ギョリュウ 御柳
Tamarix chinensis Lour. (1790)
科 名 : ギョリュウ科 Tamaricaceae
属 名 : ギョリュウ属 Tamarix L. (1831)
中国名 : 檉柳 cheng liu
原産地 : 中国、朝鮮半島
日本に渡来したのは 寛保年間(1741-44)とされる『図説 花と樹の大事典』
用 途 : 庭木、盆栽。
中国では 枝・花・樹脂が薬用に用いられ、枝で籠を編むという

分類標本園に植えられている落葉樹。葉が鱗片状であるため、まるでスギなどの針葉樹のように見える。

40番通り        2013.8.5.
分類標本園では成長するままに大きくはできず、適宜 剪定されている。それでも標本園の中では大きい方である。自然のものは高さ 6mになるという。

幹の様子
広葉樹のはずなのに葉が小さいのは、乾燥地帯に適応しながら分化してきた事を示している。

葉とつぼみ        2000.5.6.
開花は春と秋の年二回。春の花序は 前年の枝から、秋の花は 今年伸びた新しい枝に付く。幹から出る太い枝は、うしろに写っているように湾曲する。

ピンクの花   2013.4.28.

開花の様子          2008.5.4.
ここまで近づいてしまうと きれいには感じないかもしれないが、もっと離れた状態(前掲写真)、あるいはひとつひとつの花を見ると悪くない。

花の詳細         2008.5.4.
萼・花弁・雄しべ ともに5枚。春に咲く花には種子ができないそうで、秋の花を観察する予定。

秋? の花              2013.9.5.
秋とは言えない 9月初めの花。花序は枝の先端に付いている。
一部にしかなかったので、まだこれから出てくるのかもしれない。

 
ギョリュウ の 位置












 


分類標本園:  井戸側、中央分離帯から 1列目 左端

 
名前の由来 ギョリュウ Tamarix chinensis

和名 ギョリュウ :
中国名からきたものだが、元の発音 cheng liu (現在の中国名)とは異なる。渡来した後で置き換えられたものだろう。なぜ 全く違う音になったのかは、文末で仮説を考察した。

「柳」は ギョリュウの枝が枝垂れやすくて、カワヤナギなどをイメージさせるため。あるいは、種子に毛が付いていて風に飛ばされる様子をヤナギに喩えたのかもしれない。

種小名 chinensis : 中国原産の 
命名者は ポルトガルの宣教師で植物学者の ローレイロ João de Loureiro (1710-1791)である。
イエズス会の宣教師として インドのゴアと中国のマカオに数年ずつ滞在した後、コーチンシナ(現在のベトナム南部)で35年間過ごした。帰国後に刊行した『コーチンシナの植物相』(1790)に本種を記載した。      Wikipedia による
採取地は中国なのだろう。
 
Tamarix ギョリュウ属 :   川の名前に由来する?
Tamaricaceae ギョリュウ科 :
Tamarix属の命名者はリンネであるが、それ以前にトゥルヌフォールが Tamariscus と名付けていた。

属名の由来として、ふたつの事典に、ピレネー山脈付近のタマリクス川のそばで発見されたため、という説が載っていた。Googleの地図を拡大して探してみたが、同名の川は見つからなかった。

リンネは『植物の種』に、Tamarix gallica と T. germanica の2種を記載している。後者の現在の学名は Myricaria germanica で、分布はヨーロッパ北部となる。

一方、前者の種小名は「ガリア地方の」意味である。ガリア の指す範囲は広く、イタリア北部からフランス・ベルギー その他の国の一部が含まれる。フランスも含まれるので、もしも属名の由来が上記の説ならば、発見されたその植物は Tamarix gallica だろう。

中国名 檉柳 cheng liu :
『角川漢和中辞典』には「檉」の字義として、「かわやなぎ、ギョリュウ」と載っている。しかし、字の成り立ちについては書かれていなかった。そこで、檉の旁(つくり)である「聖」について見てみると、
 
 の字について
「聖」は、耳の口 つまり 耳の孔 と、壬(テイ)とから成る。
テイの音は「よく通る」意味の語源「通(トウ)」から来ており、普通の人が聞こえない 神の声を 聞ける人、聖人を表している。檉 は聖人の木 ということになるが、「檉」一文字 または「檉木」が木の名を表すのかどうかはわからなかった。

そこで、「檉」の字について『大漢和辞典』(諸橋轍次 著/大修館書店/平成11年修訂第2版)を調べた。

 の字について
第一義はやはり「かはらやなぎ」、檉柳のことであった。

その由来として『本草綱目の檉柳』の項が引用されている。
まず別名として「赤檉、赤楊、河柳、雨師、垂糸柳、人柳、三眠柳、観音柳」などの名があること、次に「天から将に雨が降らんとする時、檉は先ず之を知り、気を起こして以て応じる事」また「霜雪を負うても凋(しぼ)まず、乃ち木の聖者なり、故に聖の字を従える」とあった。
『本草綱目』は、16世紀末に中国で発行された薬草書で、全52 巻。植物ごとに、名前、産地、効能、処方などが書かれている。
このため、以下の仮説が考えられる。

中国から渡来したギョリュウについてこの説明を聞いた人々が、cheng の発音は日本で馴染みが薄いために、聖人の木の意を汲んで「おん-やなぎ 御柳」とした。



植物の分類 : APG II 分類による ギョリュウ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
ナデシコ目 ツクバネカズラ科、モウセンゴケ科、ギョリュウ科、イソマツ科、など
ギョリュウ科  ギョリュウ属、ミリカリア属、など
以前の分類場所 スミレ目  イイギリ科、ツゲ科、スミレ科、ギョリュウ科、トケイソウ科など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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