シナアブラギリ 支那油桐
Vernicia fordii A. Shaw (1966)
← Aleurites fordii Hemsl. (1906)
科 名 : トウダイグサ科 Euphorbiaceae
属 名 : アブラギリ属 Vernicia Lour. (1790)
名札の属名: ククイノキ属 Aleurites
  J. R. Forst. et G. Forst. (1775)
別 名 : オオアブラギリ
英語名 : China wood-oil tree
原産地 : 中国南部
用 途 : 昔は種子から油を採るために栽培された。 桐油は空気に触れると酸化して固まる乾性油で、和紙にしみこませて油紙とし、傘や提灯、雨合羽などに使うために盛んに栽培された。
毒性があるために食用にはならないが、その後は印刷用インク・ニスなどに用いられた。
2013.10.8 更新
売店横の「薬園」のすぐ近くに大きく育った シナアブラギリが2本あったが、現在は その2本ともに姿を消してしまった。

枝が薬園にかかっていた方の1本目は、2009年のはじめ頃に理由もなく切られてしまった。恐らく 薬園に日を当てるためだろう。

年輪を数えてみると 樹齢 22年ほどであった。この木は ひらけた薬園に面して枝が垂れていたので、本項に掲載している花を撮影できた。
切られた木の 枝垂れた枝の様子 2000年6月
2本あった 左の木の枝が枝垂れていた。残ったのは斜めに伸びた右の木だけ。 残された1本はひょろ長く伸びてしまっていて、下の方には枝がない。
        残った シナアブラギリ  2010.10.17
その後 2011年、2012年の二回の台風によって、完全に幹割れを起こしてしまった。

2011.9.21の台風    シナアブラギリの幹割れ   2012.6.18の台風
前年の台風で幹割れが生じていたのだが、そことは別の部分が大きく割れた。よく折れなかったものだ! 
このまま倒れたら危険であり、へたをすると 売店が潰れてしまうということで、2012年の8月に伐採されてしまった。

伐採された2本目       2012.8.9.
切り株の長径 43センチ。年輪の数は 47まであったので、東京オリンピックのころに植えられたか 芽生えたものだ。

樹皮の部分
興味深いのは、伐採された時にしか観察できない 樹皮の状態。
表面に ひび割れや剥がれの無い樹種は、これと同じと考えてよいだろう。
形成層では毎年、外側(樹皮側)にも成長する。このシナアブラギリの樹皮の厚さは 12 ミリだった。一年分の成長は極めて少ないようで、何十年分かが残っているが 表面に大きなひび割れは見られない。縦に白く食い込んだ部分が、正常な組織なのかどうかはわからない。

現在のシナアブラギリ  2012.8.9.
以前の木の実生から育った木が 4m以上になっており、名札はこちらに付け替えられた。


         新緑の様子  2007.4.10          葉の様子   2000.6.17
葉は浅く3つに分かれるが、小さめの葉では心臓型のものが多い。

落葉樹 葉や花は枝先に付く 2007.4.30

 
幹の様子 高い梢に咲く花 2007.4.30


アブラギリ属は雌花と雄花が別々だが同じ木に両方が咲く、雌雄同株である。

実 (ミ) は両方の木に生るのだが、枝垂れた方の枝には雄花が少なく、ようやく両方が咲いている写真が撮れた。
 
           雌花(上) と 雄花(下)     2008.5.1
事典の記述によると 通常は雌花の花弁も5枚だが、この雌花(上)は8枚である。 雌しべの先端は5つに分かれている。

高い木の梢には毎年たくさんの花が咲いており、雄花は萎れる前に早いうちから落下して、地面が花だらけになる。

落ちている 雄花 を集める (4月末)
花の直径は 25mm ぐらい。
下の写真は5枚の花弁のうちの2枚を取り去って、横から写したもの。 おしべが「2段」になっているのがわかる。


落下している花が 雄花ばかりである理由は、
 ・雌花は枝先に通常1個 (まれに複数) しか付かないため、
  数が少ない
 ・雄花は花柄ごと (花の形のまま)落下するが、雌花は花びらが
  バラバラになって落ちるために、目立たない。

次は、雌花の開花・結実。 すべて同じ日に別の枝のものを撮影できた。

         満開の雌花   2008.5.4        花びらが落ち出す 2008.5.4
花びらが落ちる前から、子房が小さく膨らんでいる。

       咲き終わった雌花  2008.5.4          子房上位    2008.5.4
同じ花序の雄花は、雌花が咲き終わってから開花する。
花びらの付け根よりも上に子房があるのが、子房上位。 

      枝先にひとつ付く実 2008.7.6         若い実の断面  2000.9.10
左の写真は7月初旬で、実の大きさはかなり大きくなっている。

右は9月初め。まだ青いのに落ちてしまう実があり、縦・横に切ってみた。 種子は充実してきているが、まだ小さい。

事典によると子房は2〜5室とあるが、種子は5つのことが多く、4つもある。このあと種子はもっと大きくなって、割れて散乱する。

            落ちた実を集めて      2000.11.3

小石川植物園の木を見ている限りでは、ひとつの花序にひとつしか実がならないが、小学館のフィールドガイド『日本の樹木』には鈴生りの写真が載っていた。

後日、京都植物園で、複数の実が生っているのを確認した。

京都のシナアブラギリ 種子

種子を取り出してきれいに洗ってみると、表面にたくさんの突起がある。 長さ 25mm。


     地面に落ちた種から生えた苗 (京都植物園)  2008.8.4


 
シナアブラギリの 位 置
E12 a 薬園入り口横
 
名前の由来 シナアブラギリ Vernicia fordii

シナアブラギリ
支那油桐:中国原産のアブラギリ の意味。
中国南部が原産である。
ところが アブラギリも中国原産で、広東省、福建省に分布するということである。
アブラギリが日本に伝えられたのは 300年前の江戸時代である。 まずアブラギリが渡来してその栽培が一般化した後に、シナアブラギリが再度 中国から伝えられた、ということになろう。

シナアブラギリは「オオアブラギリ」の別名があり、花や実がアブラギリよりも大きい。  また取れる油の質も良いそうだ。

種小名 fordii : 人名に由来する。
事典には上記以外の解説がなかったので、ハーバード大学ハーバリアの「植物収集家」というデータベースを検索したところ、中国・香港などで収集を行った チャールズ・フォード Charles Ford (1844-1927) が見つかった。

学名の命名者はイギリスの植物学者 William Botting Hemsley (1843-1924) である。

Index Kewensis で検索してみると、ヘムズレイは 1886年から1909年にかけて、13 もの「fordii」という種小名の学名を発表しており、いずれも原産地は中国となっている。

ほかにも多くの学者が fordii の種小名で命名しており、いずれも「採取家フォード」が集めた標本をもとに命名したものと思われる。

Vernicia アブラギリ属 : ワニスを有する、ワニスが採れる
アメリカ農務省『GRIN』、『MABBERLER'S PLANT-BOOK』大場秀章『植物分類表』ともに新属 Vernicia属 への分類を採用している。新しいといっても記載されたのは 1966年で、遺伝子解析で決定的になったのだろう。

和名もこちらが「アブラギリ属」となり、学名の由来も「油が採れる」という わかりやすいものとなった。

 旧属名 Aleurites ククイノキ属 : 小麦粉に由来する
植物園の名札は Aleurites属 のまま。
ギリシア語の aleuron 小麦粉 からきており、幼葉が白い粉で覆われているため とあるが、シナアブラギリでは顕著ではなく腑に落ちなかった。

ククイノキ属は、インドネシア・マレーシアに、ククイノキ Aleurites moluccana など 2種のみが分布する数の少ない属であるが、高さ10mになる常緑の「ククイノキ」の幼葉が、白粉で覆われているように見えるためであった。『世界の植物』に詳しい内容を掲載している。

ククイノキの核果には50%もの油が含まれるきわめて重要な採油植物で、ハワイにも最初に持ち込まれて栽培され、現在は「ハワイ州の木」となっている。ククイ kukui はハワイ名で「明かり」の意味。ククイノキから採れる油を灯油やたいまつに使ったためである。
ククイノキ
     右が 毛の落ちた後のツヤツヤした葉 ↑

シナアブラギリ ← 
  アブラギリ 油桐 Vernicia cordata
アブラギリ
まず アブラギリの写真がないので、春日健二氏 のホームページ「日本の植物たち」の中から写真をお借りした。

満開の花。雨上がりの濡れた葉。 とてもきれいな写真である。

いつもありがとうございます。 

(kasuga@mue.biglobe.ne.jp
名前の「アブラ」はすでに何度か述べたように、この木の実から油が採れることによる。
「キリ」の名は、おもに葉がキリに似ているところから名付けられたものといわれている。

またアブラギリの材も、桐と同じく下駄や箱材として使われている という記述を見かけた。特にその炭は漆器を磨く特殊用途に使われるそうだ。

ところが、アブラギリの葉もシナアブラギリの葉も、半数近く ? は浅く3裂する。
さらにアブラギリの葉の縁は細かく波打って、表面には艶がある。
典型的なキリの葉の形 シナアブラギリの葉
タイルの大きさは 30cm 角
この両者の「葉」を較べると似ていないが、下のように、それぞれハート形の葉を並べると形はよく似ている。
アブラギリの種小名 cordata は「心臓形の」という意味である。
春日さんの写真では、3つに切れ込んだ葉の数は少ない。

左 キリ 、右 シナアブラギリ
まあ 細かいことは言わず、全体のイメージで「油の採れるキリ」ということである。
ついでに、幹の比較。
シナアブラギリの幹は、キリよりもイイギリの幹に似ている。

キリの幹 シナアブラギリの幹
皮目がある樹皮にはタンニンが多く含まれるため、染料や皮をなめすのに用いられる。
 

 参考 サンゴアブラギリ
学名は Jatropha podagrica Hook.(1848)

同じトウダイグサ科で、ナンヨウアブラギリ属(タイワンアブラギリ属ともいわれる)に属す。
原産地は西インド諸島、中央アメリカ、コロンビアで、高さ30 cm 〜 1m 程度にしかならない低木である。

中国名は同じく珊瑚油桐。和名とどちらが先についたのかは わからない。

種小名 podagrica は「太く膨起せる」という意味で、幹の根元が徳利状に太くなっている様を表している。「トックリアブラギリ」ではなくて、サンゴアブラギリとした名前の由来は、下の写真のように、網目状に咲く花を アカサンゴ (赤珊瑚 Corallium japonicum) に見立てたものである。

写真は大森の「Kashiko」という花屋で売られていたものを撮影させてもらったもの。
「かしこ」は普通の花屋とはちょっと変わった、ユニークな花屋である。

サンゴアブラギリ 肥大した幹

 
独特の形の葉 サンゴアブラギリの花

 
右の写真がアカサンゴかどうかは不明。
 (沖縄 那覇のおみやげ店で)

地中海のベニサンゴはギリシア時代から装飾用に用いられているという。


植物の分類 : APG II 分類による シナアブラギリ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
以前の分類場所 旧 トウダイ
    グサ目
 ツゲ科、シモンジア科、パンダ科、トウダイグサ科
  トウダイグサ目はなくなった
キントラノオ目  ヤナギ科、スミレ科、トウダイグサ科、オクナ科、フクギ科、など
トウダイグサ科  トウダイグサ属、アブラギリ属、シラキ属、ナンキンハゼ属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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