キリモドキ 桐擬き
Jacaranda mimosifolia D.Don.(1822)
科 名: ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae
属 名: キリモドキ属
  Jacaranda Juss. (1789)
英 名: jacaranda
原産地: アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ
用 途: 街路樹。庭園樹。観葉植物。
熱帯・亜熱帯地方では、街路樹として最も広く用いられている種という。
撮 影: 小石川温室、日本の暖地、
ガイアナ協同共和国
パキスタン 、モザンビーク


小石川温室 第2室
成長が旺盛なためにすぐに背が高くなるとみえて、色々なところで何度も剪定されている。
南米原産で花が美しいために人気のある種で、世界各地に植えられている。しかし東京では、寒さのために露地植での開花は難しいようだ。筆者にとっては思い入れの深い木である。



「キリモドキ」を最初に目にしたのは、樹木の名前に興味を持ち始めた 1999年の秋。大分市の佐野公園で「ジャカランダ」の名札が付いた幼樹を、わけが分からず写真を撮った。
大分市のジャカランダ    1999.11.19.
1996年の植樹で 高さ 約3m。事典によると高さは15mにもなるとあるが、それは亜熱帯での話。でも、この木も大きく成長したことだろう・・・。

調べてみると和名は「キリモドキ」で、樹冠一面に青紫の花を付けることがわかり、海外で満開のジャカランダを見ることが夢のひとつとなった。また熱帯、亜熱帯の樹木ということで、沖縄あたりでないと花は咲かないものと思いこんでいた。


 熱海のジャカランダ     2004.8.9.
ところが! たまたま出かけた熱海に、ジャカランダが植えられていた。2004年の夏だったが、熱海マリーナの海岸道路に、街路樹としてジャカランダが植えられ、なんと花まで咲いていた。当時の高さは 約4m。
初めて見るジャカランダの花、しかも 熱海!
小型ではあるが、確かにキリの花に似ている。まあ、分類上は近い科であることだし・・・。色もキリに似ているが、花弁が薄く透き通って清楚なイメージである。熱帯では乾期に葉が落ち、雨期の始まりに一斉に花が咲くらしいが、熱海では新しい枝の茎頂に花序が付き、緑の新葉を伴って花を咲かせていた。
ここの街路樹は、2000(平成12)年に 高さ約90センチの幼木が植えられたということで、こんなに早く咲くとは。毎年伸びて大きくなり、最近は実も生っている。
じつは、熱海にジャカランダが植えられたのはもっと古かった。1990(平成2)年に、熱海市とポルトガルのカスカイス市が国際姉妹都市となったのを記念して、お宮の松緑地に植えられたのだそうだ。

 湯河原の大木      2014.6.22.

これも偶然に遭遇したもので、この時の驚きと感激はさらに大きかった。これなら、海外に出かけなくても花を堪能できる。




樹 形           2007.8.3.
ほぼ自然の樹形で 高さ約9m。首都マプトのモザンビーク大学付属植物園。季節は秋から冬に向かう時期で、ジャカランダは完全に実が熟して、割れた果実がたくさん落ちていた。

若い枝  2009.8.29. 太い枝 2005.10.18.
太さ 25mm。熱海 太さ 20cm。イスラマバード
花の詳細           2019.6.2.

幼 果    2005.10.18. 種子散布後    2007.8.3.
イスラマバード。日本では こんなに鈴生りになっているのを見たことがない。 樹上で裂開し、長く残る。モザンビーク。
以下の落下した果実の写真も。
果 実                2007.8.3.
径は6〜7センチ。刮ハで胞背裂開するが周囲が裂けるだけで、基部でしっかりとついており、写真のような割れた状態にするには、力を入れて手で割る必要がある。種子は割った両面に多数並んでいる。ハート型の模様の果皮は、磨いてニスを塗ったりしてイヤリングにするそうだ。

種子は翼果。2室の複合子房で中軸胎座。

用語の解説
  心皮:葉に由来する器官で、胚珠を覆って保護する
  子房:雌しべを構成する器官で 胚珠を入れる部分
     ひとつ あるいは 複数の心皮からなる
  胎座:子房の中の胚珠(種子のもと)のつく位置、
     胚珠は心皮の縁辺(腹側)につく
  中軸胎座:複合子房で、内側に巻き込んだ縁辺が中央で軸となり
     そこに胚珠がつく形
  裂開果:成熟すると特定の箇所で裂ける果実
  刮ハ:複数の心皮からなり複数の種子がある果実
  胞背裂開:心皮背面(背側)の中央線に沿って裂ける果実



環状剥皮 (かんじょうはくひ)

大阪市鶴見区「咲くやこの花館」で見かけたもの。
地植えのキリモドキが背ばかり伸びて、花付きが悪いために行われた「環状剥皮」。幹の径は10センチと15センチ。
以前になされた、狭い幅の剥皮の痕がいくつもある。すぐに上下が癒合して効果が無かったためか、今回の剥皮は相当な幅である。
その理屈:
形成層を取り除くことによって、葉で作られる養分が下に降りられなくなり、上部に炭水化物などが留まることによって、花芽の分化を促進したり果実の成熟を促すことを期待するもの。
木部の道管は残っているので、根から供給される水分は上部に供給されるので、すぐに枯れることはない。
しかし、いつまでも炭水化物などの栄養が断たれると根が弱り、また木部が乾燥して水分が上昇しにくくなるなどすると、枯れてしまう。果樹などでは、1センチ程度の幅で行われることが多い。



名前の由来 キリモドキ Jacaranda mimosifolia
 キリモドキ 桐擬き: 桐に似ている の意
花の色と形に注目して、近縁のゴマノハグサ科の「キリ」に似ているところから付けられた。
この名は、南米に移住した日本人が名付けたということだ。今は属名の「ジャカランダ」で通っている。
キリモドキ キリ
参考:ともに茎頂に花序がつくのだが、日本での、両者の花の成長の仕方には大きな違いがある。
キリモドキは春に伸びた新梢の茎頂に花序がついて、6月に開花する一般的なパターン。ところがキリは、春に伸びた茎頂に蕾ができた後、落葉・越冬して翌年の晩春〜初夏に開花する。混芽の芽吹きから開花までが1年間以上となる、ごく特殊な樹木である。
 種小名 mimosifolia:
     mimosa属(オジギソウ属)に似た葉の意味
1822年にキリモドキの学名を付けたのは ロンドン・キングス・カレッジの教授だった19世紀イギリスの植物学者 David Don (1799-1841) である。
キリモドキの複葉 オジギソウの複葉
ともに偶数2回羽状複葉だが、キリモドキは10〜20対の羽片、オジギソウは2対だけで、サイズも形も大違いである。このような命名となった原因は、当時のミモサ属の分類内容にあったと思われる。
リンネが『植物の種』で「ミモサ属」として記載した 39 種には、現在のアカシア属、ネムノキ属、ミモサ属 (クロンキストの分類による ネムノキ科)が含まれている。
リンネの死後 半世紀を過ぎた ドンの時代にも、この分類の影響があったのなら、納得のいくところである。
すなわち、ドンの言う「mimosa」には、ミモサ属だけでなくアカシア属も含まれていた可能性がある。
フサアカシアの葉
たとえばフサアカシアならば、キリモドキに似ていると言えよう。
 Jacaranda 属:
『園芸植物大事典』によると、ジャカランダ属の植物に対するブラジルでの呼び名から派生した、ポルトガル名にちなむ、とある。
福岡植物園の名札によれば、その意味は「堅い心材」ということである。
 ノウゼンカズラ科 Bignoniaceae:
約120属 約800種があるという ノウゼンカズラ科。おもに熱帯・亜熱帯に分布しており、日本に自生種はないとされる。ただし、キリは自生種の可能性が残る。
基準属は ツリガネカズラ属 Bignonia。
フランスの聖職者・政治家・作家のビニョン (Jean-Paul Bignon 1662-1743) を顕彰したもので、弟子のトゥルヌフォール (1656-1708) が命名した。



植物の分類 : APG IV 分類による キリモドキ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
以前の分類場所 ゴマノハグサ目 ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、ノウゼンカズラ科、ゴマ科、など
 シソ目 ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、ノウゼンカズラ科、シソ科、など
 ノウゼンカズラ科 ツリガネカズラ属、ノウゼンカズラ属、キリモドキ属、キリ属、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とする。構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではないが、なるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ