ケンポナシ 玄圃梨
Hovenia dulcis Thunb. (1781)
科 名 : クロウメモドキ科 Rhamnaceae
属 名 : ケンポナシ属 Hovenia Thunb. (1781)
英語名: raisin tree
原産地 : 本州・四国・九州の山地
朝鮮半島、中国
用 途 : 中国では庭木に使われる。
種子を薬用にする。種子の薬効は、清熱解毒・利尿・二日酔。 熟した果柄は食べられる。
木目がきれいなため、材が利用されるが産出量は少ない。

植物園正門のすぐ横にあり 道路からもよく見えるのであるが、門を入ると皆 真っ直ぐに進んでしまうために、あまり注目されない。

         ① : 道路から見た ケンポナシ    2010.10.17
   ↑正門                            御殿坂→

幹の様子
   
若い幹
        太さ 25cm         太さ 12cm

枝振り

葉の付き方は「コクサギ型」
葉の付き方としては 「輪生」 「対生」 「互生」の3種が一般的。 「コクサギ型」は 対生 と 互生 の中間の姿で、枝の片側に2枚ずつ付き 非常に珍しい。

本家 コクサギの写真を示す。 ほかに ナツメ・ヤブニッケイ・サルスベリ もコクサギ型ということだが、まだ確認していない。
コクサギの葉の付き方

葉 と 花の様子
ケンポナシの横は自転車置き場となっている。 一番正門寄りのこの一本は、2011年9月21日の台風で根元から倒れてしまい、撤去された。

また、御殿坂沿いに何本もあった若木は、道路の拡張工事のためにすべて伐採されてしまった。 正門付近に残ったのは2本のみ。

つぼみ 2007年6月3日 花  2000年6月25日

以下は、尖端に実ができたあと、果柄が肥大していく様子である。

7月下旬


8月下旬
10月中旬


11下旬~12月
白いのは果実。そのまま残るものと、割れて種子が落ちるものとがある。 まだ少し 渋い。
房ごと落下する。

種 子
サイズは 5mmと小さいが、黄土色から黒まで様々な色があり、艶もあってきれいな種子である。 片側は曲面、反対側は「山折り」の形となっている。

 
ケンポナシの 位 置
写真① :

F16 b


F12 c




正門 右側、自転車置き場、2本
  1本は 2011年9月21日の台風で倒れた。
  御殿坂際の数本は、塀工事で伐採された。
60番通り 右側 斜面

名前の由来 ケンポナシ Hovenia dulcis

和名 ケンポナシ : 
ケンポナシは テンボナシ または テンボウナシが転訛したものである。

「テンボ ・テンボウ」は「手棒 テボウ」が撥音変化したもので、差別用語にもなりかねないが、指や手首の無い状態、あるいはその人を指す。
ケンポナシの脹れた果柄を、はれぼったい手に例えたものである。

「ナシ」は、熟したその味が甘く、食感も含めてナシに似ているためである。 食べることが前提で「ナシ」なのに、その名が「手棒」とは・・・。

いつ頃名付けられたものなのであろうか。
 

ケンポナシの由来 別案

子供たちがケンポナシを食べ過ぎておなかを壊した時には、「健康保険がきかない」 ので 「ケンポ 無し」!
 
種小名 dulcis : 甘い味の という意味
ケンポナシ属の肥大した果柄、特に霜に当たったものは甘くなり 食べられるところから。 
ケンポナシの学名は属名共に 1775年(江戸時代 安永年間)に1年以上日本に滞在した、チュンベリー(1743-1828) による命名である。 
チュンベリーも実際に食べてみて、種小名 dulcis を付けたのであろう。
 
英語名 : Japanese raisin tree :
日本では味から「ナシ」の名が付いたが、英語名は熟して干からびた状態から、「干しブドウ」の名が付いている。
 
Hovenia ケンポナシ属 : 人名による
チュンベリーは、南アフリカ、ジャワ島、日本への探検に当たって多くのひとから資金を援助してもらったり、借金までしたようだが、そのひとり オランダ人 ホーフェン(ホーフェ?) D. ten Hoven に捧げられた名称である。
日本と中国に一種ずつの 二種のみ。
 
クロウメモドキ科 :
黒い実の生る ウメモドキ の意味。
クロウメモドキ科でよく知られている植物は、ナツメ属の「ナツメ」である。
クロウメモドキ
3枚とも 東大理学部付属植物園 日光分園
次に掲げる「ウメモドキ」と較べると、葉の付き方が違うので、あまり 似ていない・・・。
 
    Rhamnaceae / Rhamnus属 Linn.
クロウメモドキ属 Rhamnus は Rhaphithamnus の短縮形で、ギリシア語の raphis 針 + thamnos 灌木、つまり 「針のある低木」を意味する。
 
上の写真でも見られるクロウメモドキのトゲは、短枝(長くならない短い枝)が変化したものである。  ケンポナシは別属で、トゲはない。
 
 
クロウメモドキ ←
  ウメモドキ 梅擬き Ilex serrata Thunb. (1784)
モチノキ科 ウメモドキ
東大付属植物園 日光分園
モチノキ科モチノキ属のウメモドキの名は「ウメに似た」「ウメのような」という意味だが、いったい どこが似ているのか?

強いて言えば、「葉の形」であろうか?
葉のサイズはウメよりも少し小さく、やはり 似ていない。
ウメ ウメモドキ



植物の分類 APG II 分類による ケンポナシ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所 クロウメモドキ目 クロウメモドキ科(↓バラ目へ)、 リーア科(ブド科に含まれる)、
 ブドウ科(ブドウ目となる)、 クロウメモドキ目 は無くなる
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 バラ目  バラ科、グミ科、クロウメモドキ科、ニレ科、アサ科、クワ科、など
クロウメモドキ科  クマヤナギ属、ケンポナシ属、ハマナツメ属、ナツメ属、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ