ヒトツバタゴ 一ッ葉タゴ
Chionanthus retusus
Lindl. & Paxton (1852)
科 名: モクセイ科 Oleaceae
属 名: ヒトツバタゴ属 Chionanthus
   D. Royen ex Linn. (1753)
中国名: 流蘇樹 liu su shu
英語名: Chinese fringetree
原産地: 日本では本州中部で隔離分布、対馬。
韓国、台湾、中国。
備 考: 日本各地のものは、それぞれ天然記念物となっている。

植物園には4本のヒトツバタゴがあったが、現在立ち入り禁止の道沿いの1本は枯死している。まずはその位置を。



①:下の段        2022.10.23.
 イチョウ            カラスザンショウ     メタセコイア
70番通り


北方向を見ている。園内の一番西側の歩道 70番通りの左側には、モクセイ科の植物 (シマモクセイ、オオモクセイ、ウスギモクセイ、レンギョウ など)が植えられている。本種 ヒトツバタゴはハンノキ池のあたりで、さらに左奥には塀に沿って、アメリカヒトツバタゴ(枯死)、ウスギモクセイ、キンモクセイなどが続いている。
この木はかつて 地面付近から大きな枝を出していたが、ハンノキが倒れた時に折れてしまった。
①:かつての姿       2015.4.30.
中央から右半分が ソックリ無くなってしまった。
①:伐採後間もないころの様子        2016.9.3.
切り口の長径は 約26センチ。コルク質の樹皮が蓄積され、太くなると複雑にひび割れる。
②:分類標本園横            2022.9.22.
北方向を見ている。山地植物栽培場の柵の中。少し先の右側 杭が並んでいる所が分類標本園。径 45cm、高さ約17m。
ひび割れる前の枝  2019.12.13.
京都植物園。これがヒトツバタゴの枝か と疑うような、思いがけなく滑らかな枝。径5cm弱。
2012.5.5           ③:シマサルスベリ並木           2022.9.22
左:「雪が降り積もったような」と表現される満開時の様子。現在は手前にミヤマガンショウ植えられ、それがぐんぐん大きくなっているために、同じアングルでは撮れなくなっている。
右:長径 65cm、高さ 約16.5m。うしろに並ぶのが シマサルスベリの並木。
④:崖地の大木(枯れ木)
ここは崖の中段で、右側が崖、左うしろにある階段を登った所が売店である。木が密集していて上部が見えないが、幹の途中までしかなく随分前に枯れたようだ。長径 56cm。


.2019.12.13     冬 芽 芽吹き    2016.4.13.
京都植物園
左:頂芽は、葉柄に由来する数枚の高出葉が取り囲んでいる。このまま越冬するので苞芽といえそうだ。側芽は丸く小さい鱗芽。葉は茎から飛び出た位置で落ちている。
右:数対の低出葉がある。幼葉や葉柄は産毛をまとっている。
葉         2000.5.6.
葉序は対生で、葉のサイズは大きいもので長さ10cm程度。
円錐花序      2008.4.27.
新梢の茎頂につき、分枝して円錐形となる。花冠は深く4裂、萼も4裂して披針形となる。純白で美しいが香りが無いのが残念。『樹に咲く花』によると雌雄異株で、小石川では果実を見かけたことがないので、3本とも雄株なのかもしれない。
②:折れた大枝       2007.5.7.
分類標本園横の大木。前夜の風はそれほど強いとは思わなかったのだが、大枝がバサリと落ちていた。
幼 果        2009.7.28.
東山植物園
開花時の小花の数はわからないが、全般に 結実の割合は多くないようだ。事典によると、2室の子房の各室に2個の胚珠があるそうだが、通常 種子はひとつしかできない。
落 果        2008.8.4.
京都植物園
黒く熟して表皮が乾燥しても 萼片は宿存している。
③:黄 葉    2011.12.4.
茎頂に花をつけるために仮軸分枝となり、真っすぐに伸びる枝は少ない。

 
ヒトツバタゴ の 位 置
写真①: G11 a 70番通り 左側、ハンノキ池
写真②: E11 bd 標識42番からすぐの左側、柵内
写真③: C5 a 20番通り、シマサルスベリ並木の右側
写真④: F11 a 50番通り、標識51番の左側、崖際


名前の由来 ヒトツバタゴ
 ヒトツバタゴ:一ッ葉タモ の意
タゴ とは タモの類、特にトネリコ属のトネリコを指す。
タモ類は普通「奇数羽状複葉」だが、本種は単葉であるためにこのような名が付けられたが、分類上は別属である。
 Chionanthus 属:雪のような花の の意味
『羅和辞典/研究社』には載っていないが、『植物學名辞典/牧野』によると chinon 雪+anthos 花 で、樹冠が真っ白になるほどの開花時の様子を表している。
 種小名 retusus:わずかに凹形の
retusus は先端が少しだけ凹んでいる形状を表すが、本種は 葉も花冠裂片もへこむことはないため、名付けた理由がわからない。
そのわけは、以下の「命名物語」を参照のこと。
 モクセイ科 Oleaceae:
モクセイ科の基準属は オリーブ属 Olea である。
オリーブの古いラテン語名による とも、ギリシア語の名前 elaia によるとも言われている。「油質の」という意味のようだ。
 中国名 流蘇樹:
流蘇(苏) とは、中国で昔 使われていた言葉で、車や馬あるいは幕につけた 房状の装飾のことである。
属名は 流蘇樹属。
英語名の fringe も同じ意味である。
和名では、意味は異なるが 紙垂(シデ)が似ている。


 
ヒトツバタゴ の命名物語
は正名、 は異名、
  図版は Biodiversity Heritage Library より

 学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載  正名・異名の対象外
名 称 命名者 属名・備考 など
1737  Chionanthus  D. ロイエン  リンネが記載
『植物の属』第1版 p.335、Appendix (本文への追加)部分に記載。
命名者として「Cl. Royenio」が記している。「Cl.」の意味がわからないのだが、GRIN では D. Royen となっている。
David van Royen (1727–1799)はドイツの植物学者で、ライデン植物園園長だった叔父 Adriaan van Royen (1704–1779) の元で働き、のちに園長となった。
『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
名 称 命名者 属名・備考 など
1753  Chionanthus virginicus  リンネ  アメリカヒトツバタゴ
『植物の種』p.8 に記載し、リンネが属名の命名者となったが、❶によって正式には、D. Royen ex Linn. となる。
リンネは種小名を virginica と 属名を女性とした語尾変化を用いたが、これは間違いで、Chionanthus は男性であため、現在の命名規約で本来の性に修正されて virginicus とされている。
1852  C. retusus  リンドリー 他  ヒトツバタゴ
②『植物の種』から100年後、リンドリー と パクストンによる『Paxton's flower garden』第3巻 p.85。図とともに記載されている。
ロバート・フォーチュン(1812–1880)が、中国からもたらしたもの。

この個体の葉の先端には、種小名の由来となった凹みがある。しかし 左右の葉には無いので、顕著な特徴というわけではなさそうだ。
気になるのは、説明文に「甘い香りのする花」とあること。同書にあるフォーチュンの「メモ」にも、そのように書かれている。小石川植物園では、香りをかいだ記憶はない。


植物の分類 : APG IV 分類による ナンジャモンジャ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ綱 (球果植物綱)は マツ目 のみ
 被子植物 :  種子が心皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
 シソ目  モクセイ科、イワタバコ科、ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、
 クマツヅラ科、ノウゼンカズラ科、ゴマ科、シソ科、キリ科、など
  モクセイ科  トネリコ属、オリーブ属、モクセイ属、ヒトツバタゴ属、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ