シャノキ 萵苣の木
Ehretia acuminata R. Brown (1810)
科 名 : ムラサキ科 Boraginaceae
属 名 : チシャノキ属
Ehretia P. Browne (1756)
園の名札:  Ehretia ovalifolia Hassk.(1844)
別 名 : カキノキダマシ
中国名: 厚殻樹 hou ke shu
原産地 : 園の名札:本州〜沖縄、中国
GRIN:中国大陸、台湾、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、ブータン、インド
用 途 : 木目が美しいので、大木は建築材や器具材として使われる。樹皮にはタンニンが含まれ、染料として用いられる。

ムラサキ科の植物は 多くが草本だが、木本もたくさんある。チシャノキは園内には 上の段に2本あるが、一本は なぜかヒノキ林の中。

@:30番通りのチシャノキ       2012.5.31.
上の段 30番通りの奥のほう。標識36番あたりから奥を見ている。
高さ 約 12m。
前の写真とは反対側から。北側のため、枝の出や葉が少ない。

@:幹の様子         2012.11.27.
樹皮がなかなか剥がれないため、幹が太くなってくると割れ目が深くなる。樹皮に大きな縦の割れがあって、次第に腐ってきそうだ。

@:落葉樹              2007.3.18.
枝先に花が付くため、一つ手前の腋芽から新しい枝が伸び、折れ曲がったり 湾曲した形となる。


A:ヒノキ林のチシャノキ          2012.12.5.
中央に斜めに生えている木がチシャノキ。園内の一番北の奥で、なぜここに植えたのか 不思議である。周りを常緑のヒノキに囲まれているため、どこまでも上に伸びた。一度途中で折れたためか、湾曲している。 太さは@の木よりも太く、40センチ以上。

幹の様子              2012.12.5.
太くなったためか、樹皮は @の木のように縦には裂けていない。右の写真が北側で、幹の太り方が少ないために、若い時の縦皺が残っている。


新 緑          2012.5.8.
出始めは紫色がはいるが、大きくなるにつれて明るい緑に。

若葉の様子        2009.5.18.

伸び出した花序は円錐形    2012.6.15.
つぼみは まだまだ固い状態。

満 開         2011.6.26.
白い花はすぐに茶色く汚れてくる。

横向きに咲く花も      2012.6.26.
萼と花弁は5つに分かれて(5裂)、雄しべは5本。果実は、マルバチシャノキに較べるとずっと小さいそうだが、この木に生ったのは見たことがない。

 
チシャノキ の 位置
写真@:
写真A:
C4 d

20番通り 標識36 と 37の中間右側

名前の由来 チシャノキ Ehretia acuminata

チシャノキ 萵苣の木 : 味が似ているため
チシャノキの若葉が食用となり その味が 萵苣(チシャ)・レタス に似ているため、といわれているが 味見した事はない。
 
種小名 acuminata : 漸尖頭の
葉の形による。
先が尖っているためだが、命名は マルバチシャノキ よりも 50年も早いため、対比して名付けたわけではない。
チシャノキ  と  マルバチシャノキ
植物園の名札:Ehretia ovalifolia Hassk.
小石川植物園ばかりでなく、『植物の世界/朝日百科』や 京都植物園の名札(2006年11月の時点) も同様だったので、この学名が支持されたことがあったのだろう。
  ovalifolia : 広楕円形葉の
形状的には マルバチシャノキの方が「広楕円形」のイメージ。

命名の順序は以下の通りだが、後から発表された ovalifolia が支持された理由は 分からない。

命名年 属名・種小名 命名者 備考
1756  Ehretia  P. Browne  属名
1810  Ehretia acuminata  R. Brown  GRINやKewによる正名
1832  Ehretia serrata  Roxb.  異名
1844  Ehretia ovalifolia  Hassk.  異名

別名 カキノキダマシ :
葉や幹の様子が カキノキ に似ているところから。特に葉が落ちた状態で、縦長の網の目状に割れた樹皮を見ると、間違えやすい。
葉の方は、カキノキにはない「鋸歯」があるので、注意して見ればすぐに分かる。
チシャノキ カキノキ

Ehretia 属 : 人名による
18世紀 ドイツ生まれの植物学・昆虫学者で 植物画家のエーレット Georg Dionysius Ehret (1708-1770) を顕彰したもの。

リンネと同世代であり、東インド会社の総督で資産家だったクリフォード氏の元で、リンネと共同して『クリフォード氏植物園誌』(1737)を出版した。
 
ムラサキ科 Boraginaceae :
香水を取るヘリオトロープ、歌にもうたわれるワスレナグサ、そして古来 紫色の染料として使われたムラサキなどを含み、約100属2,000種もの種類がある比較的大きな科である。

ムラサキ科の基準属はBorago属。学名の由来はラテン語 borra で「剛毛の」の意味であり、この属あるいはムラサキ科の植物が硬い毛で覆われていることが多いため。

日本でのムラサキ科の代表選手「ムラサキ」は いまや自生しているものが少なくなり、「危急種」に指定されている。花は白いが 根から紫の染料を採る。葉や茎には軟らかい毛がある。
ムラサキ                 2008.5.17
奈良万葉植物園で。高さ 70cm。これがチシャノキと同じ科というのが不思議だ・・・・。

知人が栽培したムラサキの根    2012.11.


紫根染めの手順

日本の色にまつわる様々な物語や歴史を、吉岡幸雄氏の解説で紹介しているホームページ『色の万華鏡』に、ムラサキで染める方法が紹介されていた。以下に その手順を箇条書きにまとめてみた。

その日に使う分の紫根を熱湯に浸けて 30分置く。
石臼でついて砕く
麻の袋に入れてから 湯をかける
洗濯板のような でこぼこの有るものの上で、湯に浸けながら 擦りつけるように揉み出す
袋から 赤みの根の色が絞り出される
その液を 布が浸かるだけの湯に混ぜる
液の中で 布を繰りながら、満遍なく染まるよう30分ほど 染め付ける
次に 水で余分な色素を洗い流す
灰汁の中で 30分間、布を繰る(媒染:発色、定着作業)
  灰汁:椿の枝を燃やした灰を熱湯に溶いた上澄み液
ふたたびムラサキの液 と 灰汁の中で繰る作業を、30分ずつ繰り返す
これで 一日目の作業は終了、以上の行程を 4日ないし5日間行うことによって、濃い紫色となる


植物の分類 : APG II 分類による チシャノキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
目名称 不定  クロタキカズラ科、ムラサキ科、バーリア科、 など
ムラサキ科  ムラサキ属、カキバチシャノキ属、チシャノキ属、など
以前の分類場所  シソ目  レンノア科、ムラサキ科、クマツヅラ科、シソ科
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
目名称不定 : シソ群ではあるものの、まだどの「目 もく」に属すか、確定していない科。

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