マンゴスチン
Garcinia mangostana Linn. (1753)
科 名 : フクギ科 Clusiaceae, Guttiferae
属 名 : フクギ属 Garcinia Linn. (1737)
原産地 : 西マレーシアあるいはスンダ列島
マレーシア: manggis
英語名 : mangosteen, king's-fruit
中国名 : 莽吉柿 mang ji shi
用 途 : 果物の女王!、おもに生食される。
果皮のタンニンを染料として、また慢性下痢や赤痢に効果があるとされる
撮影地 : 小石川温室、インドネシア、
シンガポール、中国雲南省

高温多湿で温度変化が少ないことが必要で、栽培に適する地域が限られ、また抗カビ成分がないために傷みやすく、近年まで日本では輸入が許可されていなかったが、2003 年に解禁されて果実シーズンには果物屋で売られている。

小石川温室 第二室



樹 形    2009.1.9.
インドネシア ボゴール植物園のもの。来園者に果実を取られてしまうために、竹の柵で囲まれている。細くて頼りなさそうだが、これを乗り越えようとすると柵が倒れてしまうので、かえって目立つことになりそうだ。
常緑で高さ9〜12mになるそうだが、この木は 約7m。
幼木の幹 樹 皮
温室の幹は 径3センチ弱。成長に伴って急激に太くなり、表皮が裂けて赤茶色の内部の皮が見えている。右はシンガポール植物園のものだが、直径は測らなかった。25センチ程度か。
ボゴールの名札
名札の二行目、mangostana L. の後に「メス・雌株」のマーク が付いている。
事典によると雄しべは退化していて、これまでに有効な花粉を持った木(雄株あるいは両生花の株)は見つかっておらず、雌株のみで単為生殖を行うそうだ。
葉の様子       2007.8.5.
シンガポール植物園。十字対生する葉は形や質感など、ゴムノキの葉のようだ。サイズは一回り小さくて、長さ 15〜20cmまで。この時は葉の展開時期で、実は生っていなかった。
開花終了期

『India Biodiversity Portal』のページより。このページの画像は利用可能。
花は通常茎頂に1つつく。葉腋につくこともあるようだ。
4弁のうち2枚は脱落。柱頭は枯れて褐色になりつつある。この後、白い萼片の内側が花弁と同じような鮮赤色となる。
               若い果実        2009.1.9.
インドネシア。黄色い名札は 園で観察をしているためだろう。熟すと濃い紫色になる。
雌しべは子房に直接付いている(花柱が無い)。柱頭の痕跡がそのまま果実に残り、この数は果皮を割ると出てくる白い果肉部分の数と一致する。柱頭痕の切れ込み数が多いものを選んだ方が、種子が入っている物が少なくて食べられる部分が多いというが、実際はどうだろうか。
果実から黄色の樹脂が滲み出ている。果皮部分にはタンニンと黄色の染料の原料になる赤い色素を含んでいる。この外皮は粉末にして下痢、赤痢、皮膚病の薬として使われる。
中国雲南省 盈江(インジャン)  2008.7.15.
雲南省の植物観察旅行で。
旅行中にマンゴスチンの木は見かけなかったが、果実は果物店で山積みにして売られていた。押してみて柔らかい物が食べ頃である。そのため、店先で売られている物に、指で押した跡が残っていることがある。若い物と熟し過ぎた物は固く、特に熟しすぎたものは中の果肉が透明になってきて不味い。もちろんたくさん購入して食べたが、ハズレも多かった・・・・。
女王様 !
萼片、花弁とも4枚で 萼が残る。原産地ではないためか小さめで、直径6cm。果皮は7mm程度の繊維質で柔らかく、へたの部分を持って赤道部に切れ目を入れると簡単に2つに割れる。種子の周りの仮種皮を食べる。(写真は縦に割ってある。)
東京で購入したもの
今では果物屋で、タイ産を航空便で輸入したものを売っている。一個 200円程度。敢えて ナイフでカットした。種がはいっていない部分の方が、食べるところが少ない。
果皮を染料にするほどであり、布に付着すると絶対に落ちないので注意が必要。



名前の由来  Garcinia mangostana
 和名:マンゴスチン
英語読みで定着している。
 属名 Garcinia:人名による
フランス グルノーブル生まれの医師で植物学者、ガルサン Laurent Garcin (1683 - 1751) を顕彰したもの。
命名者は種小名ともにリンネ(1707-1778)で、ほぼ 同時代の人物。
 種小名 mangostana:現地名による
原産地のひとつ バリ島のマンギス村 manggis に由来したものといわれている。
インドネシア共和国 バリ島、マンギスの位置 ( 印 )
図は Wikipedia より

『植物の種』 p.443、444

赤線(筆者加筆)が種小名
学名は規約上リンネの『植物の種』(1753)によっているが、そこにはすでに3つの名称があり、リンネ以外の著者による5つの参考文献が挙げられている。
Mangostans Garc. act. angl. 431. t. 1. Bont. jav. 115.
Mangostana Rumpf. amb. I . p.132 t. 43
Laurifolia javanensis Bauh. pin. 461. Ray hist. 1662.
未確認だが、一行目に2つある文献の最初のもの「Garc. act. angl.」が、属名となっている ガルサンによるもののようで、 リンネはガルサンの業績を顕彰して属名とし、種小名には二行目にある Mangostana を採用した。
二行目の文献は、ドイツ生まれの植物学者 ルンフィウス G. E. Rumphius (1627-1702)による『アンボイナ植物誌』(1741)である。アンボン島はモルッカ諸島の島で、クローブなどの栽培の中心地だった。

Googel map より
ルンフィウスの若い時の人生は生涯は波乱万丈だったが、オランダの東インド会社に雇われて、27 歳の頃、バタヴィア(現在のジャカルタ)からアンボン島に派遣された。『アンボイナ植物誌』の第一巻には、マンゴスチンの図版が掲載されている。 ルンフィウス
『Herbarium amboinense』(1741)


『アンボイナ植物誌』より
表紙 と 第43図

ミズーリ植物園所蔵、『botanicus』より

 英語名: mangosteen
はじめポルトガル人によって mangusta または manggistan と称していたのを、17世紀までは mangostan と書いており、その後 mangosteen と呼ばれるようになったという。
 英語名: king's-fruit
日本では果物の「女王」で、「王様」はドリアンと言われている。
19世紀末のイギリス女王 ビクトリア(1819- 在位 1837 -1901)は、(マレーシアやシンガポールなど)自国の植民地にマンゴスチンがありながら、それを味わうことができない事を非常にと嘆いた、というエピソードが残されている。           『園芸植物大事典』ほか
 
 フクギ科、フクギ 属:福木
フクギは奄美諸島や沖縄で、防風林・街路樹として植栽されている常緑樹。原産地は台湾やフィリピンにかけて。
京都植物園             フクギ                沖縄
「福木」と書くその由来は分かっていない。
私の説は「複木」。対生の葉が付く若枝が、二本の枝を合わせたように筋が付いている様子から「フクギ」と呼び、後に 縁起の良い「福」の字を当てたのでは。

 Clusiaceae フクギ科、Clusia フクギ属:
フランスの植物学者で、最後はライデン大学植物園の開設に尽力した クルシウス Carolus Clusius (1526-1609)を顕彰したもの。
リンネよりも100年以上前の人物で、ドドネウスとともに、植物学のパイオニアと言われている。
Clusia属を定義したのは、規約上はリンネで『植物の属』(1735)による。
クルシウス
新エングラーやクロンキストの分類では、Clusiaceae はオトギリソウ科と呼ばれていた。APG分類ではフクギ科となり、オトギリソウ科は Hypericaceae である。


植物の分類 : APG IV 分類による マンゴスチン の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
基部被子植物 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア
モクレン類 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 独立系統 : センリョウ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ
中核真生双子葉類: グンネラ、ビワモドキ
バラ上群 : ユキノシタ
バラ類 : ブドウ
マメ 群 : ハマビシ、マメ、バラ、ウリ、ブナ
 未確定 : ニシキギ、カタバミ、キントラノオ
 キントラノオ目 ヒルギ科、フクギ科、テリハボク科、オトギリソウ科、スミレ科など
 フクギ科 クルジア属、フクギ属、など
アオイ群 : フウロソウ、フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク上群 : ナデシコ、ビャクダン、など
キク 類 : ミズキ、ツツジ
シソ 類 : ガリア、リンドウ、ムラサキ、ナス、シソ、など
キキョウ類 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物(進化した植物 )           

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ