ホルトノキ ホルトの木
Elaeocarpus sylvestris Poir.
var. ellipticus Hara
  園外植物:小石川植物園には植えられていない。
科 名: ホルトノキ科 Elaeocarpaceae
属 名: ホルトノキ属 Elaeocarpus Linn. (1760)
原産地: 本州 千葉県南部以西、四国、九州、沖縄
済州島、中国南部、台湾、インドシナ
用 途: 街路樹、庭園樹。利用は日本南部に多いが、最近は東京でも使われている。
建築材、器具材、シイタケ栽培のほだ木。
樹皮と枝葉の煎汁は大島紬の黒褐色の染料に使われる。
備 考: 参考にしている DRIN* には本種の登録が無い。このため、学名は日本で一般的に使われているもの、となる。
*)GRIN:アメリカ農務省によるデータベース Germplasm Resource Information Network

樹 形        1999.11.19.
街路樹ではなく 緑陰樹。大分市で見たものだが かなりの高さだ。
自然のものは30mにもなるという。

樹 形      2011.3.5.
熱海市伊豆山。幹の直径 約 40センチの常緑樹。石垣の縁で よくも大きくなったものだ。

幹の様子              2009.5.12.
足摺亜熱帯自然植物園の2本の大木。大きくなると右のように「板根」が発達する。5月の新緑の頃が 落葉の時期でもある。
落ち葉の様子     2009.5.12.

芽出しの様子         2012.5.27.
前年の枝の葉腋から たくさんの花芽が出てきている。この年の冬には、葉が異常に落ちてしまっている。

葉の様子          2012.7.16.
葉は細長く、緩やかだが はっきりとした鋸歯がある。

落葉前に真っ赤になるのが ホルトノキ属の特徴。大量に落ちる時期でなくても、常にどこかに赤い葉がある。

花の様子        2012.7.16.

花は下向きに咲く。花弁は 先端が糸状に細かく裂けている。

真下から見上げたもの。 萼、花弁ともに5枚。

夏の落ち葉        2012.7.16.
色がうすいのは、葉の裏側。

実の様子     2011.3.5.
確かに 若いオリーブの実 そっくりである。熟すと黒紫色になるが、まだ 観察したことがない。


名前の由来 ホルトノキ 
Elaeocarpus sylvestris var. ellipticus

和名 ホルトノキ : ポルトガルの木
ホルトノキは「コバンモチ」とともに 日本に自生するホルトノキ属の種である。葉が色付くので「ヅクノキ」、あるいは「モガシ」などと呼ばれるが、江戸時代に「オリーブ( ポルトガルの木)」と混同されて、ポルトガルノキ→ ホルトノキ に転訛した、といわれている。
間違えたのは、平賀源内だという説もある。オリーブの実だけは知っているが 木そのものを知らない人が、ホルトノキの実を見たら、間違えるかも知れない。

変種名 ellipticus : 楕円形の
ホルトノキの果実に由来するものかどうか 不明。

ホルトノキやその基準変種である E. sylvestris の学名は、Index Kewensis ver. 2.0 や GRIN に載っていないために、情報不足である。『園芸植物大事典/小学館』などの 日本の事典には載っている。
変種名の命名者は 原 寛 (1911-1986)である。

Elaeocarpus 属 : オリーブの実
ギリシア語の「elaio オリーブの木 + karpos 果実」で、ホルトノキ属の果実や種子が オリーブに似ているため。

この学名を聞くか 読むかしていると、ホルトノキをオリーブの木と勘違いするかも知れない。


種小名 sylvestris : 森林の、森林に生える
ホルトノキの「基準変種*」に相当するのが
  Elaeocarpus sylvestris  で
筑波植物園に植栽されている。命名したのは、フランスの聖職者にして冒険家の植物学者、ポアレ(Jean Louis Marie Poiret 1755-1834)である。
『The International Plant Names Index』には載っていて、備考欄には「コキンシナ」とある。コーチシナは フランス統治時代のベトナム南部の呼び方である。

*基準変種 : ある種Aに「変種B’」が見つかった時、元となる種Aを「基準変種」と呼ぶ。変種ではないのにおかしな名称だが、意味としては「変種の基準」である。 正式な学名は種小名を繰り返して、
   Elaeocarpus sylvestris var. sylvestris
とする。var. 以下は書かなくてもよい。

新たな変種B’ には、命名者が好きな変種名を付けられる。
ホルトノキは、E. sylvestris var. ellipticus

筑波植物園 Elaeocarpus sylvestris  2013.8.3.
ホルトノキよりも圧倒的に花数が多く、密に付く。ひとつひとつの花はとてもよく似ている。
E. sylvestris の葉      2013.8.3.
両者を隣り合わせて比較したわけではないが、ホルトノキよりも大きくてしなやかなイメージ。やはり鋸歯があるが、少し離れると見えなくなるくらいの、凹みの少ない鋸歯である。驚くほど鮮やかに紅葉するのは ホルトノキ属ならでは。
2014.10.14.

実の様子             2014.10.14.
基準変種も「楕円形」だ。こちらの方が少し いびつか?



植物の分類 : APG II 分類による ホルトノキ の位置
クロンキストの分類で、バラ目よりも前にあった ツバキ目・アオイ目・ツツジ目・カキノキ目 などは、APG分類では大幅に位置が変更になった。なかにはキク亜綱にまとめられて「目」が無くなったものもある。
ホルトノキ科も 以前はアオイ目にあったが、APGではカタバミ目に入れられている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所 アオイ目  ホルトノキ科、シナノキ科、アオギリ科、パンヤ科、アオイ科
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
カタバミ目 カタバミ科、マメモドキ科、ホルトノキ科、ブルネリア科、など
ホルトノキ科  ホルトノキ属、プラティテカ属、テトラテカ属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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