チヨウキンレン 地湧金蓮(チユウキンレン)
Musella lasiocarpa Hu Lin Li (1978)
← Ensete lasiocarpum E.E. Cheesm. (1947or48)
← Musa lasiocarpa Franch. (1889)
科 名 : バショウ科 Hypoxidaceae
属 名 : チヨウキンレン属
     Musella Linn. (1978)
中国名: 地湧金蓮(di yong jin lian)
原産地 : 中国南部から、インドシナ半島。
標高 1,000〜2,500mの山に生える。
用 途 : 花を止血剤、葉の汁を解毒剤として用いる。
中国雲南省では、傾斜地の畑の縁に「土留め」として植えられていた。

正門を入ってすぐ、本館への坂道が始まる左手、ソテツの奥にある。

             @:樹 形       2010.9.20
2010年は暑かったせいか葉の成長が良く、葉の長さを引けば本体の茎(偽茎)の高さは 1mもないくらいである。 バショウのように大きくはならない。

葉の様子 中国雲南省 楚雄近郊

植物園のものは葉が細長い。

大きさは同じ。 HYSHDCKさん撮影

         花序の付き方   2010.10.8
バショウ科の花は、茎の中から出て 頂部に付く。

                金の蓮          2010.7.7
「金蓮」は黄色い苞を ハスの花びらに擬えたもの。

ハスの花

             苞に包まれた 花     2007.5.19
次々に咲いていく。
 
左はまだ咲き始めのもの。 花の中央に白い雌しべが見えるので、両性花のようだ。 右側は雄しべが大きくなって突出している。 花序の上部になると、雄花しか咲かなくなる。

事典によると、「花被片は6枚。3枚の萼と2枚の花弁が合着して、浅く5裂した筒状になる。残りの1枚は離れている。」とあるが、分解してみないとわからない。


食材としてのチヨウキンレン

熱川バナナワニ園主催の「植物観察ツアー」で何回か雲南省へでかけたことがある。2010年の楚雄・大理の時であった。

正体不明 ? の料理
右は油で揚げたピーナッツ、これはおいしかった!
しかし、ハニカム・コア状の柔らかい植物、いったいこれは・・・?

紫渓山のビジター・センター
楚雄近郊の「紫渓山」は国立森林公園で、自然保護区となっている。
雲南ツバキの自生地として有名で、樹齢600年というものまである。

昼食を取ったセンターの食堂で出たものだが、通訳の人が聞いてくれて 初めて「地湧金蓮」だということがわかった。すぐ目の前の中庭にも植えられていた!

バスで「紫渓山」に向かう途中の、傾斜地に建つ農家(民家)のまわりにはちょっとした畑があり、その縁に沿って植えられていることが多かった。まとめて栽培している場所もあったが、大量ではなく 数も少なかった。

              茎の断面       2010.7.7
帰りがけに見てみると、茎を切り取った跡がある。 もしかしたら これをたべたのか?  こんなに青くはなかったなぁ〜 ・・・・。

後日談
日本に帰って、改めて『朝日百科/植物の世界』を開いてみたら・・。
「中国の雲南省では農家の生け垣に植えられたり、地下茎と偽茎がブタの餌にされたりするほか、花が止血薬としてもちいられることもある。」とあった!

どおりで、うまくも何ともなかったわけだ! 恐らく、白い地下茎だったのだろう。

 
チヨウキンレンの 位 置
写真@ : F15 a 正門からすぐ、精子発見のソテツの裏

名前の由来 チヨウキンレン Musella lasiocarpa

チヨウキンレン
 地湧金蓮: 地面から生える金色の蓮
この4文字の漢名には文句の付けようがない。ハスは水辺に咲くが、この蓮は地面から。和名はこれを音読みしたもの。
筑波実験植物園の名札は「チユウキンレン」となっている。

湧の字は 慣例的に「ユウ」とも読むが、つくりの「勇」の音が転じた「ヨウ」と読むのが正しいようだ。同じ意味の字 涌 も、音読みは「ヨウ」である。

種小名 lasiocarpa:「長い軟毛がある果実の」 という意味
運良く実が生っている株を見かけたが、毛は長くはなかった。

チヨウキンレンの果実

雲南で 
Musella 属: Musa から
はっきりとした意味は不明だが、バショウ属 Musa に由来している。「バショウ属に近い」とでもいう意味であろう。

「Musa」は、バショウ類のアラビア名 mauz から、という説と ローマ皇帝の医師 Antonio Musa を顕彰したもの、というふたつの説がある。

本種は1属1種で、以前はバショウ属の近縁の エンセテ属に分類されていたが、吸芽(側芽)でも増殖することから 別属として独立した。
上の写真でも、実ができて古くなった株の脇から、何本かの新しい緑の茎が出ているのがわかる。


植物の分類 : APG II 分類による チヨウキンレン の位置
APG分類への移行で、単子葉類の位置がまったく違うものになった。 これまでは 最後に分化した とされてきたものが、被子植物の中では きわめて早い時期に分化したことがわかった。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
ショウガ目  バショウ科、ゴクラクチョウ科、ショウガ科、カンナ科、など
バショウ科  バショウ属、ムセラ属
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
以前の分類場所 単子葉類 ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
ショウガ目 バショウ科、ゴクラクチョウ科、ショウガ科、カンナ科、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ