ハヤザキマンサク 早咲き満作
Hamamelis vernalis Sarg. (1908)
科 名: マンサク科 Hamamelidaceae
属 名: マンサク属 Hamamelis Linn.
原産地: アメリカ北中部(ミズーリ・オクラホマ州)、同 南東部(アーカンサス州)
用 途: 植物園などで植栽される
備 考:

満 開        2001.2.25.
トップの2枚の写真は2月25日の撮影。道は60番通り。
シナマンサクは1月中旬から咲き始めるし、マンサクやニシキマンサクも本種と同じ頃に開花する。ではなぜ「早咲き」と名付けたのか。
まず、名前の由来から始めることにする。


名前の由来 ハヤザキマンサク H. vernalis
 
 種小名 vernalis:春咲きの
アジアのマンサクは通常、早春から春にかけて開花する。それなのに、サージェントがこの種小名を付けたのは、もう一つのアメリカ産マンサク、「秋咲き」の H. virginiana と対比したものだろう。
アメリカマンサク H. virginiana         2000.7.20.
説明板には「10月に葉が落ちるにつれて花が咲く。このエリアでは最も遅くに咲く樹木」とあった。開花から9ヶ月ほど経っているはずだが、実はまだ熟していない。右写真の右上に、花序が成長しつつある。

 学名の出発点『植物の種』(1753) 以前の記載  正名・異名の対象外
学 名 命名者 備 考
1747  Hamamelis  ケイツビー  H. virginiana(リンネ)
Mark Catesby (1683– 1749) はイギリスの博物学者。北アメリカ東部や西インド諸島の植物・動物を調査して、『Natural History of Carolina, Florida and the Bahama Islands』2巻+ 補遺 を刊行した。少しデザイン化された植物図に、主に鳥類を配した図版がすばらしい。
本図には鳥ではなくオオムカデの一種 Scolopendra が書かれている。猛毒があるそうで、半分カットしてある。
「Hamamelis」以外に種小名的な記載は無い。また 既刊の書物も挙げられていない。説明文には「バージニアでは10月に咲く」とある。
『植物の種』以降の出版、記載  基準日:1753年5月1日
学 名 命名者 備 考
1753   Hamamelis  リンネ  マンサク属
  H. virginiana  アメリカマンサク
『Species plantarum 植物の種』第1巻 p.124。

マンサク属の記載は1種のみ。いくつかの文献が挙がっているが、❶の t. 2. が前掲の図を指している。
学 名 命名者 属名・備考 など
1908   Hamamelis vernalis  サージェント  ハヤザキマンサク
Charles S. Sargent (1841-1927) は アメリカの植物学者である。
ボストン郊外のアーノルド樹木園はハーバード大学付属で、1872年に開設された。頭初から所長となったサージェントは樹木園に生涯を捧げた。北アメリカと東アジアの樹木を中心にコレクションしており、立派な盆栽も多数所有している。
Sargent
❶、②から 約150年後、サージェントは『Trees and shrubs、樹木と低木:ハーバード大学アーノルド樹木園の資料をもとに作成した、新しい あるいはあまり知られていない木本植物の図集』第2巻 142ページに本種を記載した。

後略
新種。
1840年代から各地で観察され、サージェント自身も 1902年に標本を採取している。
説明文には「花は1月下旬から3月末まで」(緑の下線部)とあり、これが種小名「春に咲く」の由来となっている。

最後には「日本のマンサクと似ている」との記述もある。


 和名 ハヤザキマンサク:
種小名をもとにすれば 「ハルザキマンサク」なのだが、国内のマンサクはおしなべて春咲きであり、また 「アメリカマンサク」は、すでに H. virginiana に使われている。さらに、シナマンサクはもっと早くから開花するのだが、仕方なく? 「ハヤザキ」としたのではないか?
マンサクの由来については、シナマンサクの項を参照のこと。



黄色と赤         2015.2.24.
葉はほとんど残らない。左うしろに枯葉が残っているのは チドリノキ。
下向きに咲く      2015.2.24.
マンサク
東洋の種は概して花梗を曲げないため、様々な向きに咲く。
花梗を180度曲げて多くが下向きに咲く。下から写すと黄色が透けて中心部が一層 暗く写る。
萼が赤い       2015.2.24.
萼片の外側には毛があるが、内側はつるつるで光っている。
花期終了      2011.3.27. 芽吹き 2015.4.1.
長い花期が終わる頃、頂芽が伸び出す。短枝(偽短枝)には通常2枚の葉がつく。花梗が伸びて花序が上を向き出す。
偽短枝の伸び     2015.4.1.
長枝は水平に伸び、短枝は湾曲しながら上を向くのだが、全体としては平たい平面を形作る。
斜面の裾から。見事に水平に伸びた長枝から芽吹く新葉。
展 葉        2015.4.4.
ほとんどの短枝には2葉がつく。
萼の色        2012.5.8.
結実すると 萼の赤味がうすくなっていく。
幼果が成長すると萼は緑色になり、赤い柱頭が目立つようになる。子房は2室だが、柱頭の内側にある心皮の癒合部(合わせ目)「内縫線」がはっきりしてきて、4室のように見える。
種子散布時には この部分で裂開する(カーソルを乗せると点線で表示)。
末広がりの樹形        2012.5.8.
傾斜地に育つことが関係しているのかどうかはわからないが、枝が横に広がっている。写真の右側に林立するメタセコイアのために、午後は陽が当たらない。
葉 裏        2025.5.11.
葉裏は艶があって、マンサクと同じイメージである。
葉裏 葉表    2025.5.11
左右の写真のスケールは正確ではない。
葉裏詳細 使用しているルーペ
数字は1mm(写真の幅で1センチ)。葉脈には星状毛が残るが、全体としてはほぼ脱落している。
ルーペの倍率はわずか 10倍だが、観察範囲は3センチあり、接眼レンズが大きくてカメラを載せやすい。「PEAK」製。
幼 果        2025.6.28.
果実が肥大して萼筒が広がっている。柱頭に生じた線も明確になり、将来の裂開の位置がますますはっきりとなった。


黄 葉          2010.12.2.
一部に緑色の葉が残っている。左奥は チドリノキ。
黄変は葉の周囲から    2012.12.5.
それぞれの葉に注目すると、周囲から黄色くなっていくことがわかる。
来春の準備       2012.12.5.
今年と前年に成長したの偽短枝の葉腋に、花序がスタンバイ。開花まで あと3ヶ月。


 
ハヤザキマンサク の 位 置
F13 a 60番通り右側。ニシキマンサクを過ぎ、メタセコイアの所。

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