名前の由来 カジノキ Broussonetia papyrifera |
カジノキ |
カジノキとは別種の ヒメコウゾ や コウゾ の古名を「カゾ」と言い、似た種類の本種も「カゾノキ」と呼ばれたものが訛ったもの。
昔から 日本でも中国でも、「カジノキ」と「ヒメコウゾ」、その雑種である「コウゾ」が混同されていたようだ。
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梶の木 |
「梶」の音は「ビ」であるが、『角川漢和中辞典』によると訓読みは無い。
意味としては「@こずえ、Aかじ」があり、「かじ」には例として、「船のかじ(舵)」と荷車などの前にある手を掛けて引く「梶棒」が載っている。 |
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そこで、由来の別案:
「梶の木は 櫓や櫂などの船の用材にも使われ、船のカジ、カジの棒をいう。 梶の字義は尻尾のような細い木である。 カジの語源は カキ(掻き)+モチ(持ち)で、カキモチ→カイモチ→カイジ→カジ
と変化した。カジノキの材がこれらに用いられたため、カジ が樹名に転用された。」 |
『語源辞典 植物編』吉田金彦 より
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種小名 papyrifera : 紙のある という意味 |
カジノキの学名について、植物名規約上の最初の命名者は リンネ ということになっている。 記載されたのは『植物の種』(1753) 986ページで、クワ属 Morus に分類されているが、その項には、 参考文献のひとつとして ケンペル Engelbert Kaempfer による『廻国奇観』があげられている。
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『植物の種』/復刻版 1934 赤線は筆者が加筆 |
左が種小名。 Kaempf. amoen. がケンペルの『廻国奇観』
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ドイツ人ケンペルは、オランダ商館付きの医師として 1690年に長崎にやってきた。 日本に2年あまり滞在したケンペルはたくさんの植物調査も行い、帰国後の1712年に
『廻国奇観』 (原題 : Amoenitatum Exoticarum )を刊行した。
カジノキ(書中の項目名は 楮、Kaadsj )については図版まである上に、その図版内には 「楮」の漢字と ”Morus papyrifera” という現在の学名に相当する文字の記載まである。
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『廻国奇観』/国際日本文化研究センター所蔵
資料利用許可 取得済み(日文研資利第009号) |
図では 左側が「楮」(カジノキ)である。
ケンペルは カジノキが日本原産ではない事まではわからなかったかも知れないが、当時すでに栽培されて紙の原料として使われていることを知って、papyrifera という言葉を記載したものである。
リンネがこれを参考にして カジノキの学名に採用したのは明らかである。
『廻国奇観』にはカジノキに続いて、ツルコウゾ (書中 漢字の表記は無し、Kaadsj Kadsira , Kago Kadsira )の記載もあるのだが、不思議なことに、『植物の種』には
この「ツルコウゾ」の記載がない。図が無かったためだろうか。 |
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Broussonetia 属 : 人名による |
18世紀 フランスの博物学者ブルソネ P. M. A. Broussonet (1761-1807) を顕彰したもの。
熱帯・温帯アジアに8種、マダガスカルに1種があるという。
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クワ科 Moraceae : mor (黒の意) から。 |
クワに対するラテン古名に由来する。そのもともとの語源はケルト語の mor で、熟した時の黒いクワの実からきている。
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参 考 ツルコウゾ と ヒメコウゾ |
『植物の種』には記載されなかった「ツルコウゾ」と、もう一種 日本に自生する「ヒメコウゾ」の学名は、ともにシーボルトが命名している。
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ツルコウゾ 蔓楮 : Broussonetia kaempferi Sieb. (1830) |
『廻国奇観』に載っていることを知っていたシーボルトが、ケンペルを記念して名付けたものである。
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ヒメコウゾ 姫楮 : Broussonetia kazinoki Sieb. (1830) |
本州、四国、九州の山地などにごく普通にある木で、古くは製紙の原料とされた。
種小名 kazinoki は、シーボルトが間違えたのか、教えた人の間違いか。
カジノキは雌雄異株、ヒメコウゾは雌雄同株というはっきりとした違いがあるのだが、一般の人にとってはどちらが「カジノキ」でも、「コウゾ」でも 問題はなかったためだろう。
残念ながら 両種共に写真がない。
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コウゾ 楮 : Broussonetia kazinoki × B. papyrifera |
現在栽培されているのは、雑種の中から選別されてきたもので、様々な種類があるそうだ。 |
コウゾ |
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小石川植物園 |
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