ノグルミ 野胡桃
Platycarya strobilacea
Siebold et Zucc. (1843)
科 名 : クルミ科 Juglandaceae
属 名 : ノグルミ属 Platcarya Nutt. (1818)
中国名 : 化香樹 hua xiang shu
原産地 : 本州の東海道地方以西、四国、九州
朝鮮半島、中国中・南部、台湾
用 途 : 器具材。樹皮はタンニンの原料に。乾いた果序をリースなどの材料とする。
庭木とすることもある。

クルミといえば 大きな硬い実。しかしノグルミには まるで違う「実」が生り、クルミ科とは思えない形である。

①:樹 形           2011.6.16.
高さ 約10m。左の太い木はエンジュ。

②:背高    2011.10.12.
大木スズカケノキのすぐ近く。光を求めて主幹が曲がっていってしまった。高さ 約 11.5m。 右は アカガシワの大木。

自然樹形     2009.5.8.
徳島市 眉山公園

①:幹の様子   2012.11.27.

①:葉の様子       2011.5.31.
クルミ科の葉は すべて羽状複葉である。ノグルミは奇数の複葉。今年出た枝の先端に花が付いている。

残っている前年の果序      2009.5.8.
小葉には鋸歯があり 左右が不均等。

花の様子          2012.6.15.
中央に丸い雌花序、そのすぐ下に複数の雄花序が上向きに付く。
また、雌花序の頭にも 雄花序が付くことが多い。( 写真 )
花被片は無く、細かく尖っているのは苞である。


落ちた雄花序       2012.6.15.
上部に並べた茶色いものは、前年の雌花序。
この程度では 拡大しても詳細はわからないが、長い苞の上側に 黒くなった葯があるのがわかる。苞には毛が生えている。

ヒメグルミの雄花序    2011.4.20.
ほかのクルミ科の雄花は下向きに垂れる。ノグルミとは向きが逆なので、雄しべは苞の下側に付く。

若い雌花序        2012.7.4.

たくさん残る果序     2012.11.27.
中には 前年の果序も混ざっているかもしれない。
 
ノグルミ の 位 置
写真①: C5 ab 30番通り 右手 標識36番の先
写真②: B7 d 10番通り 左側 スズカケノキの近く

名前の由来 ノグルミ Platycarya strobilacea

ノグルミ 野胡桃 :
日本全国の山地の川沿いに生える「サワグルミ 沢胡桃」に対する名であろう。ノグルミは 日当たりの良い林縁に生えるそうだ。
しかし 名前が付けられた大昔?に、この木が「クルミ」の仲間という認識があったという事が 不思議だ。近年になって付けられた名前なのではないだろうか?
ノグルミの別名は「ノブノキ」ということだが、由来は不明。
 
 ← クルミ 胡桃 : 中国伝来の桃 の意味
762年(天平宝字6年) の正倉院文書に すでに「胡桃」の文字があるそうだ。音は「クレミ」の転訛で、上代に中国の代表地だった「呉」から渡来した桃 という意味だった。
桃は実や核の形から。
ヒメグルミ
漢字の「胡桃 hu tao」は 現在でも中国語で クルミ を指す。
「胡」は エビス、中国の周辺外地のことで、西域から ペルシアグルミなどの実が持ち帰られたため。中国に産するチュウゴクグルミは、果皮が厚くて中の仁は極めて少ない。

クルミ科 Juglandaceae
属名 Juglans ユグランスは、ペルシャグルミ Juglans regia の古代ラテン名 Jovis glans「ジュピターの堅果」つまり 最高の果実という意味で、後に付けられた種小名の regiaも 「王の」 という意味である。
ペルシャグルミ Juglans regia

種小名 strobilacea : 毬果の の意味
通常のクルミ あるいはサワグルミのような垂れ下がる果序と違って、ハリネズミのような楕円形の形であるため。

属名 Platycarya 属 : 果実の形による
前掲の写真は 果序であって 果実ではない。
ギリシア語 platys 広い + karyon 堅果 で、小さな偽果・種子の形が平たく見えるため。
この実は 2008年にニューヨークのブルックリン植物園で拾ったもの。当時はノグルミの存在を知らなかったので、N.Y.で日本の植物に出会ったことで 感激するとともに、これがクルミ科なのか? と疑問に思ったものだ。
長さ 4~5ミリの偽果。二つに分かれた柱頭が残っている。
翼に見えるものは 二枚の「小苞」が合着したものだそうだ。中央の小さな塊が、翼を取り除いたもので果実に近い状態。
 
 真果 と 偽果
ノグルミの果実が偽果と呼ばれるのは、見た目の主要な部分が小苞による翼であるため。

 真果 しんか:果実の大部分が 成熟した「果皮」からなる。
 偽果 ぎか :大部分が 果皮以外の付属物で占められる場合。

モモの食べる部分は「中果皮」なので真果、リンゴは「花床」なので偽果となる。
モモの果実の名称

リンゴの果実の名称



植物の分類 : APG II 分類による ノグルミ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所  クルミ目  ロイプテレア科、クルミ科
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
 ブナ目  ブナ科、ヤマモモ科、カバノキ科、モクマオウ科、クルミ科、など
クルミ科  ペカン属、クルミ属、ノグルミ属、サワグルミ属
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 -植物名の由来- 高橋俊一 五十音順索引へ