マテバシイ マテ葉椎
Lithocarpus edulis Nakai (1916)
← Pasania edulis Makino (1897)
← Quercus edulis Makino (1897)
科 名 : ブナ科 Fagaceae
属 名 : マテバシイ属
  Lithocarpus Blume (1825)
別 名 : サツマジイ、ナガジイ、マテバガシ
原産地 : 本州の関東南部以西から 沖縄、
用 途 : 果実は生食もできるぐらいに渋みが無く、煎るとさらにおいしい。太古から食用にされ、酒も作られたという。材は薪炭・器具材、シイタケのほだ木とする。
庭木、公園樹として植えられる。

ブナ科の樹木には和名に統一が無く、シイ 椎・カシ 樫・ナラ楢 の名が、色々な属にまたがって付けられている。たとえば、同じマテバシイ属の Lithocarpus glaber に「シリブカガシ」の和名が付いている。 ブナ科の 和名 比較一覧表は 別項で掲載した。
植物園のマテバシイは スズカケノキ付近東側の塀に沿って、6本が植えられているほかに、斜面にも大きな木が生えている。
 
マテバシイ の 位 置

@:ロウバイのすぐ上      2013.2.5.
左右上部に写っている枯れ枝が、花の終わったロウバイである。

古い主幹が腐り果てて、ひこばえや 脇の枝でなんとか生きながらえている。
この木に限ったことではないので、多くの木が同じ頃に植栽されて、寿命が来たということだろう。

A:トイレのすぐ裏 塀際  2013.2.5.
目立たない場所だが観察しやすい。高さ 約 6m。

B:塀沿いに並ぶ 6本        2013.2.5.
高さは 6〜8m。
6本の中の一番右の木     2012.1.12.
手前に枝葉が少ないのは、中央にあった大枝 (20センチ)が折れてしまったため。

C:40番通り付近の4本        2013.2.5.
人通りの少ない40番通り、自然を満喫できる。この写真には4本のマテバシイが写っている。
前掲写真 右手前の大株。7本の幹の内 3本が枯れてしまっている。

D:ひこばえのみ       2013.2.5.
これは 太い幹が完全に腐ってしまったもの。


幹の様子 直径 20センチ弱
縦皺はできるが、割れの深さはほとんど無い。

雪害で折れた枝            2013.1.29.
直径 約10センチ。年輪がはっきりしないので不正確だが、樹齢は約25年、緻密な材である。
樹皮の厚みは 約2ミリ。表面がなめらかな原因はどこにあるのか?
 ・形成層で 外側(樹皮側)に向けての細胞形成が少ない
 ・できた樹皮が古くなると すぐに剥がれてしまう
後者なら、剥がれかけの薄い皮を観察できそうなものだが・・・。

冬 芽          2013.2.5.
艶のある 黄緑色の芽鱗に包まれている。

落 葉    2001.5.26.
春に新しい葉が出ると、二年前の葉は赤茶色になって落ちる。

つぼみの状態の雄花  2001.5.26.
右下の丸いものは 前年に結実して一年経った果実。この時期にはまだ果実(ドングリ)は見えていない。さらに半年かけて実が熟す。

新葉は黄緑で美しい        2012.6.5.

半年経ってくすんだ緑     2013.1.29.
1月14日の雪で折れた枝が、片付けのために山積みされていた。

満開の花         2012.6.5.
花序は新葉のさらに先に突き出すので 目立つ。

枝分かれしない場合の 枝の伸び方   2012.6.5.
枝の先端に花序が付くため、次の年はすぐ下の腋芽が伸び出す。
複数の雄花序が葉の腋に付き、雌花序は先端近くに付く。写真では雌花序は見えていない。 
は 前年の雌花序で、今年の秋までにドングリとして生長する。

雄花の詳細        2011.6.14.
花は軸に直接付いている。花被片は6つに分かれ、雄しべは12本だそうだ。

雌花の詳細                    2011.6.14.
雌花序の先に 雄花が付くことも多い。
雌花は一カ所に2〜3個付き、花被片は開かないので目立たない。子房が3個あるために花柱も3本。

実の様子       2013.10.19.
果実として大きくなるのは 一箇所に1個が多いが、3個とも大きくなることもある。

実の様子     2013.2.5.
この写真ではすでにあらかたの果実が落ちてしまっている。上に突き出しているのが 今年の秋に熟す果実の元。

ドングリ         2013.2.5.
中央の種皮?に板目のような模様があるのは新発見。

 
マテバシイ の 位 置
写真@: E15 d ロウバイのすぐ上
写真A: B9 b トイレのすぐ隣 塀沿い
写真B: B6c-7ac 10番通り説明板のあるスズカケノキの右側 6本
写真C: E7c-8a 斜面 標識44番から台地の上に登る道の左右に4本
写真D: E8 c 斜面 標識44番のすぐ左
写真E: E9 b 斜面 標識52番の先 右側

 
名前の由来 マテバシイ Lithocarpus edulis

和名 マテバシイ :
「マテ」の意味が問題だが、定説はない。
  @:葉がツヤツヤしている「真照葉」
  A:葉が マテ貝 に似ている
  B:開いた手のような「全手葉」

マテガイ 全手葉 ?
Wikipedia より
Aが有力だが、マテガイは 中国の武器である「馬刀」の形をした貝の意味で、マテバシイの葉の形はもっと太い。

アスナロ の由来のひとつに、語呂合わせで「明日は檜になろう」という説がもっともらしく言われることがある。
マテバシイの場合は、その実を数日間貯蔵しておくと、シイの実のようなおいしさが増す、「待てば椎の実」→「マテバシイ」という説となろう。誰も信用しないだろうが・・・・。

閑話休題

 ← シイ 椎 : 強いる から
一般には 漢字「椎」の音「スイ」が転訛したもの、という説が有力とされるが、『語源辞典/植物編』吉田金彦氏の説を取り上げたい。 以下は 要約。
シイの名は『古事記』(712)、『日本書紀』(720)、『万葉集』(8世紀?) にも登場して「椎」の字を使っているが、新井白石が『東雅』で述べているように、わが国の初めに 樹名 シヒ を漢字音から転じたとは考えられない。
シイの材は固くて強さが求められる用具に使われた。舟を漕ぐ、刑罰として叩く、枷に使うなど 強引に行う・強要する行為が シフ(強)で、その活用形のひとつが シヒ(強)の具として用いられた。万葉の歌でも、誣(し)いられる人の心情を シヒ(椎)に掛けた用例が多い。
和語 シヒ(強)が樹名となり、漢字音が似ている「椎 スイ」を漢字とした、と思う。
「椎」には「ツイ」の音もあって 槌 ツイ に通じるところから、物を打つ「つち」の意味があり、字義の一つ目には、うつ・つちで打つ・たたくが載っている。吉田氏の説が裏付けられる。
角川『漢和中辞典』
種小名 edulis : 食べられる の意味
食べやすい ドングリによる。学名の命名は牧野富太郎だが、初めは現在とは違う属として記載した。
 
属名 Lithocarpus
ギリシア語の lithos 石の + karpos 果実の で、堅果にちなんだ名であるが、マテバシイの果実は 手でも歯でも、簡単に割ることができる。

ブナ科 Fagaceae
ギリシア語 phago 食べる に由来する。
小石川植物園には イヌブナは大木と枯れかかったものが一本ずつあるが、ブナ は無い。



植物の分類 : APG II 分類による マテバシイ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
以前の分類位置 ブナ目  バラノプス科、ブナ科、ナンキョクブナ科、カバノキ科、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
ブナ目 ナンキョクブナ科、ブナ科、ヤマモモ科、カバノキ科、クルミ科、など
ブナ科  クリ属、シイ属、ブナ属、マテバシイ属、コナラ属、
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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