カ ヤ 榧
Torreya nucifera Siebold & Zucc. (1846)
← Taxus nucifera Linn. (1753)
 
科 名 : イチイ科 Taxaceae
属 名 : カヤ属 Torreya Arn (1738),
        nom.cons.
中国名: 日本榧樹 ri ben fei shu
英語名: Japanese totteya
原産地: 本州は山形県・宮城県以南、四国、九州
用 途: 庭木、建築材、桶、特に碁盤材として有名。
種子を食用、採油、薬用とする


日本特産の針葉樹で、雌雄異株。小石川植物園には 針葉樹林に雌雄のペアがあり、そのほかにも雌株が一本、不明が一本ある。

①:60番通りのカヤ  2013.9.5.
61番の標識から ほんの15mほどの右手。この写真では木が多くてわかりにくいが、真下に行けば名札もよく見え、手に取れる所に枝も枝垂れている。
ところが、見た範囲では実が生っておらず、雄花もできていないので、雌雄は不明。雌株のような気がするが・・・・。

②:30番通り左側の雌株
標識35番 震災記念碑から日本庭園に下りていく緩やかな坂(スダジイ坂)から撮ったもの。木の右側が 30番通りで、これは雌株。

③:奥の雌株   2013.8.20.
30番通りを奥へと進み、標識37番から見ると正面に見える。幹は中央に白い名札があるところ。高さ 約16m。左側にモッコクの枝が張り出してきている。右手前はガビハナミズキ。

針葉樹林の2本         2012.8.9.
   ↑ ④:雄株                ③:雌株 ↑
奥から振り返って見たもの。雄株の方は 高さ 約20m。両方ともに 下枝が枝垂れているので、観察ができる。

④ 雄株        幹の様子        ③ 雌株    2012.5.8.
左の写真、苔むした雄株の奥に見えるのが 雌株。雌株は 根元を踏みつけられないように、周囲に生け垣がある。

カヤの実は 受粉から1年半掛けて大きくなる。大きくなるのは2年目に入ってからだが、一年間の様子を同時進行で見ていこう。

2012年と13年 両方の写真があるので、日付はあくまで参考に。

③ 雌株:葉の様子       2013.3.8.
葉はほぼ十字対生するが、ほとんど長さのない葉柄部分でねじれて、日を受けるために水平に並ぶ。葉は同じ属のイチイやイヌガヤよりも硬く、先端が尖って少し痛い。長さは 2~3センチ。

④ 雄株:葉の裏側       2013.3.8.
裏には2本の白い気孔帯がある。昨年の枝の葉腋にたくさん付いているのは、大きくなってきた雄花序。

③ 芽鱗に包まれた冬芽     2013.3.22.

④ 膨らんできた雄花序     2013.4.3.
総苞を押し広げて 雄しべのかたまりが顔を出してくる。

④ 成長して花粉を出し始めた雄花  2011.4.26.
葯が開くと 黒っぽい色となる。

④ 満開の雄花       2013.4.23.

③ 新芽とともに成熟した雌花が   2013.4.23.
雌花は新しい枝の基部に付く。裸子植物特有の「受粉滴」を出しているのが見えた。種子植物では雌しべの柱頭が湿っているものがあるが、それと同じ働きをする。
裸子植物は一般に風媒花で、花粉は雌花から飛び出している滴に付着する。受粉滴は、ある時期に中に吸い込まれると考えられる。
各葉腋に2個ずつ付く胚珠のうち、種子として大きくなるのはどちらか片方だけ。

③ 伸び出した今年の枝      2012.5.8.
昨年受粉した種子は、少しだけ大きくなってきた。3年目の枝↑は赤茶色に変化している。

③ 大きくなってきた実     2012.5.31.
種子は初めから仮種皮(かしゅひ)に包まれたまま成長する。その基部に数枚の鱗片葉がある。
仮種皮は、珠柄(胚珠の付け根あたり) または胎座が肥大して種子を覆うもので、種衣(しゅい)とも呼ぶ。

③ ぐんぐん成長する種子     2013.6.18.
幅14mm 長さ25mm まで成長した昨年の実。春に受粉した実の大きさは ちっとも変わらない。

③ その後はあまり変化無し    2013.8.20.
もちろん 内部で種子が充実しているはず。

④ 雄株では早くも来年の雄花を準備  2013.8.20.
とにかく、成長に時間をかける木。緻密な材ができるのも、少しずつしか成長しないためである。

③ 仮種皮が裂ける       2008.10.5.
種子が成熟しても、仮種皮は緑のままで落下する。

③ 仮種皮の様子       2012.10.8.
仮種皮は繊維質で、落ちている種子を触ると簡単にくずれる。種子は明るい茶色で硬い種皮に包まれている。
種子の様子
種皮を石で割ってみると 中にもう一枚皮があるので、外種皮ということになろう。内種皮は襞がある。切るだけで油がにじみ出てくる。煎った方がおいしいそうだ。

④ 来年の雄花       2012.10.11.
8月の時に較べれば、大きくなっている。


 
カ ヤ の 位 置
写真①: E14ab 60番通り右側、雌雄不明
写真②: D6 a 30番通り左側、雌株
写真③: C3 d

針葉樹林、30番通り右側、雌株
写真④: C3 bd ③の先、雄株


名前の由来 カ ヤ Torreya nucifera
 カヤ :
① 葉を蚊遣(かやり)につかったので、カヤリ → カヤ
② 古名のカエ(カヘ)は カヒ(蚊避)から来たものか?
 榧 :
漢字の「榧」は中国名と思われる。
中国の「榧」は T. grandis で、本種は「日本榧樹」。
榧 の旁(つくり)「匪」は、平たい簛(ふるい)型の意味の語源からきていて、字義の一つとして「方形の竹の箱」がある。
なぜ 四角い箱の木 としたのかは不明だが、中国で、棺桶材として使われた可能性がある。
日本では、奈良県立樫原考古学研究所の調査によると、古墳時代の棺桶の半数はコウヤマキが使われていて、少数だがカヤもあったそうだ。
現在は碁盤材として珍重されているが、中国ではどうなのだろうか?

 種小名 nucifera : 堅果のある
堅い実は、カヤだけの特徴ではない・・・。カヤ属のほかの種に柔らかい実があるのなら納得できるが、いまのところ不明。
ちなみに、ココヤシが Cocos nucifera 、ハスも Nelumbo nucifera である。

Torreya 属 : 人名による
アメリカの植物学者 トリー John Torrey (1796-1873) を顕彰したもの。
J. Torrey
ニューヨーク生まれのトリーは 19世紀を代表する植物学者の一人で、常に アカデミックな立場で北アメリカの植物相の研究と教育を行った。
A. Gray グレイ は彼の教え子で、共同で執筆もしている。
Wikipedia より
命名者の アーノット George Arnott Walker-Arnott (1799- 1868)は スコットランドの植物学者で、グラスゴー大学の植物学教授となった。フッカーとともに北アメリカの植物を研究した。
Totteya は現在の命名規約どおりに解釈すると無効だが、「保留名」として有効な名前となっている。

命名年 学名 命名者 備 考
1735  Cyperus  Linn.  カヤツリグサ属
1819  Torreya  Rafin.  すでに定義されていたカヤツリグサ属に対して Torreya の名を
 発表してしまい、この時点で Torreya が無効な名となる
1838  Torreya  Arn.  カヤ属 として Torreya taxifolia フロリダガヤ を記載
 一般に広まったために、属名が「保留名」として認められた
保留名 とは:
たとえ イチイ科でなくとも、ある属名が (この場合は Torreya がカヤツリグサ属として) 、無効なものとして使われてしまっている場合には、後から 同じ属名を使うことはできない。
この規約は近年になって決められたものであるため、それまでに普及してしまった多くの属名が、「保留名」として認められている。
なお 種小名は、属が異なっていれば 同じ名を使える。

イチイ科 :
古代に イチイの木で高官が使う「笏(しゃく)」を作ったために、朝廷から「一位」の名を賜った、というのが定説。
イチイ
赤い仮種衣は液質で、種子を完全には包んでいない。


植物の分類 : APG II 分類による カヤ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 マツ目  マツ科、ナンヨウスギ科、マキ科、イチイ科、ヒノキ科、など
 イチイ科  イヌガヤ属、イチイ属、カヤ属
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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