コブシ 拳
Magnolia kobus DC. (1817) nom. cons.
科 名: モクレン科 Magnoliaceae
属 名: モクレン属 Magnolia Linn. (1735)
異 名: Magnolia kobushi Mayr (1906)
Magnolia praecocossima Koidz (1929)
英語名: kobus magnolia
原産地: 日本全国、韓国 済州島
用 途: 庭木
 

早春の青空に映える白い花。落葉樹の葉が出る前なので、よけいに目立つ。

①:分類標本園横  2011.3.29.
北から南方向を見ている。標本園の売店側。管理地の柵内に生えている。

②:樹 形         2011.4.7.
ハンカチノキのすぐ横。この写真も北から南方向を見ている。コブシの後ろがハンカチノキ。

④:30番通り奥の大木  2011.3.23.
2011.3.27  雲を真っ白 とすると、花は少し黄色がかっている。
高さ 約15m。長径75センチ。
           ④:折れた大枝        2012.10.31.
右側に長く伸びていた枝は、2012年9月末の台風で折れたカイノキに引っかけられて、右側に伸びていた大枝が折れてしまった。

⑤:ハンノキ池    2011.4.1.
20番通り 右側土手。左奥に太郎神社の鳥居が見える。


幹の様子
左:No. ②                   右:No. ④

開花の準備        2009.3.21.
毛で覆われた2枚の托葉に包まれている。間に見えるのは 通常一枚ある「花柄に付く若葉」。

①:咲きたて     2011.3.29.
この年は? 随分黄緑色をしている。
せっかく垂れ下がっていたこの枝は 無くなってしまった・・・・。

花弁は6枚、直径 10センチ。香りもあったと思うが、記憶にない。
萼は3枚

雌しべが先に熟す      2007.3.2.

花弁が9枚        2011.4.7.
ハンカチノキ横のこの木は、萼が花弁化して9枚となっている。
栽培品種 あるいは 園芸品種なのだろう。
花弁の裏が紅紫色できれいだ。

①:葉の様子        2009.5.5.
波打っているが 全縁。長さ 10センチ前後。

若い実         2011.7.5.

赤くなった実       1999.9.24.
自身で撮ったデジカメの最初期の写真。画像には修正を加えてある。

 
コブシの 位 置
写真①: E11 d 40番通り 標識42からすぐの左側
写真②: D8 c 30番通り 右側。ハンカチノキの横
写真③: C5 bd 30番通り 標識36の手前右
C4 d  30番通り 標識37の手前 左側
写真④: C4 b 30番通り 標識37の右側
写真⑤: F10 bc 70番通り 太郎神社手前右側土手
 博物館小石川分館の敷地内

名前の由来 コブシ Magnolia kobus

コブシ 拳 : 
割れる前の果実の形が、握り拳にできる 指の付け根の丸い出っ張りに似ているところから。
別の説として、「つぼみの状態がこぶしに似ているから」があるが、細長い蕾は拳には見えない。
種小名 kobus: nom. cons.(保留名)
『園芸植物大事典/小学館』でも『植物の世界』でも、コブシの学名は
  Magnolia praecocissima Koidzumi (1929)
で、M. kobus は異名となっている。
praecocissima とは「最も早い時期の」という意味。
最近では『GRIN』も『Index Kew』も kobus を保留名(英語では conserved name)として復活させている。
植物園の名札は 10年以上前から「kobus」のままで、結果オーライとなった。

kobus の命名はスイスの植物学者 ドゥ・カンドル (1778 - 1841)で、1817年に記載されたものだ。
Wikipedia より
以前は、種小名で保留名となっているのは コムギ と トマト だけ と言われてきたが、多くの見直しが行われたようだ。
国際植物分類学会のホームページには保留名のリストがあり、コブシの項には
Typus: [icon in] Kaempfer, Icon. Sel. Pl.: t. 42. 1791 (typ. cons.). の注釈がある。
これを解釈すると、
タイプ標本:ケンペルの Icon. Sel. Pl. (1791) 内の42図
(標本 保留) とでもなろうか。タイプとは、学名を記載する時に必要な標本である。

1695年に帰国したケンペルは、17年後の1712年にようやく『廻国奇観』を出版したが、1716年には死去してしまうので、上記の本はケンペルの草稿を別の人が刊行したものだろう。

『廻国奇観』にはコブシの図版はないが、次に示す10行の記述がある。
『廻国奇観』845ページ
一行目の和名に注目すると、
漢字は「辛夷」で、現在もコブシの漢字として使われることも多い。しかしこの字は中国で モクレン の名称として使われているので、誤用となる。
当時(17世紀末)のコブシの呼び方として ” シニ および コンフシ、または コブス、シデコブシ ” となっている。

シニは、辛夷 シンイ がつまったものだろう。そして「コブシ」に近いのが、コンフス と コブス である。

先の図版での名称はわからないが、ドゥ・カンドルはこれらの中から ” kobus ”を種小名に選んだのだが、タイプとなる標本はなかったので、以前は異名とされたのだろう。

モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を顕彰したものである。
Wikipedia より



植物の分類 : APG II 分類による モクレン の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。 モクレン類は 1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く花の構造が原始的であり、被子植物の中では 早くに分化した植物とされている。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
モクレン目   ニクズク科、モクレン科、バンレイシ科、など
モクレン科   モクレン属、ユリノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ