アメリカデイコ アメリカ梯姑
Erythrina crista-galli Linn. (1767)
科 名 : マメ科 Fabaceae
属 名 : デイコ属 Erythrina Linn. (1737)
英語名: cockspur coral tree , cry baby tree
中国名: デイコ は 刺桐 ci tong
原産地 : 南アメリカ
用 途 : 観賞樹、街路樹
鹿児島県の 県木


かつての姿          2010.9.15.
温室入り口の両脇に植えられていたもの。現在は、温室建て替え工事のために伐採されてしまったが、すぐに新芽が伸び出している。
2014.9.21.
貴重な(珍しい)木ではないので、移植されることはないだろう。必要ならまた新しく植えればよい。この時点では考古学調査のための準備中で、地面にはブルーシート。温室の基礎はレンガ造である。

戦前からあった小石川植物園の温室は戦災で焼けてしまったために、1952年(昭和27年)に木造で復旧。その後 1964年(昭和39年)に鉄骨に改修された。半世紀を経て痛みが激しく、中央部分は公開されていなかった。数年前から建て替えのための寄付を募り、予算も付いたのか予備調査が始まっている。








アメリカ
デイコ
2011.5.31.
シンメトリーに配置されていたふたつの池は、残された。
アメリカデイコは、もともと立ち入り禁止の区域内にあったために近寄ることができず、園外の写真も使用する。


落葉樹             2012.2.21.
枝がよく伸びて大きくなりすぎるため、毎年剪定されていた。同じ所で切るために次第に太くなり、瘤状になっていた。

幹の様子  1999.10.31.
夢の島/熱帯植物館

勢いよく伸び出した枝           2011.7.5.
強剪定されるために、毎年 徒長枝的に枝を伸ばすので、あまり花は付かない。

葉の様子        2000.6.17.
3出複葉で 小葉の形は「卵状長楕円形」。枝にも葉柄にも刺が付く。

葉の裏にもトゲが       2007.4.9.
奄美大島で見たものには 葉の裏にも刺があった。

2011.8.29             つぼみの状態             2000.6.17
遠くから見ると全体がひとつの花序に見えるが、多くの葉腋に数個ずつの花序が付く。先の方には葉が無い。(左はバナナワニ園)
枝が上向きの時は小花柄を180度ねじって、旗弁を下にして開く。

花の様子(バナナワニ園)      2008.6.21.
長く伸びた枝は枝垂れることも多い。その場合はそのまま開き、枝がどんな向きになっても旗弁を下にして咲く。鳥が蜜を吸い易いようにしたものだろう。
参考:デイコの蜜を吸う鳥
ムクドリ科の一種 Gracupica contra (Asian pied starling) が、デイコの蜜を吸っているところ。        Wikipedia より

たまには上向きで (奄美アイランド)   2007.4.9.
デイコの仲間は花弁を大きく開くことが少ないが、アメリカデイコの旗弁はほぼ平開する変わり者。

花の構造
バナナワニ園で。翼弁は萼と旗弁に隠れて、ほとんど見えない。

果実 と 種子
バナナワニ園の提供。莢の長さはおおむね20センチ。実がはいらなかった(大きくならなかった)部分はくびれる。種子の形はアズキに似ているが、サイズは1センチ以上ある。


 
アメリカデイコ の 位 置
C12 a  旧 温室前

名前の由来 アメリカデイコ Erythrina crista-galli
 アメリカデイコ : アメリカ産のデイコ。原産地を示す
ただしアメリカといっても南アメリカで、『園芸植物大事典』によると ブラジル南東部からアルゼンチン北部。日本には明治時代中期に導入されたそうだ。暖地では公園樹や街路樹にも使われているが、鹿児島県の「県木」というのは肯けない。南米産の県木では、県民は納得していないだろう。
 ← デイコ 梯姑 E. variegata Linn. (1754)
        旧 E. variegata var. orientaris
デイコ       2012.2.14.
板橋熱帯環境植物館
『植物の世界/朝日百科』によると、デイコ・デイゴ、デーグ は沖縄地方の名で、琉球を訪れた中国の冊封使が報告をまとめた際に、その呼び名に「梯姑」の漢字を当てたものではないかという。
漢名は 刺桐 si tong なので、漢名の音読みではない。
デイコの由来は不明。その学名の命名経緯が興味深いため、後述する。

アメリカデイコよりも旗弁が細長く、先が尖っている。原産地は 東アフリカからインド・東南アジア・パプアニューギニア・オーストラリア北部・ポリネシア。
デイコは沖縄の県花である。琉球諸島では栽培品が野生化しており、フィリピンなどの種子が海流で沖縄に流れ着いた可能性もあるという。海外の原産であることには変わりがないが、沖縄は亜熱帯であり,鹿児島のアメリカデイコよりは ずっと似つかわしいと言えよう。

 種小名 crista-galli : 鶏冠 の意味
ラテン語事典では crista だけでも「とさか 鶏冠」を意味し、さらに galli を続けても、同じ意味となっている。
ニワトリ 名古屋種
Wikipedia より
トサカの上の部分よりも 顔から下に垂れ下がっているところが、上下逆さまに咲く本種に似ているかもしれない。
 Erythrina エリスリナ属 : 赤い色に 由来
ギリシア語の erythros 赤色 が語源で、デイコ属には赤い花が多い所から名付けられた。
 マメ科 :
「丸い実 マルミ」が マメに転訛した、という説が有力。

マメ科共通の植物の特徴は、「サヤ状の実」、通常「10本の雄しべ」である。
APG分類では、豆果ができる「ネムノキ属」と「ジャケツイバラ属」もマメ科に含まれる。
デイコは 先に「斑入り」の種が命名されたため、斑入りでない種には 変種を示す "var."の学名が付いている。
『園芸植物大事典』



デイコ の命名経緯

以前は、デイコ は フイリデイコ の変種
    Erythrina variegata var. orientalis
とされていた。APG分類では、両者ともに Erythrina variegata となってしまった。遺伝子配列が同じ ということかもしれないが、筆者としては、命名を巡ってのおもしろみが半減してしまった。
以下、E. は Erythrina の略。

命名年 学名 和名 命名者 備考
a. 1753  E. corallodendrum  なし  リンネ 『植物の種』に記載。デイコとは別種の正名
 種小名の意味は 珊瑚の木
 ハイチ・ジャマイカの原産
 英語ではデイコ類を coral tree と呼ぶことになる
@ 1753  E. corallodendrum
  var. orientaris
 デイコ  リンネ  同上。インド産のデイコを a. の変種として
 記載したが,デイコは別種であるため異名
A 1754  E. variegata  フイリデイコ  リンネ  正名。variegata は「斑入りの」
解説:@でデイコが先に命名されたのだが、別種a.の変種と記載されたため、
 有効名にならなかった。このため デイコの斑入り種Aが、その基となる種
 よりも先に命名された形となった。
表 : 左側が デイコ、右が 斑入り 裏 : 左側が デイコ
タイ / シリキット植物園で

命名年 学名 和名 命名者 備考
1786  E. indica  デイコ  ラマルク  @は間違いとして、新たに種小名を indica と
 して、記載した。
1787  E. orientaris  デイコ  メリル  @の変種名を種小名として記載し直した。
B 1917  E. variegata
  var. orientalis
 デイコ  メリル  この学名が長い間 デイコの正式な名称として
 使われてきた。
解説:命名規約によって、たとえ突然変異などで後から出現した種であっても、先に命名されれば、規約上はそれが基準種(基準変種)となる。フイリデイコはデイコが変化したものなのに、デイコの方に変種名が付いていた。
現在  E. variegata  デイコ および フイリデイコ
APG遺伝子解析の結果 両者は同一種とされ、先に正名が付けられた
  Erythrina variegata  が用いられている。

ほかの種でも、今まで変種扱いだったものが「栽培品種」扱いとなったものがあるが、デイコの場合は、フイリデイコよりも古くから存在していたはずなので、「栽培」品種と呼ぶわけにはいくまい。


植物の分類 : APG III 分類による アメリカデイコ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ
モクレン亜綱 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、など
以前の分類場所 マメ目  オジギソウ科、ジャケツイバラ科、マメ科
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
マメ目  マメ科、ヒメハギ科、など
マメ科  アカシア属、ジャケツイバラ属、モダマ属、デイコ属、など多数
アオイ群: フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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