モミジイチゴ 紅葉苺
Rubus palmatus Thunb.
        var. coptophyllus Koidz. (1913)
← Rubus coptophyllus A. Gray (1857)
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : キイチゴ属 Rubus Linn.
原産地 : 本州、中部地方以北
用 途 :
実は生で食べられておいしいので、昔は 子供たちのおやつだったそうだ。


崖の下に沿った 60番通り右側、メタセコイアの反対側。 崖下の側溝に沿って、いくつかの株が生えている。 

@ : 春の60番通り 花が咲いている         2007.3.27
左から伸びる木の影が メタセコイア。 木の高さは どれも 1m 50センチ ぐらい。 ほかに 分類表本園にも植えられている。

キイチゴ属は、ひとつのシュートに注目すると、その寿命は二年未満で、樹木としては極めて短い。 一年目に主軸と側枝を伸ばし、二年目に花を付けて その冬には枯れてしまう。 年輪もできない。

伸び出した新梢            2015.3.25
長さ 約 20センチで アスパラガスのようだが、どんどんと伸びるのだろう。
一番下が 2年前に出た枝で、冬の間に枯れたもの。は新梢。


新 緑               2014.5.24
垂直に1メートルほど伸びた後はカーブを画く。

A : 分類表本園           2014.5.24
右の畝の一番奥が モミジイチゴで、その手前に「ホソバモミジイチゴ」が並んでいる。 場所は売店側から9列目、養生所の井戸に向かって左側。

A : 根元の様子    2014.5.24
黄緑色が今年出た枝で、茶色いのが昨年のもの。 それ以前の枯れた枝が見あたらないのは、毎年剪定されるためだろう。

@ : 枯れた 3年目の枝         2014.5.24

A : 一年目の新梢          2014.5.24
この個体の幼葉は真っ赤、枝も赤味が。 枝にはバラのような刺がある。

葉のサイズの違い          2014.5.24
大きい葉が 一年目の枝に付くもの。 長さ 10 〜 13センチ程度。 二年目にその腋から出る葉は とても小さいが、形状は ほぼ 相似形。

一年目の枝の上部には 引き続き 多数の側枝 が出る        2014.5.24
主軸がまだ伸び続けている時期に側枝が出るので、「同時枝」である。


二年枝の芽出し           2012.3.12
ほとんどが花芽となり 一箇所に ひとつの花が付くが、ここでは つぼみはまだわからない。 別の枝では はっきりと見えていた。 葉の数は 2 ・3枚。
つぼみ              2012.3.12

ぶら下がる 花            2011.3.27

バラ科の花             2011.3.27
キイチゴ属の場合は、花弁 萼は5枚、雄しべ 雌しべは多数、イチゴ類と違って花床は肥大せず、集合果となる。

A : 実の様子            2014.5.24
以前に 郊外で見かけた時に食べたことがあるが、甘かった。 しかし育ちが悪く、皮と種子がたくさん残った。 斜面にある @の数株には、実が生らない。 いつも萎れた花がいくつも残っているだけ。
             2014.5.24


 
モミジイチゴ の 位 置
写真@ : F12 c
60番通り右側、メタセコイアの所。 数株。
写真A : 分類表本園。 売店側から9列目、井戸に向かって左側

名前の由来 モミジイチゴ Rubus palmatus var. coptophyllus

和名 モミジイチゴ : 葉の形状による
はたして カエデ(モミジ)の掌状葉に似ているか? 
モミジイチゴ(一年目) イロハモミジ ミネカエデ
モミジと聞いて一番に思い出す「イロハモミジ」の葉には、似ていない。 色々と捜した結果、普通には見かけない「ミネカエデ」の葉が似ていた。 単に 葉に切れ込みがあるという「カエデのイメージ」にすぎないようだ。

変種名 coptophyllus : 分裂葉の
現在はナガバモミジイチゴの変種。 
命名者は 19世紀アメリカで最も重要な植物学者といわれている エイサ・グレイ(1810-1888)で、初めは 変種ではなく、キイチゴ属の種(しゅ) Rubus coptophyllus と記載したが、小泉源一が変更した。

種小名 palmatus : 掌状の
母種のナガバモミジイチゴ R. palmatus の葉は、通常3裂する。
変種に変更された結果、種小名 と 変種名に ほぼ同じ意味の語が並んだ。
ナガバモミジイチゴ の葉

キイチゴ
属 :
草本であるイチゴに対して、木となる キイチゴ。 しかし 一般の樹木に較べると、二年で枯れるものが多いキイチゴ属は、草に近いと言える。

Rubus 属 :
ラテン語の ruber (赤い)に由来する。 モミジイチゴの実はオレンジ色だが、多くの実が あるいは 命名時の実の色が赤かったため。
科名の Rose はケルト語の rhod rhodd で、同じ 赤色の意味。


キイチゴ と イチゴ
草本のイチゴ と 一応 木本(もくほん)のキイチゴ。 バラ科バラ亜科の中では少し離れた位置に分類され、ほかにも違いがある。

部位 キイチゴ イチゴ 備考
形態  木本 低木  多年生 草本  イチゴは蔓(ほふく枝)を出して増える
 刺のあるものが多い  刺は無い
 5枚  副萼がある  5数性であることは 同じ
胚珠  各心皮に2個の胚珠  各心皮に1個の胚珠  胚珠が二つあっても、最終的にできる種子は
 各 1個ずつのようだ
果実  花床は肥大しない
  真果の集合体である
 花床が肥大する
   偽果である
 イチゴの赤く熟して食用になる部分は「花床」
 果実の大部分が果皮でないものを「偽果」と呼ぶ

モミジイチゴは集合果 イチゴの萼 と 副萼 花床の周囲に付く痩果
外側の大きいものを萼とした。
下側の一枚は先が2裂している
一見 種子に見えるが・・・


モミジイチゴの枝の伸び

2015年春に、新梢3本の伸長の様子を およそ3日おきに計測した。 数値は地面からの長さ。 一日の伸びの量は、4月の平均で 約 4 cm 、5月になると急に遅くなった。

観察枝 3月
26日
4/4 4/15 4/21 4/30 5/4 5/12 5/19 6月
2日
一日平均の伸び量 備 考
単位:cm
3〜4月 5月
35 74 109 143 181 190 206 221 239 4.3 1.8 側枝は第40節
からの同時枝
側枝 - - - - 15 28 49 60 85 3.3 2.0
21 60 91 118 159 170 184 189 200 4.1 1.3
- 72 108 138 181 196 211 220 231 4.2 1.6



植物の分類 APG II 分類による モミジイチゴ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所  バラ目  トベラ科、ベンケイソウ科、ユキノシタ科、バラ科、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 バラ目  バラ科、グミ科、ニレ科、アサ科、クワ科、イラクサ科、など
バラ科  モモ属、サクラ属、リンゴ属、カリン属、バラ属、キイチゴ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ