フェイジョア
 Acca sellowiana Burret (1941)
← Feijoa sellowiana O. Berg (1859)
← Orthostemon sellowiana O. Berg (1857)
科 名 : フトモモ科 Myrtaceae
属 名 : アッカ属 Acca Berg. (1855)
 以前の
  属名:
 フェイジョア属 Feijoa
       O. Berg. (1858)
 植物園の名札も Feijoa属
別 名: アナナス ガヤバ
英 名 : feijoa, pineapple guava
原産地 : ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル南部
用 途 : 果実を生食する。昭和の初めにアメリカから導入され、近年 鑑賞樹 兼 果実樹として鉢植え、庭木とされるようになった。
備 考 : 温室建替えのため、2014年夏に伐採された

クロンキストの分類では Acca属となっており、APG分類でも継承されているので、学名は Acca sellowiana を採用した。
小石川植物園では 南米原産の樹木は珍しかったが、温室の建て替え工事に伴って伐採されてしまった。

@ : 樹 形          2013.5.15.
温室前の立ち入り禁止区域に植えられていた。高さは 約3m強、幹は太い。近づけないため 詳細の写真は 筑波植物園などのすべて園外のものとなる。

A:左側のフェイジョア     2014.3.19.
幹の太さは右側よりも細め。こちらは実が生るようだ。


温室建て替え
たまたま温室の脇に植えられたのが運の尽き。老朽化した温室を立て替える工事が始まって、二本とも 伐採されてしまった。移植するほど貴重ではなく、いずれまた購入可能ということだろう。

事前の発掘調査中      2014.9.21.

温室に向かって右側の 大きかった木
遺構調査のために 1mほど掘り下げられている。
この温室が鉄骨造で改修されたのは、1964年(昭和39年) 東京オリンピックの年である。その当時に基礎をレンガ造とするのは不自然なので、これは戦前に建てられた もとの構造体かもしれない。

入口を挟んで両脇に植えられていた。印。


筑波植物園のフェイジョア 2012.7.7.
高さ 2m強。細い幹が株立ちとなっている。

幹の様子    2012.7.7.
幹といっても 筑波の木は 径 45ミリ程度。

@:花の様子          2011.5.31.
4月末から盛んに花を咲かせるが、近づけない場所なので、コンパクト・デジカメの望遠ではこの程度。

実が生っている様子はあまり見かけないので、ほかの木の花粉でないと結実しない 自家不和合性であるためか? 
その後の観察で落ちている実を見かけたが、数は少ないようだ。葉と同じ色なので、生っているのに気がつかないだけかも知れない。

花の様子         2012.7.7.
もう花期は終わりに近い時期に 筑波で。花弁や萼の内側が わずかに赤い。花糸も白い花の多いフトモモ科では珍しい花。

新 緑          2012.7.7.
花が終わる頃になって芽が伸び出す。初めは葉の表にも細毛が付いているが、すぐに落ちる。裏側は密に付いたままで まっ白である。
今年伸びた葉       2013.9.7.
葉の裏は葉脈が目立つ。

一年経過後の葉       2012.7.7.

卵の形をした果実が熟すのは 10月末から11月のようだ。外見では熟したことが判らないので、落果したものを収穫した方がよい などと書かれている。 果実の写真は Wikipedia より。

果実の外見と断面
Wikipediaより。高解像度の写真が提供されていた。
パイナップル+イチゴ の上品な酸っぱさだそうなので、今シーズンは是非とも食べてみたい。

フェイジョアの果実断面
前図の部分拡大。

子房の中での種子の付き方については、胎座の種類を参照のこと。

 
フェイジョア の 位 置
写真@: C13 b 温室正面入口の 右横
写真A: C11 c 温室正面入口の 左横

名前の由来 フェイジョア Acca sellowiana

種小名 sellowiana : 人名による
命名者 オットー・ベルク (1815-1866)が、同じドイツ出身の植物学者 フリードリッヒ・セロウ F. Cellow (1789 - 1831) を顕彰したもの。
セロウは本種の原産地であるブラジルやウルグアイを探険し、多くの植物を採取して、イギリスに送った。

Acca 属 : 由来は不明
『園芸植物大事典/小学館』や『植物學名辞典』には Acca属は載っておらず、由来が判らない。
もし 「Acca Larentia」ならば、それはローマ神話に登場する女性で、ロムルス と レムス の育ての親であるが、命名者がなぜ「アッカ」としたのかはわらない。

以前の属名 フェイジョア Feijoa 属 :
じつは 今回登場する3つの属名は、いずれも同じ命名者 ベルク による。ドイツの植物学者・薬剤師の ベルク Otto Karl Berg (1815-1866) はベルリン大学の助教授となり、特に南アメリカの植物を研究した。

フェイジョアの属名は、ブラジル生まれのポルトガル人 Joao da Silva Feijo を顕彰したものといわれている。フェイジョは植物学が専門ではなく 博物学者・鉱物学者で、大西洋のベルデ諸島を探険して書物を著した。

命名年 学 名 命名者 備 考
@ 1856  Acca  O. Berg  Linnaea 27. 138ページ に記載
 何種かを記載した
1856  Orthostemon  O. Berg  Linnaea 27. 440ページ に記載
A 1856  Orthostemon sellowianus  O. Berg  同 上
1858  Feijoa  O. Berg  記載は Linnaea 29.
B 1859  Feijoa sellowiana  O. Berg  Aを自ら訂正
C 1941  Acca sellowiana  Burret  Bを訂正、現在の正名
解説: @:


A:


B:
Acca属 と Orthostemon属 は同じ書物に記載された。
記載の順序のためかどうかは判らないが、現在はAcca属が正名とされている。
本種フェイジョアは、最初 Orthostemon sellowianus として記載された。Orthostemon の意味は「直立した雄しべ」。
その後ベルクは Feijoa属を定義して、Aを訂正した。
  長らく、Feijoa sellowiana が使われていた。
検証の結果 Acca属 と Feijoa属は同じものという事になり、初めに定義された Acca属が有効であるとして訂正されたCが フェイジョアの正名となった。
巡り巡って、最初に自分がたてた属に行き着いたわけである。

典型的なフトモモ科の花 フェイジョアの花
ベルクが最初に分類した属名 Orthostemon は「直立した雄しべ」の意味で、フェイジョアの雄しべが広がらない事に注目して、新しい属を定義したものだ。

別名 アナナス グアバ、英語名 pineapple guava :
果実の味から パイナップル、萼が残る果実の形から グアバ がつけられた。花も似ている。
グァバの 花 と 若い実           2011.8.29.
熱川バナナワニ園で。グアバは熟すと黄色や赤みがかった黄緑色となる。同じフトモモ科だが、属は異なる。

フトモモ科 Myrtaceae :
科の基準属は Myrtus ギンバイカ属 である。
ギンバイカ
小石川植物園
「ギンバイカ 銀梅花」は5枚の白い花弁を持つ小さな花を「銀の梅」としたもの。地中海から南西ヨーロッパの原産で、常緑の葉と良い香りが古代人に尊ばれて、様々な神話や伝説に登場する。
属名は フトモモ科の中のある種に付けられた ギリシア古名 myrtos に由来するそうだ。

なお、フトモモ科の中国名は「桃金娘 tao jin niang 科」である。これは中国・東南アジア原産の 桃金娘(和名 テンニンカ 天人花 Rhodomyrtus tomentosa)を、フトモモ科の科名に用いているため。
桃金娘 テンニンカ
小石川植物園
 
各国それぞれ自国語の科名や属名を付ける時に、その科や属を代表する植物(基準属、基準種)が自国にない場合、代わりに その国に自生する植物を代表として命名する事がよくある。 

和名 フトモモ科 蒲桃 pu tao :
フトモモ Syzygium jambos は熱帯アジアの植物。
フトモモ
京都植物園
和名の「フトモモ」は 中国名 蒲桃 に由来する。

「蒲」の字は通常「ガマ」として使うが、柳の一種である「カワヤナギ」の意味もある。「蒲桃」の由来ははっきりしていないが、葉が細長く、甘くてバラに似た香りのある果実が生る植物を、「川柳の葉を持つ 桃」 としたのかも知れない。
蒲桃が元になった和名は、意味としての「桃」が重複しているように思う。蒲桃 の発音は「pu tao プ タオ」。
「プータオ → プートオ → フト」と変化したのだろう。蒲桃は「フト」だけでよいのに、さらに理論的には不要な「モモ」が付いている。
「フト」だけでは物足りなかったのか?、漢名を見て「モモ」を付け足したくなったのか?
 
Syzygium 属 :
事典のふりがなは「シジギウム」。ギリシア語 syzygos に由来して、「癒合の、結合した」という意味である。フトモモ属のある種の花弁の状態にちなんで名付けられたという。約 500種がある。
『園芸植物大事典』



植物の分類 : APG II 分類による フェイジョア の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
フトモモ目  シクンシ科、ミソハギ科、アカバナ科、フトモモ科、ノボタン科 など
フトモモ科  アッカ属、ユーカリノキ属、ギンバイカ属、フトモモ属、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ