ミツマタ 三椏、三叉
 Edgeworthia chrysantha Lindl. (1846 March)
科 名 : ジンチョウゲ科 Thymelaeaceae
属 名 : ミツマタ属 
  Edgeworthia Meisn. (1841)
異 名 : E. papyrifera Sieb. & Zucc. (1846)
中国名 : 結香 jie xiang
英 名 : paperbush
原産地 : 中国
用 途 : 古くに移入され、製紙原料として広く栽培されていた。近代以降は 紙幣・株券・証書類に使われたが、現在は栽培面積が減少している

日向でも半日陰でも良く育つそうだが、日本庭園近くのミツマタは木の下で、細々と育っている。標本園の方は育ちがよい。筑波植物園にあった「大木」の写真もあわせて使用する。

@ : 樹 形       2014.3.16.
高さ1メートル。成長はしているが倒れそうだ。葉に先立って花が咲くので、もっと寒い時期に咲くイメージだが、もうすぐソメイヨシノがほころぶ時期だ。
新緑の時期        2014.6.15.
↑ミツマタ 場所は 飛び石の橋が架かっている「小池」のほとり。

A:分類表本園       2014.3.19.
春とはいえ まだ寒々しい。
A:よく伸びた 2014年      2014.9.21.
多くの枝が「二度伸び」して青々としている。

B : 筑波植物園       2013.1.5.
高さ 2m 強。ぽつぽつと白い花序が見える。
B : 大木のミツマタの様子          2012.1.7.
地際の直径 15センチ! 初めから3つ叉。この大木は2014年に枯れて、撤去されてしまった。枯れた原因は不明。

A:3年半を経た幹 2015.1.20.
分類表本園、太さ 3センチ。


普通の植物と順序が異なるが、1月のつぼみの状態から始めて ミツマタの一年間の様子を追っていく。確認したいポイントは、
   いつ、どのように、3つの枝に分かれるのか?
   花序は ほんとうに枝先に付くのか?

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
つぼみ  新しいつぼみ
枝葉 3分裂 二度伸び
落葉
二度目の分枝は 必ずおこるわけではない
着葉期間は短く、古い葉から順次黄葉して落ちていく
しかし、寒さで萎れた葉は翌年まで付いていることもある

ページが長いので、各項目に跳ぶ ラベル(リンク)を付けた。
  ・つぼみ、開花  ・新梢の伸びと葉  ・二度伸びとつぼみ
  ■花序は茎頂に付くか?
  ■3分枝のしくみは?
  ・植物園のミツマタの位置図 と 名前の由来
 

つぼみ 〜 開花
@:新春の様子   2015.1.4.
ジンチョウゲは常緑だが、ミツマタは落葉樹。しかし葉が落ちるのは遅く、年が明けてもまだ柔らかな葉が残っている。
前年の9月頃から用意された花序は、横向きになっている。
頭状花序         2015.1.4.
事典によると花序は頂生する。ひとつのことが多いが、二つの場合は少し下の葉腋に付いているように見える。
「花序は頂生する」という原則に反しているので、仮説として、「頂生した後に、直下の腋芽が少しだけ二度伸びし、その先端に二つ目の花序が付いた」という考えを挙げておきたい。

花序の周りにある 小さな葉の形をしたものは総苞で、やがて落下する。前掲写真と同じ日の撮影だが、この枝に昨年付いた葉のほとんどは萎れている。左上にピンと伸びている冬芽は 裸芽である。

下を向いた花序       2015.1.14.
花柄がさらに曲がり、冬芽が真上になる。まるで冬芽が茎頂にあるように見える。苞葉が萎れている。

開花直前        2014.3.16.

花は外側から咲く              2001.3.21.
        雄しべは8本あるのだが、萼の内側で二段になっているので、4本しか見えない。
                                   次の写真とも 日比谷公園
咲き終わりは白くなる     2000.4.6.
ほとんどの花序は下向きで咲く。

アカバナミツマタ       2000.4.1.
栽培品種として アカバナミツマタ がある。  京都植物園


新枝の伸び と 葉
3つに分かれる瞬間を見るのは なかなか難しい。

生き生きとしてきた芽      2014.4.7.
花序周辺の花は白く色あせて 枯れかかっている。

2014.4.23             伸び出した新梢             2014.5.15
どちらの写真にも、花の落ちた花序軸が残っている。
葉は互生で初め絹毛があるが、表面はすぐに少なくなる。右写真の枝の伸びは4センチ程度だがすでに7枚の葉が開いている。しかし葉の大きさや伸び具合は、生育場所や枝によって大きく異なる。例えば @の木は日陰で標本園の木よりも枝が疎らだが、伸びが悪いということはない。

この後、5月末から6月初めにかけて、枝が3つに分かれる。

2014.5.27             複数の枝が             2014.6.10
横からしか撮れないので、2本しか写らない。3本を写すためには横に切断する必要がある。
すでに 3本に分かれた枝も          2014.6.10.

果 実          2013.6.8.
めったに実は生らないようだ。筑波植物園で一度だけ見かけた。

完全にミツマタに            2014.6.14.

葉のサイズ       2012.6.15.
これは ミツマタにならなかった枝。葉のサイズは 6〜20センチと様々。ドウダンツツジの葉と較べると大きいのがわかる。最初に出た葉が 早くも黄色くなっている。 


二度伸び と つぼみ
2014年の分類表本園の株は生育が良く、ほとんどの枝が二回の枝分かれをした。一度成長が休止してから再び伸びる「二度伸び」なのか、それとも連続して伸長したのかは、夏場の観察ができなかったので不明。
二回目の 三分枝       2014.9.28.
すでに つぼみが大きくなりつつある。
2013.9.28.
年によって成長にも違いがあるのは普通のことで、2013 年の前掲写真と同じ日、この枝では二回目に伸びた枝がすでに茶色くなっており、つぼみも大きい。


  
■ 花序は茎頂に付く 花序のつく位置 その1
「花序は腋に付く」の説も否定できないが、まずは茎頂説を。
「腋生説」は後日に 別の項で述べる。

花序ができた後 時間が経つと花柄が大きく湾曲するために、まるで冬芽が茎頂にあるように見えるが、本説では仮頂芽となる。

花序の位置        2013.9.28.
先端から順に 葉に番号を振った。1番の葉腋に冬芽があることがわかる。(冬芽が先端で、花序は2番の葉腋に付いている、と見えなくもない。もっと早い時期に確認する必要がある。)
2013.12.4.
師走の写真だが花序ができるのが遅かったためか、花序は茎頂にあり、冬芽が脇から出でいる様子がうかがえる。

冬芽が無い場合      2015.1.20.
脇に押しやられることがないので、明らかに茎頂に付いているのがわかる。   


■ 三分枝のしくみ
一般的には枝は「葉腋」から出る。ミツマタの葉の付き方は「互生」であり、また 見た目にも 枝は葉腋からは出ていない。

説としては以下の二つあったが、観察の結果 @には同意できなかった。Aの論文は分枝原基の顕微鏡写真付きで、信憑性がある。

 @ 分枝した枝が上方に偏移して、外見上三叉分枝に見える
   (直下のふたつの側枝が主軸と一体となっている)
 A 茎頂に3つの「分枝原基」が連続的に発生して、一度に伸び出す
   (岩元明敏 / 東京学芸大学 2008)
@ の説を模式化して画くと 次のようになる。
「偏移」とは「三叉の位置まで主軸とくっついて一体化している」という意味である。頂芽は退化したと考える。

冬の枝に残っている葉の落ち跡を確認すると、「a」の葉は枝の直下に認められることが多い(次の写真 左)。
しかし bやc の落ち跡は、必ず枝分かれの中央に位置する(写真 右)。@の説なら、枝の真下にあるべきだろう。
a の落ち跡の例 b の落ち跡の例

A の説は、岩元氏が 日本植物形態学会の会報である『Plant Morphology』第19巻(2008)に発表したもので、以下のURLで論文を見ることができる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/plmorphol1989/19and20/1/19and20_1_65/_pdf

電子顕微鏡写真の引用は避けるが、ミツマタの分枝に関する部分の要旨を以下に引用する。
表面構造観察の結果、ミツマタ茎頂では腋芽よりも明らかに速く発達して枝を形成する「分枝原基」が連続的に3つ発生し、これが三叉分枝を形成していることが明らかになった。さらに解剖学的解析の結果、三叉分枝形成時の茎頂組織においては、この分枝原基が腋芽を形成する腋性分裂組織ではなく、頂端分裂組織の一部から直接生じていることが示された。
また、三叉分枝した後、分枝原基に直近の葉の腋にできる通常の腋芽の発達についても観察を行い、分枝原基の発達とは異なることを確認した。
(岩元明敏 / 東京学芸大学 2008)

上記を読み、もう一度前掲写真の直下の「落ち跡」をルーペで観察してみた結果、成長していない腋芽があったので、3叉の枝は直下の葉腋にできた側枝ではないことの根拠となる。
葉の落ち跡にある腋芽?    2015.1.23.

上の写真では枝に毛が残っているが、半年経った枝分かれの上面に頂芽の痕跡はなくてスムースで、表皮が茶色くなると中央に3本の白い筋ができる。これも、同時に伸び出したことを表していると言えよう。
2014.6.14            三叉を上から見る            2013.12.4

なお、ジンチョウゲやキョウチクトウで3本の枝が出るのは、茎頂に花序が付き、その後に直近の腋芽から出る側枝である。ともに中央にはっきりとした落ち跡が残る。
ジンチョウゲの 花と落ち跡
三輪生のキョウチクトウ



■ 花序が二つ付くケース

仮説:花序が必ず茎頂に付くのだとすれば、二つ目の花序は仮頂芽が二回目の伸びを行って、その先端に付いたものである。

二つの花序    2014.9.21.
まだ残暑が残る9月の撮影。早くに一つめの花序(写真中央)ができた後、葉が5枚も出て、茎頂に二つめの小さな花序が見える。
一つめが葉腋に付いたのであればそれまでだが、もし花序は必ず茎頂に付くのだとすると、伸びた「主軸風の」枝は仮頂芽が伸びた「側枝」ということになる。

この考えを発展させれば、茎頂附近にかたまって二個の花序が付くケースも、ごく短く伸びた側枝の先端についたことになる。

二つの花序         2015.1.4.
カーソルを乗せると 各部の名称が表示される


 
ミツマタ の 位 置
写真@: F4 ac 日本庭園 小池の近く
写真A: 分類表本園、井戸側1列目 右側

名前の由来 ミツマタ Edgeworthia chrysantha

和名 ミツマタ 三椏 : 枝が 成長途中で3つに分かれるため
初夏の芽生え時に3本出るのではなく、伸び出した1本の枝が5〜6月頃に3つに分かれる。
萼は4裂、雄しべは8本なのに奇妙だ。

漢字 三椏の「椏」は「木のまた」を意味する。「亜」は 次の、少ない、みにくい という意味がある。木のまたは、木の醜い部分ということか? ミツマタに使われる由来は不明。

種小名 chrysantha : 黄花の
ミツマタの花の内側の色による

 異名 : W. papyrifera Sieb. & Zucc. (1846)
リンドレイがミツマタに命名したのと同じ年(1846年)に、シーボルトも上記の学名を発表している。

GRINには以下のコメントがある。
5月に発行されているのがわかっている リンドレイに対して、シーボルトのものは、それよりも早い出版日を確認できないため。
GRIN:Germplasm Resources Information Network

中国名 結香 jie xiang :
ミツマタの花に芳香があるため。同じ科の ジンチョウゲ の名称 「瑞香」を意識した命名だろう。
英語名は 紙の原料となることによる paperbush。

Edgeworthia 属 : 人名による
アイルランド生まれの植物学者 Michael P. Edgeworth (1812-1881)を顕彰したもの。
Edgeworth
成人前にインドに渡り、インドやセイロン(現スリランカ)を踏査して植物の採取を行っただけでなく、インドの言語、文化、地勢、古代遺跡の調査も行った。
属名の和名は ミツマタ属。
Wikipedia より

ジンチョウゲ科 沈丁花科 :
白花 ジンチョウゲ
ジンチョウゲ Daphne odora はミツマタと同じく中国原産だが、常緑樹である。花に特別な香りがあるため、沈香 + 丁字の香りを併せ持つという意味で「沈丁の花」とされた。
前記のように中国名ではないので、室町時代に日本に伝わってきてから名付けられた、和名だろう。

ジンチョウゲ属は ヨーロッパ・北アフリカから東アジアにかけて、約90種がある。



植物の分類 : APG III 分類による ミツマタ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、アウストロバイレア、センリョウ
モクレン亜綱 : カネラ、コショウ、モクレン、クスノキ
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、など
以前の分類場所 フトモモ目  シクンシ科、ジンチョウゲ科、フトモモ科、ノボタン科、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: フトモモ、アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
 アオイ目  ベニノキ科、アオイ科、ジンチョウゲ科、など
ジンチョウゲ科  ジンチョウゲ属、ミツマタ属、ガンピ属、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           
注) 以前の分類とは クロンキスト体系とするが、構成が違うので、APG分類表の中に表現するのは正確ではない事もある。その場合はなるべく近い位置に当てはめた。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ