フユサンゴ 冬珊瑚
Solanum pseudocapsicum L. (1753)
科 名 : ナス科 Solanaceae
別 名 : タマサンゴ
属 名 : ナス属 Solanum Linn. (1735)
英語名 : Jerusalem cherry
独語名 : korallenstrauch
原産地 : メキシコから中南米に広く分布する。
用 途 : 観賞樹として栽培される。
果実は有毒。

常緑の低木で春から秋にかけて花を咲かせ、夏から冬まで 橙色の実を付ける。

10年前 @:ヒマラヤスギの足元    2001.9.8.
@:少なくなった フユサンゴ   2013.1.27.

代わりに ほかの木の根元に広がっている。

A:ハリモミの足元    2012.8.9.
フユの名が付いているが、撮影日からもわかるように「夏サンゴ」でもある。

A:葉の様子        2012.8.9.
葉は柔らかく 細長い。

花の様子        2002.5.19.

フユサンゴ ナス     2011.7.1.
ナス科の花は合弁花で、先が5つに裂けるものが多い。ナスとは同じ属なので、花の様子もよく似ている。

青い実         2001.9.8.
花後は順次実が大きくなっていくが、初めは緑色である。

赤い実         2001.12.8.


 
ヒイラギ の 位 置
写真@: D13 c    本館前、ヒマラヤスギの根元
写真A: B2 d    針葉樹林、ハリモミの根元

名前の由来 フユサンゴ Solanum pseudocapsicum

和名 フユサンゴ 冬珊瑚 :
丸い朱色の果実を、加工した丸い珊瑚「タマサンゴ」に喩えたもの。夏から冬まで 長い期間生っているが、特に、花や実の少ない冬に目立つ ということで名付けられたのだろう。
Wikipediaでは タマサンゴ の名で載っているが、『園芸植物大事典/小学館』の和名はフユサンゴ、別名が タマサンゴである。

英語名 Jerusalem cherry
cherry は サクラではなく「サクランボ」で、赤い実をなぞらえたもの。現代なら「チェリートマト」がそっくりと言えよう。
サクランボ 桜桃 ミニトマト
しかし、Jerusalem エルサレム の由来がわからない。
フユサンゴに毒があることと関係するのだろうか?

種小名 pseudocapsicum :トウガラシ(属)に似た の意味
英和辞典では、pseudo- は「見せかけの、偽りの、偽の、疑似的」という意味になっている。筆者は、pseudo- に相当する和名は「- もどき」ではないかと思っているが、このケースは ちっとも似ていない。
トウガラシ

有名なのは ハリエンジュ Robinia pseudo-acacia で、昔から「ニセアカシア」の別名で呼ばれることが多い。

capsicum はトウガラシ属で、ギリシア語の kapto 噛むに由来する。舌を刺すようなトウガラシの辛さを「噛む」と表現したもの。

学名のスタートである『植物の種』(1753)に載っているために、命名者はリンネということになっているが、フユサンゴの項の参考文献には、16世紀の植物学者ドドエンス(1517-85) が pseudocapsicum の名を使っていたことが示されている。

リンネが参考文献にあげた『Stirpium historiae pemptades sex』(1583) は、ドドエンスが 1554年に出版した『クリュードベック Cruydeboeck』をラテン語に訳したものであり、丁度リンネの200年前にあたる。多くの薬草が記載された書物で、長い間 薬学の参考書とされた。

なお 頻繁に使われる和名の「イヌ -」には、似ているが 劣っている、という意味が込められる。
 
Solanum ナス 属 :
我々にはなじみの深いナス Solanum melongena であるが、いつも目にしているのは改良された園芸品種であり、ナス属の実としては特殊と言える。

一般的な形としては「球形」あるいは楕円形が多く、色は「緑、白、橙、朱、赤」など様々である。
ナスの花と実
ナスの名の由来は「ナカ・ス・ミ 中酸実」が短くなったもの、といわれている。

インド原産のナスは古くに日本に伝えられたようだが、当初は酸っぱい実だったのか・・・。
 

属名 Solanum の由来は色々とあるようだ。
ナス属のある種の古い名前に由来する
ナス属には鎮静作用があり、ラテン語の solamen (慰安 鎮静) あるいは、動詞 solari (落ち着かせる)に由来する

ナス 科 Solanaceae :
ナス属から「ナス科」まで範囲を広げると、

 トマト Lycopersicon esculentum
 トウガラシ・ピーマン Capsicum annuum

が含まれ、ナスとジャガイモとともに重要な野菜がカバーされる。
誰でも、毎日どれか一種類は食べていることだろう。
 


植物の分類 : APG II 分類による フユサンゴ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
以前の分類場所  ナス目  ナス科、ヒルガオ科、ミツガシワ科、ハナシノブ科、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
ナス目  ナス科、ヒルガオ科、など
ナス科  トウガラシ属、チョウセンアサガオ属、タバコ属、ナス属、クコ属、
 トマト属、バンマツリ属、ホオズキ属、ハシリドコロ属、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ