コバンモチ 小判黐
Elaeocarpus japonicus Sieb. & Zucc. (1845)
科 名 : ホルトノキ科 Elaeocarpaceae
属 名 : ホルトノキ属 Elaeocarpus Linn. (1760)
中国名 : 薯豆 shu dou
原産地 : 近畿地方以西、四国、九州
用 途 : 同属のホルトノキは街路樹にも使われるが、コバンモチの利用はないのではないか。

上の段奥の 10番通りと 20番通りの間の常緑樹林。下枝はあるものの、梢は高くて 花や果実は見たことがない。トップの写真は紅葉して落ちた葉を並べた、苦肉の策。

①:樹 形    2012.4.24.
右側には木があり 左側が西なので、光を求めて斜めに生えている。

上部の枝は、周囲のタラヨウ・ヤマモモ・モッコク・カゴノキの枝と交錯しているため、下から順に追っていかないと コバンモチの部分がわからない。

根 元              2013.5.15.
斜めになったためかどうかはわからないが、下部から根を出して、高くなった木を支えている。右側には 20センチ以上の2本の枯れた幹が残っている。

樹皮の様子
縦の筋が少しだけ強いが、網の目のような割れ方をする。ある事典は これを「縮緬状」と表現している。

常緑樹           2013.4.24.
ひこばえが切られずにそのままになっているので、葉だけは手に取って観察できる。

紅葉して落ちる葉      2012.4.24.
新芽が伸び出す前から、古い葉が落ちる。真っ赤になるものばかりでなく、くすんでいるものもある。葉裏は橙色。落ちるのが前年に出た葉なのかどうかは確認していない。紅葉は一時期に集中するのではなく、少しずつ 長期間にわたる。そのため、樹上に赤い葉が点在していて美しい。

芽だしの様子       2013.5.15.
枝の先端の冬芽から 枝が伸び出す。

軟毛が付く             2013.5.15.
極めて浅い鋸歯のある葉には、わずかに産毛が付いているが、すぐに落ちる。葉そのものには光沢がある。

展開して成葉となった葉     2012.6.5.
事典によると、花序は前年枝の先端附近の葉腋から出る。同属のホルトノキは両性花が咲くが、『樹に咲く花』には「雌雄異株」とあるので、この木が雄株の可能性もある。
果実が落ちているのを見たことがないのは、そのためかも知れない。

花の写真がないので、ホームページ「おきなわカエル商会」を主催している 小原祐二さん に了解を得て、お借りした。沖縄本島北部の やんばるの森 で4月上旬に撮影したもの。
花序の様子
花の詳細
前掲2枚の写真撮影、著作権は 小原祐二氏。コピー・転載禁止。

ホルトノキに較べると萼が丸く、花弁が小さめで黄緑色が強い。
参考:ホルトノキ

 
コバンモチ の 位 置
写真①: B5 cd 10番通り左側

 
名前の由来 コバンモチ Elaeocarpus japonicus

和名 コバンモチ : 小判 + 黐 ?
事典には「葉がモチノキに似ていて、形が小判を思わせるから」とあるが、本当だろうか?

モチノキ
コバンモチ
モチノキとは形が似ているが、厚さ・葉脈・鋸歯などは違う。形も小判型ではない。
葉脈の様子を小判の模様としたのかも知れない。

小判のことを その色から「やまぶき」というが、橙色から朱色の葉を 小判に見立てたとも考えられる。その場合は「小判持ち」かも知れない。

参考 : コバンノキ 小判の木
正真正銘 小判型の葉を持つ、コバンノキ。
コバンノキ
広島植物園
トウダイグサ科 コミカンソウ属。複葉のようにも見えるが、葉腋に芽があるので、一枚ずつが葉である。

種小名 japonicus : 日本の
『樹に咲く花』によると日本特産ではなく、中国や台湾にも分布することになっている。

ホルトノキ属 : ポルトガルの木
「ホルトノキ」も日本に自生する種である。葉が色付くので「ヅクノキ」、あるいは「モガシ」などと呼ばれるが、江戸時代に「オリーブ( ポルトガルの木)」と混同されて、ポルトガルノキ → ホルトノキ に転訛した、といわれている。
間違えたのは、平賀源内だという説もある。
ホルトノキ 花 ホルトノキ 実
オリーブの実だけを知っているが、木そのものを知らない人が ホルトノキの実を見たら、間違えるかも知れない。
しかし原因は、恐らく 次の属名にある。

Elaeocarpus 属 : オリーブの実
ギリシア語の「elaio オリーブの木 + karpos 果実」で、ホルトノキ属の果実や種子が オリーブに似ているため。

この事を聞いたか 読んだかして、ホルトノキと取り違えたのだろう。



植物の分類 : APG II 分類による ホルトノキ の位置
クロンキストの分類で、バラ目よりも前にあった ツバキ目・アオイ目・ツツジ目・カキノキ目 などは、APG分類では大幅に位置が変更になった。なかにはキク亜綱にまとめられて「目」が無くなったものもある。
ホルトノキ科も 以前はアオイ目にあったが、APGではカタバミ目に入れられている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
以前の分類場所 アオイ目  ホルトノキ科、シナノキ科、アオギリ科、パンヤ科、アオイ科
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
カタバミ目 カタバミ科、マメモドキ科、ホルトノキ科、ブルネリア科、など
ホルトノキ科  ホルトノキ属、プラティテカ属、テトラテカ属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ