。黒く見えるのは花序と蕾のかたまり。
雄花序群          2011.5.4.
冬芽は混芽で、低出葉や下位の普通葉の腋に花序がつく。何万という雄花が咲いても雌株がないため果実はできないが、蜜を分泌するそうなので、虫の役には立っていそうだ。
花序のつく位置      2012.5.16.
下向きの枝から伸びた新梢。早落性の低出葉の腋から4本、普通葉の腋に2本の円錐花序がついている。花は一斉には開花せず、落花したものとまだ硬い蕾が混在している。
雄 花              2014.5.8.
事典によると 萼・花弁ともに5個だが、右写真の萼は基部で合着しているようにも見える。雄しべは10個。径は3~4mm程度。花後は花冠が一体で落ちる。
落 花        2012.5.23.
無数の花が落ちる。その大きさをわかりやすく、と思って「ヘビイチゴ」のつもりでその葉と一緒に撮ったのだが、ヘビイチゴやヤブヘビイチゴの葉は三出複葉、オヘビイチゴは五出掌状複葉である。このつる植物の名がわからない。


新 緑      2014.5.24.
②①を北から見ている。葉は天空を覆い尽くす。
奇数羽状複葉            2024.11.10.
小葉の数は11~13枚、葉の大きさは 約 30cm(もっと少なく小さいものもある)。小葉は大きいもので10cm程度。短い小葉柄があり、縁は波打つことが多い。葉裏は少しだけ白味がかる。


 
筑波植物園の雌株

筑波実験植物園の標高は25mで、小石川植物園の上の段と同じだが、緯度が高いためにずっと寒い。本種の自生地は暖帯・亜熱帯なので、その分成長が遅いと考えられる。

樹 形     2024.11.19.
入口から続くメタセコイアのプロムナードのすぐ横に植えられている。奥に見えるのが大温室で、ほぼ北方向になる。
2011年10月 幹 2014.11





残念ながら幹のサイズや樹高を測っていない。
根元から伸びたものが、13年間でかなりの太さになっている。


奇数羽状複葉      2011.11.8.
ひこばえの葉の中には 11対 23枚の小葉がつくものがあった。
開花終了直後      2012.6.2.
雌花は 新梢基部付近の葉腋にひとつずつつく。当時は高いところにしか咲かず、詳細はなし。今なら、下枝にも咲くかも知れない。6月なので ごく小さな幼果である。
幼 果        2012.9.1.
結実率は高い。果実と同じくらいの長さの果柄がある。
落 果          2024.11.19.
黄変せずに落ちるものもある。表面には褐色のしみがつく。大きさは 高さ25~30mm、径25mm程度。熟すと外果皮はすぐに破れる。
石 果        2011.10.9.
筑波の観察セミナーで採取。中果皮は柔らかくベトつく果肉で、洗うと硬い内果皮、面白い形の石果が現れる。
ウルシ科の果実は通常1心皮だが、本種は珍しく5心皮で、別属の根拠となっている(6心皮のことも多い)。
内果皮は極めて硬くて裂開は不可能であるため、発芽孔を突き破って発芽するのだろう。撒いてみるべきだった。
樹上の果実       2012.2.4.
2月になっても まだ落ちずに残っているものがある。


 
チャンチンモドキの 位 置
写真①②:  F14 a ●●  60番通り メタセコイア林の手前左側
写真③:  F13 c  60番通り 右手に2本、3本共 雄株

名前の由来 チャンチンモドキ Choerospondias axillaris

 和名 チャンチンモドキ 香椿擬き :
本種、チャンチン とも似たような羽状複葉で、芽吹き時に赤味がかかるところから、「チャンチンに似た」という和名としたもの。
チャンチンモドキ チャンチン
好みにもよるが、チャンチンの方がピンクがかってきれい、と言う人が多い・・・。
 ← チャンチン 香椿 Toona sinensis
中国の "春の木" は「椿 chūn」ひと文字でセンダン科のチャンチンを指すが、現在では一般に「香椿 xiāng chūn」と標記される。新芽に香りがあり、摘んで料理にも使うとのことだ。
ツバキは日本独自の読みで、和製漢字(国字)である。
 中国名 南酸棗 nán suán zăo:
酸棗 suán zăo は、クロウメモドキ科の サネブトナツメ Ziziphus jujuba var. spinosa である。
本種の実の形がナツメに似ており、原産地が中国南部であるために名付けられたものだろう。別の言い方をすれば「サネブトナツメモドキ」ということになる。
 種小名 axillaris:腋生の の意味
雌雄共に 花・花序が新梢の腋につくため。
最初の命名者 ウィリアム・ロクスバラ W. Roxburgh (1751-1815) は、本種をウルシ科 Spondias タマゴノキ属とした。タマゴノキ属やウルシ科の植物は一般的に茎頂に花序をつけるが、本種は葉腋につくのを特徴と捉えて種小名としたもの。
 属名 Choerospondias:不明
この属名は Choero-spondias で、元になったのが以前分類されていた Spondias ウルシ科タマゴノキ属に、接頭語 choero-を付けたものである。
Spondias は、牧野の『植物學名辞典』によると「一種のスモモの木」とのこと。S. dulcisS. pinnata は食用となり、その実をプラムに擬えたもののようだ。しかし接頭語の choero の意味がわからない。
本種の果実は食用になるようなものではないので、「- モドキ」や「イヌ -」と同じような意味かもしれない。
参考: Spondias pinnata

Wikipedia より

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