キジュ 喜樹
( カンレンボク 旱蓮木 )
Camptotheca acuminata Decne. (1873)
科 名 : ヌマミズキ (ニッサ) 科 Nyssaceae
属 名 : カンレンボク属 
Camptotheca Decne. (1873)
別 名 : カンレンボク 旱蓮木
中国名 : 旱蓮木、喜樹
英 名 : happy tree , cancer tree
原産地 : 中国の揚子江以南 標高1,000m以上
用 途 : 街路樹
主に根から抽出されるカンプトテシンというアルカロイドに抗癌作用があるとして注目されている

植物園では園の中程 20番通りの左側にあるが、二本とも背が高く花の様子は全く観察できない。

ほとんどの写真が園外のものとなるが、主には 伊豆熱川バナナワニ園主催の、中国植物観察ツアーに参加して、雲南省 盈江(インジャン) 近郊で見かけたもの。

植物園のキジュ
手前に細い木が1本あるが、中央奥 2本の背の高い木である。
高さ 20〜25mになるそうだが、この木は 30m近くある。

幹の様子
目通りの直径は、手前が 65cm、奥が 50cm。


中国では自然林の中にも生えていたが、道路脇に街路樹のように植えられているものもあった。
落葉樹であるが、ツヤのある緑の葉と赤い若葉のコントラストがきれいである。
 
7月中旬 高さ 7m 幼木
葉と若葉の様子
葉の周囲が白く見える。  葉裏を撮影するのを忘れてしまった。
 
鋸歯のある葉
事典には葉は全縁とあるが、完全な鋸歯状の葉もあった。

突然変異であろう。
『Index Kewensis』 を調べると 中国人と思われる人の命名で、
Camptotheca acuminata Decne. var. tenuifolia Fang et Soong (1975) という変種があったが、上の写真のものではないだろう。 tenuifolia とは「葉の薄い」という意味である。

私だったらこの葉には「serratifolia 鋸歯葉の」と付けるので・・・。
 

垂れ気味になる枝に付く花
7月の中国では丁度、ボール状の集合花が咲き始めたところだった。

事典によると雌雄同株で、頂生するのが雌花。脇に出ているのが雄花 ということであるので、雌花だけが咲いていることになる。

花の様子
しかし、アップした写真を見ると 雄花のように見える。
雌しべの先端は、2〜3に分かれているそうだ。
二番目が咲いて、比較しないとはっきりしない。

果実 (11月中旬 福岡植物園)
本種の特徴である果実は、事典には「翼果」と記載されているが、通常三角形、あるいは扁平の断面で少し厚みがあり、いわゆる羽が付いているわけではない。
しかし中身はパルプ質であるために軽く、強風の時なら、高い梢から 50mぐらいは飛ばされるようだ。
最後は濃い茶色の枯れた状態になる。 ホール全体の大きさが 直径 50〜60mm。ひとつひとつの長さは約 25mm。

10月初旬から、まだ薄黄緑が残っている果実が落下していた。

木の下の実 (2010年)
10月末から落ち始める。 初めに落ちているのは黄緑がかった黄色のきれいな果実である。 茶色くなったものは、11月末に落ちているものを拾い集めた。

右写真手前の細いものが、翼を手で剥き取った「種子」である。

 
キジュ の 位 置
  C7 d 20番通り左奥 2本

名前の由来 キジュ Camptotheca acuminata

キジュ 喜樹
中国原産であり、中国名「喜樹 Xi Shu」の音読みである。

昆明植物園の名札には、説明部に抗癌作用のことが書かれている。 
キジュの由来ははっきりしないが、一説に、1770年代に中国の植物学者がこの木の薬効を発見し、「人類を救う、幸運をもたらす木」として名付けられた というものがある。

福岡植物園の木は、福岡市と中国広州市が「友好都市」となってから10周年を迎えたことを記念して、1989年5月に植えられたもので、約20年前のことである。
その説明には「生命力、繁殖力の強い木で、それを健康長寿や子孫繁栄に結びつけて「喜樹」と呼ばれている。」とある。
立て札を作るに当たって、中国側に喜樹の由来を確かめたに違いない。

確かにそうなのだとは思うが、「繁殖力の強い木」は何も喜樹の専売特許ではない。納得できる由来としては、今ひとつ。

英語圏ではもっぱら、喜樹を訳した Happy Tree と呼ばれている。
 
別名 カンレンボク : 旱蓮木
これも中国名「旱蓮木」を音読みしたものであるが、由来はわからない。

意味としては「(水辺ではなく)に生えるハスの木」ということになるが、ご覧のように、ハスに似ている点は皆無である。

カンレンボクの果実は、それぞれが中心の果床に一点で付いて球状になっており、バラバラが特徴であり、種子は中心から離れたところにある。
(前掲の果実の写真を参考)

「レン 蓮」のもとの意味は、実が独立しておらず、いくつもがひとまとまりになっている状態を表す名のようだ。

カンレンボクとは逆の付き方である。
種小名 acuminata : 鋭尖の、漸尖頭の という意味
笹の葉の先のように、次第に尖っていく状態を示す言葉で、針状の集合果実にちなんでいるものと思われるが、葉の先端の状態を表しているのかも知れない。
 
Camptotheca カンレンボク属 :
ギリシア語で「曲がった」の意味の kamptos と、 「細胞」の意味の theke に由来するといわれている。『園芸植物大事典』

「曲がった細胞」とは何を指すのか?

属名を定義したのは、ベルギー生まれ、フランスの植物学者・農学者の Joseph Decaisne (1807-1882) であり、プラントハンターがアジアから採取してきた植物を研究したようだ。その多くは標本だったのであろう。

「曲がった細胞」は、丸い花がついた花序 (花柄) の湾曲した状態か、垂れ下がって生るボール状の果実、あたりではないだろうか。

『植物分類表/大場秀章』には掲載がないが、アメリカ農務省のデータベース GRIN に載っているので、問題ないだろう。 園芸植物大事典でも本種 一種しかない単型属、となっている
 
ヌマミズキ科 ニッサ科  Nyssaceae
一部に水辺に生える種類があり、ミズキ科に近い種類であるために、ヌマミズキという和名が付けられている。
学名のまま、ニッサ科ということも多い。

学名 Nyssa も「水の精」の名前にちなんで名付けられたようだ。『園芸植物大事典』、『植物學名辞典』

ニッサ科には、カンレンボク属 とハンカチノキ属、ニッサ属など 属の数は限られ、植物の数も少ない。
『週間朝日百科/植物の世界』では、ミズキ科として分類されており、独立した科とすることもある という但し書きがある。
 
紅葉の美しい ニッサボク Nyssa sinensis
小石川植物園 11月末〜12月初め
 
ニッサボクの雄花 ニッサボクの果実



植物の分類 APG II 分類による キジュ の位置
クロンキストの分類では「バラ亜綱」だったが、より後で分化した「キク亜綱」に変更された。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所  ミズキ目  ウリノキ科、ヌマミズキ科、ミズキ科、ガリア科
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
 ミズキ目  ミズキ科、ヌマミズキ科、アジサイ科、など
ヌマミズキ科  ハンカチクキ属、ヌマミズキ属、カンレンボク属
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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