ベニコブシ 紅辛夷
Magnolia kobus DC. (1817) nom.cons.
cv. Rosea コブシ の栽培品種
園の名札:  Magnolia praecocissima Koidz.
            cv. Rosea
科 名: モクレン科 Magnoliaceae
属 名: モクレン属 Magnolia Linn. 1735)
原産地:  -
用 途: 庭木


Yリスト および GRIN(アメリカ農務省)を参考にして、標記の学名とする。ベニコブシの名は 通常 ピンク色のシデコブシに当てられるが、名札通り「ベニコブシ」とする。

樹 形       2011.4.1.
70番通り 標識74番を過ぎた左側、ヤナギ池の北側にあるために日当たりがよい。すぐ近くに イタリアヤマナラシやラクウショウなどの高木があり、遠くからは小さく見えるが、高さは 約10.5m ある。

幹の様子
目通り直径 30センチ。太くなっても托葉の落ち跡が残っている。

咲き始めの様子       2011.3.27.
長枝と短枝があり ともに枝先につぼみが付く。

咲き始めの様子       2011.3.27.
前年枝はの樹皮は 濃い小豆色。つぼみを包む芽鱗は、葉の基部に付く 小さな葉的な器官である「托葉」に由来するもので、長い毛に覆われている。花芽は昨年のうちにできあがり、初めは何枚もの芽鱗があるが、花芽が大きくなるに従って順次落ちていく。
参考:バラの托葉
バラの托葉は、
葉柄と一体化
している。
花芽の中には 托葉に対応する「葉」があり、コブシ(ベニコブシ)の場合は、1枚 または2枚、ときに 3枚の小さな葉が展開して、後から伸びる枝に付く「普通葉」と同じように、秋まで残る。

花に付く一枚の葉       2011.4.1.
2014.4.1
これには 2枚。 新しい枝と普通葉は 花が終わる頃に伸び出す。

花弁は6枚       2013.3.19.
やはり 花弁の裏側のほうが 色が濃い。

萼は3枚
前掲写真の部分拡大。サーモンピンクの極めて小さい萼 で、先端がカールする。
2014.4.1
雄しべも 白の先端附近が桃色となっている。


 
ベニコブシの 位 置
F 9 ab 70番通り 標識73附近の左側、ヤナギ池のほとり

名前の由来 ベニコブシ Magnolia kobus cv.

ベニコブシ 紅辛夷 :
コブシの花は本来 白だが、淡いピンクに変化したものを選別・栽培したもの。 cv. は栽培品種、園芸品種の略符号。

ベニコブシの名は、通常 シデコブシ M. stellata の色が濃いものに使われるが、シデコブシの紅色種は、本来「ベニ - シデコブシ」である。
コブシのピンク色を「ベニコブシ」と呼ぶ方が、間違いがなくてよい。
(一般的な) ベニコブシ = ベニ シデコブシ
M. stellata var. rosea = M. stellata

種小名 kobusu: 和名 コブシ による
コブシ    2001.3.25.
別項 コブシ に記載した文を 再掲する。
 ← コブシ 拳 :
割れる前の果実の形が、握り拳に似ているため。特に 指の付け根の丸い出っ張りがよく似ている。
別の説として、「つぼみの状態がこぶしに似ているから」があるが、細長い蕾は拳には見えない。
種小名 kobus: nom. cons.(保留名)
園のベニコブシに付いている名札や、『園芸植物大事典/小学館』でも『植物の世界』も、コブシの学名は
  Magnolia praecocissima Koidzumi (1929)
で、M. kobus は異名となっている。
praecocissima とは「最も早い時期の」という意味。
最近では『GRIN』も『Index Kew』も kobus を保留名(英語では conserved name)として復活させている。
植物園の名札は 10年以上前から「kobus」のままで、結果オーライとなった。

kobus の命名はスイスの植物学者 ドゥ・カンドル (1778 - 1841)で、1817年に記載したものだ。
ドゥ・カンドル
Wikipedia より
以前は、種小名で保留名となっているのは コムギ と トマト だけ と言われてきたが、多くの見直しが行われたようだ。
国際植物分類学会のホームページには保留名のリストがあり、コブシの項には
Typus: [icon in] Kaempfer, Icon. Sel. Pl.: t. 42. 1791 (typ. cons.). の注釈がある。
これを解釈すると、「タイプ標本:ケンペルの Icon. Sel. Pl. (1791) 内の42図(標本 保留)」とでもなろうか。
タイプとは、学名を記載する時に必要な標本である。

1695年に帰国したケンペルは、17年後の1712年にようやく『廻国奇観』を出版したが、1716年には死去してしまうので、上記の本はケンペルの草稿を別の人が刊行したものだろう。

『廻国奇観』にはコブシの図版はないが、次に示す10行の記述がある。
『廻国奇観』845ページ
一行目の和名に注目すると、
漢字は右から 「辛夷」で、現在もコブシの漢字として使われることも多い。しかしこの字は中国で モクレン の名称として使われているので、誤用となる。
続いて 当時(17世紀末)のコブシの呼び方として、” シニ および コンフシ、または コブス、シデコブシ ” となっている。

シニは、辛夷 シンイ がつまったものだろう。そして「コブシ」に近いのが、コンフス と コブス である。

ドゥ・カンドルはこれらの中から ” kobus ”を種小名に選んだのだ。タイプとなる標本がなかったので、以前は異名とされたのだろう。しかし、実質的に " kobus " の名前が通用していることを認めて、保留名として 正式な学名となっている。

モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を顕彰したものである。
Wikipedia より



植物の分類 : APG II 分類による コブシ の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。 モクレン類は 1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く花の構造が原始的であり、被子植物の中では 早くに分化した植物とされている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
モクレン目   ニクズク科、モクレン科、バンレイシ科、など
モクレン科   モクレン属、ユリノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ