ソーセージノキ
Kigelia africana Benth. (1849)
← Bignonia africana Lam. (1785)
科 名 : ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae
属 名 : ソーセージノキ属 Kigelia DC. (1845)
異 名: .Kigerlia pinnata DC. (1845)
英 名 : sausage tree
原産地 : アフリカに広く分布
用 途 : アフリカでは果実と樹皮が擦り傷・切り傷の薬として使われる。その他に迷信的な利用が多数あったようだ。
撮 影 : 小石川温室、伊豆熱川温室、
モザンビーク、パキスタン 、ジャマイカ

古い事典では Kigerlia pinnata (1845) だったものが、記載された年が新しいにもかかわらず、K. africana (1849) に変更された。以前、筆者は別のホームページ『世界の植物』に、両者を別種と考えて載せてそのままになっていたが、今回、小石川の温室植物を取り上げたことで訂正することができた。
命名の経緯については 後半で検討したい。

小石川温室 第2室
コウモリ媒介の受粉は人工的にカバーできるが、高温と陽光を好む性質のため、温室での開花は難しそうだ。
大 木
温室の鉢植えは 直径 約9cm。ジャマイカで見た木は 約50cm で、2~3mぐらいの高さで枝分かれしていた。
樹 形
ジャマイカ 2008.4.5
ジャマイカのホープ植物園。高さ8m程度で横幅の方が大きい。多数の重い実が生るために、枝は枝垂れている。
樹 形
パキスタン 2005.10.23
パキスタン、ラホールのジーナ公園。右下の白い服を着た人と較べると相当な高さがあり、20m弱か。
樹 形       2007.8.3.
モザンビーク、マプト大学付属植物園。ほかの木と違い、根元で枝分かれして逆円錐形のきれいな形をしている。高さは 約 10m。南半球のモザンビークの8月は、秋から冬へ向かうの時期で、多少落葉が始まっている。
葉        2008.4.5. 3輪生状
葉は奇数羽状複葉。葉は3輪生状につくが、多少ずれることもある。
葉 裏       2006.11.4.
熱川バナナワニ園 温室。葉裏を見上げて。小葉は4~5対。
開 花    2007.8.3.
総状花序が垂れ下がり、基部側(上側)から咲いていく。右の写真は午後2時半で、2輪が咲き始めた状態。夕方には開花し、蜜を吸いに来たコウモリによって花粉が媒介される。
花の段階から総梗や花柄が異常に太いのは、コウモリの重さに耐えるためだろうか? コウモリはホバリングするようなので、こんなに太い必要はないのでは?
半開き状態 花冠を半分除去して

外側は黄緑に赤が透けて見える

内側はどす黒い紅色
地面に落ちた花を集めて
ノウゼンカズラ科の花は5数性。本種も上唇が2裂、下唇が3裂するが、シソ科のように上下が深裂することはない。4本の雄しべと1本の雌しべは上唇内側に沿って伸びる。突っ込むコウモリの頭に花粉を付ける作戦だ。右にあるのは果実の一部。
果 実    2008.4.5.
長い果柄の先に、多くはひとつの果実がぶら下がる。太さ8~10センチ、長さは 25~50センチと サイズは様々。左下に、複数の幼果がついた果序があるが、成長の過程で減るものと思われる。
花 と 果実
果 実
この実はヒョウタン型で、ソーセージノキとしては特殊例。長さ 30cm弱。実は硬く、足で踏んでもすぐに割れることはなかった。中身はジャガイモにココナッツの粉を混ぜたような、ザラザラとした感じで、タネが含まれているはずだが、はっきりしない。
地元の人に聞くと 普通は食べることはない、と言っていた。
ということは、「食べる事もある」ということ・・・。


名前の由来 ソーセージノキ Kigelia africana
 ソーセージの木 :
実がソーセージに似ているため。「ウィンナ・ソーセージ」ではなく、特大のフランクフルトソーセージである。
 属名 Kigelia ソーセージノキ属:
『Bibliotheque Universelle de Geneve,n,s,17』p.135によると、モザンビーク海岸地帯でのこの植物の呼び名 「Kigeli-keia」に由来するとのこと。モザンビークで見ることができて良かった、ということになる。
牧野の『植物学名辞典』は「アフリカ土名」で、いずれも Kigelia の意味については触れていない。
 種小名 africana:アフリカの
アフリカ全土に分布するということなので、適切な命名と言えよう。
初めに命名したのは18世紀生まれのフランスの生物学・植物学者 Lamarck (1744-1829) である。自然史博物館の動物学教授にもなったラマルクは、ノウゼンカズラ属として記載した。
Wikipedia より
なお、ドゥ・カンドルが命名した 異名の種小名 pinnata は「羽状の」(複葉の)というありふれたもので、ノウゼンカズラ科では一般的。。
 ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae:
約120属 約800種があるという ノウゼンカズラ科。おもに熱帯・亜熱帯に分布している。

ノウゼンカズラ科の植物については、別途 参考ページを参照していただきたい。


 
ソーセージノキ の 命名物語

ページトップにも書いたが、かつては ソーセージノキの学名としては Bignonia pinnata (1845) が主流だった。『植物の世界/朝日百科』では B. africana (1849) は別種として、2種類が併記されているほどである。
なぜ命名の年が新しい africana が正名となったのか、関係する学名を調べてみた。
なお、すべてノウゼンカズラ科としての記載である。

学名 命名者 備考
1735  Bignonia  Plum.ex Linn.  
1735  Crescentia  Linn. リンネ  フクベノキ属
  ともに、リンネが『自然の体系 第1版』Systemanaturae, Editio I に記載した。
1783  Bignonia africana  Lam. ラマルク  本種の元の学名
  ラマルクの『Encyclopédie méthodique, 1』p.424 。
  図版はないが、この記述が本種として認められている
  ようだ。ラテン語なので翻訳は パス。
『Encyclopédie méthodique, 1』の表紙 と p.424 に加筆
1791  Crescentia pinnata  Jacq. ジャカン  本種の異名
  オランダ生まれ、ウィーン大学の植物学教授、植物園の
  園長を務めたジャカン(1727-1817)には、多くの著作が
  あるが、『Collectanea Vol.3』には着色された図版が
  そろっている。
 一目見て本種とわかるが、雄しべが5本なのは疑問。
 もしかすると、5本目は短いために見逃しているのかも。
  
1838  Kigelia  DC. ドゥ・カンドール
  (1778-1841)
 ソーセージノキ属
1845  Kigelia pinnata  異名
  『Prodromus Systematis Naturalis Regni Vegetabilis』
  に記載。②を新しくたてた Kigelia属に 訂正したもの。
  この学名が 正名とされてきた。
1849  Kigelia africana  Benth. ベンサム  正名
  イギリスの植物学者 ジョージ・ベンサム(1800-1884)
  が、『Niger Flora』で①を訂正。これが現在の正名。
『Niger Flora』p.463 に加筆
  本文でまず、ラマルク記載の ① Bignonia africana
  同一、と結論付けている。続けて、K. aethiopica
  ③ K. pinnata との相違点を挙げている。
このため、
『植物の世界/朝日百科』に2種が記載されていることからも、両者が別種と考えられていたようだ。
①には図版が無く、②pinnata には着色された図があって本種にほぼ間違いないので、これが使われてきたのだろう。近年になって ①~④が同一と判断され、元の記載が早かった Kigelia africana が正名となったと考えられる。
グレーの網掛けは推定事項

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