ククイノキ ククイの木
Aleurites moluccanus Willd. (1805)
← Jatropha moluccana Linn. (1753)
科 名: トウダイグサ科 Euphorbiaceae
属 名: ククイノキ属 Aleurites
  J. R. Forst. et G. Forst. (1775)
ハワイ名 : kukui、ハワイ州の木
英語名: candleberry, candlenut, Indian-walnut, varnishtree
原産地: インド、スリランカ、インドシナ半島、インドネシア、パプアニューギニア、オーストラリア、フィリピン、中国、台湾
用 途: 昔は種子から灯火用の油を採るために栽培され、印刷用インク・ワニスなどにも用いられた。また食用にもされた。
街路樹。

ポリネシア人がハワイに持ち込んだ樹木の中で 最も重要な木として、現在は「ハワイ州の木」となっている。ククイ kukui はハワイ名で「明かり」の意味。ククイノキから採れる油を、灯火やたいまつに使ったためである。


小石川温室 第4室
何度も剪定されており、次第に枝が細くなっしまっている。


以下の写真はすべてハワイでの撮影で、2012年6月。

ヒロ 旧市街の 街路樹
大きくならないように剪定されているので、高さ 約3m。自然のものは 15m以上にもなるという。
ヒロ市郊外で
グリーンベルトに植えられた2本のククイノキ。高い方は 高さ 約 9m。
幹の様子
島の東側に位置するヒロの一帯では、貿易風がマウナケア山に当たって常に雲が発生するため、年間の降雨量は 3,000ミリ以上と かなり多い。
左の写真は雨の後で 黒く濡れている。
街路樹の枝振り
街路樹でも 実がたくさん生っている。
葉の様子
小さな葉は真っ白、大きくなるにつれて 毛が落ちていく。
緑の葉との違いが際立つ
葉は3~5裂、時にはさらに不規則に分裂する。
様々な葉の形
茎頂につく花序の基部付近では切れ込み無し、徒長枝では深い切れ込みで7裂になる。
円錐花序
花は枝先に付く。
街路樹の花
トウダイグサ科は通常 雌雄同株。見えている花はすべて雄花のようだ。
これは 雌花
前掲写真とは別の木で、よく開いている。花の中央に雌しべらしきものがある。近縁種のアブラギリでは、雌雄は別花序となるようで、本種も同様なのかもしれない。
若い実
果梗のすぐ下(写真では上)に葉がついているので、やはり雌花序で、雄花が混じってはいなかったようだ。

落ちていた実
直径は 大きい方で 35mmぐらい。食用にもしたそうだ。


名前の由来 ククイノキ Aleurites moluccanus
 ククイノキ:明かりの木 の意味。
ククイ はハワイ語で「明かり」を意味する。
ククイノキの核果(モモなど、種子が固い内果皮に包まれている果実)に含まれる油は 50%といわれる。搾った油を溶岩のくぼみや洞窟の岩のへこみに溜めて、灯芯を燃やして明かりとした。
アルコールのような炭素量が少ない油は、中心部が光らない。植物性の油のほとんどは炭素量が多いので、日本では 古くはゴマ・ツバキ・エゴマが灯油として使われ、近世にはナタネ・メンも使われた。
ロウソクの炎
 Aleurites ククイノキ属:小麦粉に由来する
ギリシア語の「aleuron 小麦粉」からきており、幼葉が白い粉で覆われているため。葉だけではなく、葉柄も毛で覆われている。
 種小名 moluccanus:地名に由来する。
トップの「原産地」に示したように、分部範囲はきわめて広く、モルッカ諸島も含まれている。
現在はインドネシア共和国の一部で、古くから香辛料の産地として欧米諸国の支配にあった。
初めの命名者であるリンネは、『植物の種』(1753)で 同じトウダイグサ科の タイワンアブラギリ Jatropha属 として記載した。
 トウダイグサ科 :
トウダイグサの項を参照のこと。

参考文献:ハワイ魅力の花図鑑/2007/武田和男/書肆侃侃房


 
ククイノキ Aleurites moluccanus の命名物語

命名規約上有効な学名はリンネの『植物の種』(1753) で、同じトウダイグサ科の タイワンアブラギリ Jatropha属 として記載したものだが、種小名は先人たちが用いていたものを参考にしている。
属名が変わっただけの単純な物語だが、変更したヴィルデノウにちょっとしたミスがあったので、掲載する。
は正名、 は異名
内は 推定事項
  肖像写真は Wikipediaより
  図版は、Biodiversity Heritage Library より
 学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載  正名・異名の対象外
発刊順に掲載するため、筆者が調べて遡っていったのとは逆になる。
学 名 命名者 属名・備考 など
1717  Rathakaekuna  ヘルマン
Paul Hermann (1646-1695)はドイツの医師で植物学者。1672~77年に ドイツ東インド会社の医師としてスリランカへ。帰国後 ライデン大学植物園長となる。
『Musaeum Zeylanicum』はヘルマンの資料を William Sherard (1659-1728) がまとめたもので、ヘルマンの死後に刊行された。
恐らく現地名の Rathakaekuna に、モルッカのクルミの実 という名をつけている。リンネが参考文献として❹に記載。
 Nux moluccana、~  ヘルマン
こちらの記述はわずか2行。名称は多名法で「トウゴマのような葉で 黒い果実の モルッカの核果」で、属名はまだついていない。(本種がトウゴマの葉の形になるのは、特殊ケース。)

リンネが参考文献として ❹および① に記載。
参考:トウゴマ
1737  Nux moluccana、~  ブルマン  
Johannes Burman (1707-1780)はオランダの医師で植物学者、アムステル大学教授。リンネの前年生まれの同世代。先人の著書や同世代の植物学者の資料をもとに、世界の植物に関する著作を数多く残した。

Nux moluccana は『Thesaurus Zeylanicus セイロンの宝物』(1737) p.170 に記載した。
ブルマン
記述は1行のみ。参考文献として ➋があり、名称はそれと同じ。ようするに、既刊書の内容を写しただけである。同書には多くの図版があるが、本種の図はない。
1747  JATROPHA folis ovatis integerrimis subdentatis
 リンネ  多名法による呼び方
『Flora Zeylanica セイロン植物誌』は、使徒である Paul Hermman の著作を中心に、自身を含めてその他 17名の著書の中から、セイロン産の植物を集めたもの。
その植物番号 348番 (p.165)に、多名法で「卵円形で全縁 または やや牙歯のある ヤトロファ」として記載した。ヤトロファはトウダイグサ科タイワンアブラギリ属。
リンネは参考文献で、ヘルマンの著書『Musaeum Zeylanicum』に記載されたふたつの種、❶ Rathakaekuna と ➋ Nux moluccana をともに本種だとしている。
言葉だけでは、❶と➋が同じ種だと判定するのは難しいのではないか。標本が採取されていて、それを調べた結果かもしれない。
『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
様々な形で記載されてきた植物の名前を「属名と種小名」で表す二名法に統一するためには、どこかに線を引かなければならない。二名法は一部で以前から使われていたが、『植物の種』で記載の全ての種について定めたことが、後に学名の出発点として選ばれた最大の理由である。
学 名 命名者 属名・備考 など
1753  Jatropha 属  リンネ  タイワンアブラギリ属
リンネは『植物の種』(第1版) に7種を記載し、現在でも正名となっているものがある。
1753  Jatropha moluccana  リンネ  異名 本種の元の名
Carl von Linné (1707-1778) はスウェーデンの博物学者。
『植物の種』第2巻の p.1006。生育地はモルッカとスリランカとなっている。 ❶ ➋ は『植物の種』以前の記載(前掲)。
1775  Aleurites 属  フォースター父子  正名、アブラギリ属
父は Johann Reinhold Forster (1729-1798)、息子は J. Georg A. Forster (1754–1794)。ともにポーランド生まれで、クックの2回目の航海に参加し、その航海記は高く評価された。
1805  Aleurites moluccana  ウィルドナー  記載ミス
  → A. moluccanus .命名規約 ICN 62.4による  正名
Carl Ludwig Willdenow (1765年-1812) はドイツの植物学者・植物分類学者。
ベルリン大学教授、晩年にはベルリン植物園長。
ククイノキの正名は、リンネの後を受けた『植物の種 第4版』に記載したが、種小名を性変化させるのを忘れてしまった。
ウィルドナー
元の Jatropha属は女性だったが、Aleurites属は男性なので、近年になってmoluccana は自動的に moluccanus に変更された。


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