トキワマンサク 常磐満作
Loropetalum chinense Oliv. (1862)
← Hamamelis chinensis R. Br. (1818)
科 名 : マンサク科 Hamamelidaceae
属 名 : トキワマンサク属 Loropetalum
R. Br. ex Rchb. (1818)
中国名: ジ 木 ji mu
英 名 : Chnese fringe-flower
原産地 : 本州、九州。 
中国各地、インド東部(アルナチャル・パラデシュ、アッサム、ミゾラム)
用 途 : 公園樹、庭園樹。
最近は街路樹の低木用に使われている。

正門を入ってすぐの シナマンサクは、ほかに花のない時期に早くに咲いてよく目立つ。しかし 上の段の常緑樹林にあるトキワマンサクの花期は4月末、しかも地面に着くほどよく枝垂れているために、初めて見た時にはマンサクの仲間だとは思えなかった。特徴のある花を見れば、納得ができる。

@:まさに 常磐マンサク 2012.1.24.

            @:花期の様子         2013.4.23.
真っ白になる花時でなくても、誰もが名前を確かめるために 枝をくぐって中に入って行く。

@:いつも変わらぬ緑       2013.10.19.
途中で一度に何本にも枝分かれしていて、樹形を作っているが、日差しのない森の内側は、極端に枝が少ない。だからこそ、離れた場所からのこの写真の撮影が可能。

@:枝振り          2011.4.15.
@:幹 の 様子
叢生した細い幹が、更新することなく太くなってひと塊りになったもの。
表皮が薄く剥がれる。枝はまるで 絡み合っているように見える。

トキワマンサクの葉  2012.2.5. マンサクの葉  2008.5.26.
スケールは同じではない。
トキワマンサクの葉は小さな楕円形で 長さは大きくても4センチ。

2011.4.20              花の様子              2007.5.2
花は今年伸び出した短い枝の先端に 4〜7個程度付く。左の写真は緑色が強すぎるが、咲き始めの花弁の色は 淡黄色あるいは淡黄緑色。若い枝や花柄・萼には白い毛が密生する。
10年前に比べると 近年の枝の充実振りはすごい。
種子はできないようだ。

すぐ近くに もう一本あることに気がついた。

A:もう一本のトキワマンサク     2014.4.15.
@の木は 写真の右手、30メートルほど離れた場所である。見えている名札は 足元に植えられているキャラボク。



街路樹として植栽される    2011.4.15.
2005年頃から、東京では街路樹の低木として使われるようになった。
立派に花も咲かせている。 "ど" ピンクの変種も使われる・・・・。

2007.3.24       Loropetalum chinense var. rubrum       2010.5.5
最近私もピンクが好きになってきたが、この どぎつさは ちょっと。一房だけならなんとか がまんできる・・・。

 
トキワマンサク の 位置
@ : C6 a 20番通り 右側
A : C5 ac 20番通り、標識25の先 左側
分類標本園 売店側から9列目 右端

名前の由来 トキワマンサク Loropetalum chinense

和名 トキワマンサク : 常緑のマンサク
日本にも何種か原産するマンサクの仲間は いずれも落葉樹なのに対して、本種は常緑であるため。

一属一種の単形属とする説と 数種を認める意見があったが、APG分類では 一種のみとその変種となったようだ。

 ← マンサク
マンサクの由来には2つあって、
    @ まず咲く の意味
    A 満作 の意味
と、まるで異なる説である。(この項は マンサクと重複する)
まず咲く」説は、開花が現在の暦で2月〜3月、つまり旧暦では正月を迎えてから「真っ先に咲く」、あるいは 葉が出る前に「まず 咲く」ところから名付けられた、というものである。
花に関しては「ウメ」の方が 早いように思うのだが・・・。
満作」説は農民の「忌み言葉」によるものである。

春の山に早くから咲く花は美しいが、ほとんどの花は実を付けないために、「シイナ花」とも呼ばれた。 皆無ではなく少しは果実が生り黒い種子ができるのだが、咲く花の数からすると 1%もなさそうだ。

「シイナ・粃」は実の入らないモミのことで、「凶作」に通じるということから嫌われて、反対の言葉である「満作」になった、というものである。 マンサクの黄色い花が、黄金色に実った稲穂を連想させることも 関係しているのかも知れない。
イネとは直接関係がないが、「アシ」が「悪し」に通じることから、「ヨシ」という別名が付けられている例もあるので、あり得ることである。
 
中国名 : ジ 木 ji mu
『園芸植物大事典/小学館』には 「ジ」の字が載っていたが、 ATOKの文字パレットにはなく、合成して作成した。
 
旁(つくり)は、枝の枝垂れる様子 または 属名と同じく花弁の「四手」状を表しているのだろう。
ミズーリ大学が運営している『Flora of China』でも、表示用の文字がないために「木継」と二文字で表記している。
 
種小名 chinense : 中国の の意味 
原産地のひとつを表す。

『園芸植物大事典/小学館』によると、日本での自生が最初に発見されたのは伊勢神宮の神苑だそうで、1931年(昭和6年)の事。ほかに 熊本県にも見つかっている。

最初の命名者の ロバート・ブラウン(1773-1858)は スコットランド出身の植物学者だが、水中で微細粒子が不規則な動きをする「ブラウン運動」の発見者としても有名である。
R. Brown
Wikipedia より

Loropetalum トキワマンサク属 : 
ギリシア語 loron 革紐 + petalon 花弁 の合成。
マンサク特有の花弁の形状によるが、マンサク属にもあてはまる。

展開する前は 4枚がそれぞれ内側に丸め込まれている。

ちなみにマンサク属は Hamamelis で、ギリシア語 hama ともに + melon リンゴ・果実 の合成。花 と 果実が同時に付くことに由来する とのこと。

マンサク科 Hamamelidaceae
花の形や実の形が異なる属が含まれる科で、トキワマンサク属のほかに フウ属、マンサク属、トサミズキ属、マルバノキ属、イスノキ属などがある。


植物の分類 : APG II 分類による トキワマンサク の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類場所 マンサク目  カツラ科、フサザクラ科、スズカケノキ科、マンサク科、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
ユキノシタ目  ボタン科、カツラ科、マンサク科、ユズリハ科、ユキノシタ科、など
マンサク科  トサミズキ属、マルバノキ属、イスノキ属、マンサク属、フウ属など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。 その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

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