ク ズ 
Pueraria lobata Ohwi (1947)
← Dolichos lobatus Willd. (1802)
科 名 : マメ科 Fabaceae
属 名 : クズ属 Pueraria DC. (1843)
英語名 : kudzu , kudzu-vine
原産地 : 日本、朝鮮半島、台湾、中国
用 途 : 根から「クズ粉」を採り食用とする。
根を乾かしたものを「葛根 かっこん」と呼び、発汗・解熱で風邪薬とする。
葉を飼料とする。

クズ の学名について

小石川植物園内にクズはたくさん生えるが、名札は一枚もない。栽培しているわけではなく、ほかの樹木を覆い隠すほどにはびこる 迷惑な植物となっている。

クズの学名としては 標記が一般的だが、筆者が参考にしている GRIN / アメリカ農務省 の見解は異なり、
Pueraria montana Merr. var.lobata Maesen & S.M.Almeida
ex Sanjappa & Predeep (1947)
である。独立した種(しゅ)ではなく、Pueraria montana タイワンクズの 変種となっている。タイワンクズは花の色が青みがかっているようだ。詳細はわからない。

なお、飼料としてクズを導入したアメリカ合衆国でも広がりすぎて大変なことになり、「有害植物」に指定されている。


クズの繁殖ぶり         2011.9.6.
分類標本園の中から西側の立ち入り禁止区域を見ている。

フサザクラ・ユズリハ 付近    2011.8.30.
こうなる前、伸び出した頃に切ってしまえばいいのに・・・・、と思う。人手が足らないのだろうが、晩秋の退治が大仕事になることを思えば、数名が月一回程度の巡回で事足りるのだが・・・。

クズは多年生のつる性草本で 一年に10m以上も伸び、樹木に絡むと 高さ20mまでものぼっていく。落葉性で 樹木ではないが、茎は木質化して太っていく。

幹?           2009.9.13.
神代植物園、太さは 約6センチ。根っこから完全に取り去らないと、翌年に、いたるところから芽を出す。

根元?         2011.2.3.
小石川植物園、地面に近いところから出た芽や、木に絡みつけなかった茎は 地表を這う。

分岐線は別方面へ。

茎の途中(葉腋)からも芽を出す   2011.5.15.

この繁殖力       2011.5.15.
 
這い上がる木を見つけるまでは直線的に伸びる 2010.9.20.
2011.6.26.
標識15番付近。日陰であるためか、葉の量は少なめ。ここの葉は光が差し込む 北側を向いていた。

よじ登り名人
途中に何も無い と思われるところにも蔓が。一本のハシゴが掛かれば、あとは仲間がどんどんと登っていく。

葉の様子        2011.8.30.
三出複葉の葉は、よじ登っても 垂れ下がっても 同じ向きになる。
葉のタイプ
切れ込みのない葉と、2〜3裂する葉がある。

葉の裏は短い毛が生えて 白い
この小葉のサイズは 長さ21センチ、幅19センチ。

粗い毛の様子
蔓や葉柄には粗い毛が生えている。この葉は切れ込みが片側だけ。


 葉の開閉
マメ科の植物だけではないが、オジギソウに代表される 葉の開閉運動が「クズ」にもある。
ネムノキなどは暗くなると葉を閉じるが、逆にクズは日照が強い時に、完全ではないが 葉を閉じる。
 
葉を閉じたクズ       2012.9.14.
クズの葉は3枚。中央の葉を「持ち上げて縦にする」、両側の葉を「閉じる」結果、3枚がほぼ同じ位置に重なる。
一般的にはなるべく日差しを受けて「光合成」を行うべきだが、地面が乾いていて水分の供給が乏しいツルが閉じるのだろう。


花の様子    2012.9.11.
総状花序は葉腋から出るが、写真ではツルが上から下へ垂れ下がっており、花柄が湾曲して上を向いている。のぼり藤。

木を覆う        2011.9.13.
すべてを覆い尽くして、我が物顔に花を咲かせる。

甘く 良い香り    2011.9.6.
つぼみには 粗い毛の付いた青い苞があり、別に 小苞、萼がある。花は下から咲いてゆき、咲き終わると青みがかって萎れる。とても良い香りなので、退治して まったくなくなってしまうと寂しい。
花の詳細
マメ科の蝶形花、旗弁の中心部には黄色い部分があり、両側の翼弁は濃い赤紫。竜骨弁にはピンクの筋が見られる。

実の様子       2012.10.12.
分類標本園横のフェンス。ツルだけでなく種子でも増える。
実の入っていない枝豆 ただし剛毛付き、と言えようか。

クズの種子
茶色い種子と黒いのがあった。長さは 4ミリ。



名前の由来 クズ Pueraria montana var. lobata

クズ 葛 :
萩 雄花、桔梗 撫子 女郎花、 藤袴、秋の七草。
日本全国に分布し、万葉集にも多く詠まれているクズは、古くから 衣・食・薬・飼料 として使われていた。

都の近くであった、奈良県吉野郡吉野町 国栖(くず)産の粉が良質とされ、地名が植物名になった とされている。

ほかにもいくつかの説があるが『語源辞典/吉田金彦』に、
葛を カヅラ と訓み、葛根を カヅネ とも呼び、『古事記』に 葛野 カヅノ という地名がある・・・等のように、葛は カヅ とも言った形跡があることからみて、筋の意の首里方言 カジ や、同じく筋の意の青森・与那国島方言 キジ の異形と思われる クジ という語形が クズ と転じながら、筋・線条、引いては蔓の意を表したとも考えられる。
線条という意味の クジ は、串や籤 クジという語と通じ、また「筋 スジ」という語にも通じる。
という意見が載っている。

別名 ウラミグサ 裏見草 : 裏が見える、目立つ から
普段でも強い風が吹くと 葉裏の白い色が見えるが、特に日差しが強くて葉を閉じている時には、そよ風でも裏が目立つ。

ここから「裏見草」の別名が付いたのだが、平安時代の恋の歌では、ウラミ と「恨み」を掛けて、男女の怨念を読み込んだものが多いそうだ。

変種名・園芸品種名 lobata : 浅く裂けた
小葉の様子を表したもの。ほかのクズ属の小葉がみな全縁ならば、クズ特有ということになる。ただし、クズでも切れ込みのない小葉がある。

種小名 montana : 山地生の
タイワンクズ Pueraria montana が山に自生していたためであろう。タイワンクズは見たことがないので、ホームページ『沖縄花図鑑』の写真をお借りした。
タイワンクズ
ホームページの管理人MKさんから 使用許可取得済み
クズと較べて 花の色が紫で、サイズが小さいのが特徴。
Pueraria montana
Wikipedia の写真。MKさんからお借りしたものより紫色だが、デジカメの特性で実物と違っている可能性もある。しかし、葉の性状が違うので、どちらかがタイワン-クズではなさそうだ。

Pueraria 属 : 人名による
18〜19世紀のスイスの植物学者 プエラリ Marc.N. Puerari (1765-1845) を顕彰したもの。プエラリの詳細は不明。

命名者は ジュネーブに生まれ、ジュネーブで没した大植物学者 ドゥ・カンドル (1836-1918)。

マメ科 :
「丸い実 マルミ」が マメに転訛した、という説が有力。

マメ科の植物の特徴は、「線対称の花」、「サヤ状の実」、通常「10本の雄しべ」である。

クロンキストの分類では、「ネムノキ科」と「ジャケツイバラ科」を別の科としていたが、APG分類では統合された。
「豆」の字を漢和辞典で調べてみると 元の意味はマメではなく、「肉を盛る食器の形」で「高坏 タカツキ」を表した象形文字であった。

トウの音も、もともとは「高い脚」で立っていることから、「リュウ、チュウ」だったのが、「トウ」に変化したもの。

そして、「マメ」の意味で使うようになったのは、「アズキ」を意味する「荅 トウ」と 発音が同じであったために借用した、(誤用?)ということである。
『漢和中辞典/角川書店』
本来とはまるで違う意味の字を「マメ」として使っているわけで、豆の字の 四角い部分は「実」を表したものではなく、「器の形」だったわけである。


植物の分類 : APG II 分類による クズ の位置
クロンキストの分類で 3科に分けられていたマメ類は、ひとつに統合された。見た目の違いよりも 遺伝子の違いが少なかった結果だろう。
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
以前の分類場所  マメ目  ネムノキ科、ジャケツイバラ科、マメ
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
マメ目  マメ科、スリアナ科、ヒメハギ科、キリャイア科
マメ科  ネムノキ属、ジャケツイバラ属、マメ属、クズ属、ほか多数
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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