ウバメガシ 姥目樫
   Quercus phillyraeoides
         A. Gray (1858-59)
科 名 : ブナ科 Fagaceae
属 名 : コナラ属 Quercus Linn. (1842)
中国名 : 鳥崗櫟 wu gang li
原産地 : 本州の関東以西の暖地の海岸
中国中部、南部
用 途 : 庭木、生け垣、刈り込み庭木。
炭、特に紀州産の材で作るものは備長炭とよばれ、鰻屋・料理店で珍重される。
材が堅いため、かつては和船の艪杭・艪臍として使われた。

ブナ科の樹木には和名に統一が無く、カシ 樫 の名が、色々な属にまたがって付けられている。たとえば、マテバシイ属の Lithocarpus glaber に「シリブカガシ」の和名が付いている。
     ブナ科の 和名 比較一覧表は 別項で掲載した。
園内には5本のウバメガシが植えられている。

三本のウバメガシ        2015.1.14.
分類表本園の北側に3本が植えられている。高さは @が 約10m、AとBは 約14m。

@:近くから       2015.1.14.
前掲写真と同じように北方向を見ている。手前のスズカケノキの枝が覆い被さっている。

@:標識33番の先      2012.4.30.
33番通りを少し歩いて @の木の横に出る。この写真は西方向を見ている。左手が分類表本園、右側がハンカチノキ。
左側に写っているプラタナスの大木のために、ウバメガシの枝は反対側に「真横に」張り出している。大雪による枝折れが心配だ。この木は通路のそばにあってしかも低い位置に枝があり、観察に都合がよい。ABの木は 丁度この奥になる。

その枝の下から東方向を見たのが次の写真。クスの大木が見える。

@:位置の確認       2012.11.14.
30番通りで南方向を振り返っている。旧養生所の井戸の近く。写っているのは張り出した枝だけで、ウバメガシの幹は右側にある。

C:シマサルスベリの手前     2015.2.11.
主幹が折れて 叢生状態。高さは 2m強。

D:サネブトナツメの隣 2015.1.20
高さ 約15m。右手前の竹垣が由緒のあるサネブトナツメで、植物園が史蹟に指定されたのを機会に、周囲の木が大幅剪定された。
大切なウバメガシが倒れた状態であるために、日当たりを良くして回復を図るためである。

E:株立ちウバメガシ      2014.2.23.
右がヤナギ池。2014年2月14日夜の大雪で、一本が通路に倒れかかってしまった状態。その一本はやむなく伐採。
根元から6本の幹が出ていた。恐らく昔は 一本の木だったものが株立ちになったのだろう。幹の太さは 4〜7センチ。伐採時に年輪を数えるのを忘れてしまった。防腐剤が塗られてしまって、今となってはわからない。

A:幹    2013.10.19.
縦に細く割れ目ができる。目通りの幹の太さ 約 55センチ。

A:枝振り          2015.1.14.
樹幹の周辺に 葉が密生する。内部にはほとんど葉が無い。刈り込みに強く、耐乾性・耐潮生もあるために、特に西日本では庭木や街路樹にも使われるそうだ。

赤い冬芽        2015.1.14.
頂芽のほかに、枝の先端附近で節間のつまった葉腋にも冬芽が付く(頂生側芽)。尖った芽鱗は濃淡のツートンカラーで毛は無い。春には頂芽と1〜4本の側芽が伸びる。伸びる本数は、主幹かどうか・日当たりの良し悪し・枝の勢い・枝の混み具合などで増減する。

芽吹きの様子       2011.4.15.
赤いのが芽鱗、新葉には少しだけ毛が付いている。基部(芽鱗の葉腋)から雄花が伸び出している。葉と花を含むので「混芽」である。

伸び出した新梢と雄花     2011.4.20.
雄花序の基部には托葉由来の総苞、葉にも托葉が付いているが、すぐに落ちる。葉は鮮やかな黄緑色で艶がある。

垂れ下がった雄花      2011.4.29.
新しく伸び出す枝の基部に付く。花被片は萼だけで目立たない。

雌花は新梢の先の方に付く    2013.4.23.
枝、葉柄、花序軸には細かな星状毛が付いている。通常雌花は2個ずつ付く。奥の雄花の花糸が伸びているが、まだ花粉は出ていない。
受粉した果実は、一年目はほとんど成長せず、大きくなり始めるのは翌年の夏からで、約1年半かけて秋に熟す。

黄 葉         2008.4.26.
古い葉は 春と秋に黄色くなって落葉する。

大きくならない果実     2012.11.14.
翌春でも大きくならない果実    2011.5.7.
翌年の春の様子。一年経っても まったく大きくならない。二個の果実のうち、大きくなるのは片方だけのことが多い。

途中が無くて、急に 成熟大の写真に。

ほぼ成熟大       2011.10.9.

成 熟        2012.11.14.
大きさは、大きいもので 長さ 25ミリ、幅 15ミリ。


C:葉の様子       2015.1.14.
皮質で光沢のある葉、基部3分の1には鋸歯がない。長さ3〜4センチ。よく見ると、表面に小皺がある。

C:ひこばえの葉           2015.1.14.
前掲写真と同じ木の切り株から出た今年枝の葉。長さは4センチ程度と変わらないが、幅が狭めで細長く見える。基の方まで鋭い鋸歯がある。表面にも まだ星状毛が残っている。


 
ウバメガシ の 位 置
写真@: D9b 標識33番、井戸の先 左側
写真A: E9 a 標識33番と43番の間
写真B: E9 a 標識43番の近く
写真C: C5 ac 20番通り左側
写真D: B4 d 20番通り右手、サネブトナツメの先
写真E: G9c 柳池のほとり
 別項で取り上げる チリメンガシ

名前の由来 ウバメガシ Quercus phillyraeoides

和名 ウバメガシ 姥目樫、姥芽樫 : 姥女樫?
『花と樹の大事典』には
  1.芽だしの色が茶褐色になるため
  2.既婚婦人のお歯黒染料を 嫩芽から採ったため
  3.葉の表面の皺から老女を連想して
が載っている。さて、どれでしょう?
1. の説、芽出しの色はさほど茶色にはならず、むしろシラ カシの方が赤い。
2. の「嫩」字義は「若い・やわらかい」だが、音は「ドン」である。嫩芽 ドンガ から採った染料を使うのは老婆とは限らない。
3. 皺だとすると 姥芽 ではなく「姥女」だが、仔細に観察しないと気がつかない。

種小名 phillyraeoides :
「モクセイ科の Phillyrea属に似た」の意味で、主に葉の様子に由来すると思われる。
Phillyrea latifolia   Wikipediaより
写真を見ると 葉の皺、浅い鋸歯などが似ていると言えよう。

Phillyrea属は 地中海沿岸やヨーロッパ南部に2種ないし3種がある。属名はリンネ以前にトゥルヌフォールらが記載していた。リンネが『植物の種』に2種1変種を記載して以来、100種近い種が記載されたが、GRINでは現在3種となっている。
A. Gray
命名者の Asa Gray (1810-1888) はアメリカの著名な植物学者で、北アメリカの植物相を研究した。

グレイが本種を命名することになった経緯は 不明。

属名 コナラ属 Quercus
ケルト語の cuer 良質の、立派な + cuez 樹木。材が有用なことに由来する。もともとはコナラ属のある種の古名だそうだ。

ブナ科 Fagaceae
ギリシア語 phago 食べる に由来する。
小石川植物園には イヌブナは大木と枯れかかったものが一本ずつあるが、ブナ は無い。



植物の分類 : APG III 分類による ウバメガシ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ
モクレン亜綱 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類位置 ブナ目  バラノプス科、ブナ科、ナンキョクブナ科、カバノキ科、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
ブナ目 ナンキョクブナ科、ブナ科、ヤマモモ科、カバノキ科、クルミ科、など
ブナ科  クリ属、シイ属、ブナ属、マテバシイ属、コナラ
アオイ群: フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。
小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ