モチノキ 黐の木
Ilex integra Thunb. ex A. Murray (1784)
科 名 : モチノキ科 Aquifoliaceae
属 名 : モチノキ属 Ilex Linn. (1735)
英語名 : mochi tree
原産地 : 東北地方南部以西の本州、四国、九州、南西諸島。  朝鮮半島南部。
用 途 : 常緑の濃い緑色の葉や赤い実が好まれて 庭木に利用される。
材は白くて硬いため、印材や櫛に利用される。

園内には何本ものモチノキがあるが、常緑の雌雄異株で、雌株は一本だけのようだ。モチノキ属は日本に自生する種も20種以上と多く、植物園にも色々な種が植えられている。
今後、外国産も含めて「モチ」の付くものがいくつも登場する予定。

             @:樹 形       2011.4.14
正門をはいって真っ直ぐ進み、坂道の最初の角のソメイヨシノの隣にある。
雄株で 高さ 約 5 m。大きくなると15〜30mにも達するというが、この木は横に広がっている。トップの写真がこの木の雄花である。
            @:春の様子        2000.4.8
坂の上から見下ろす。         桜の右側がモチノキ

幹の様子
遠目では平滑。

        A:樹 形     2011.6.5
40番通り 分類標本園の左側を進んだ正面、標識43番のところある 雌株。高さ 約7m。こちらは縦長の紡錘形をしている。

                A:葉の様子 と 雌花           2011.4.15

 2001.4.7             @ の 雄 花             2011.4.15
両者を較べると雌雄の違いがはっきりする。雄花の方はびっしりとたくさん付いていて、花柄が見えないくらいである。左側は雄しべが成熟期、右側の写真では雄しべの葯は枯れてきている。花のサイズは 1cm強。

             A:若い実        2011.6.5

今年の出葉        2014.6.10.
上部 3本だけに 例外 (開花・結実したのに今年の枝が伸びている)があるが、実が生ると ほとんどの枝では新梢が出ない

@ : 葉が黄色く褪せたモチノキ     2015.2.25.
黄色い部分は 2014年春に雄花が咲いた枝。新しい枝が出なかったために、着葉期間が2年近くなって、色が褪せてきている。右側は2014年春に伸びた部分で、緑色が濃い。

モチノキ属で 昨年の枝に花が付くタイプは、この傾向が強い。ほかに確認している種としては、タラヨウ・シナヒイラギモチ がある。ハイノキ科のクロキ も同様。

              赤い実         2014.9.23.

        B:ハンカチノキの奥にある 雄株   2011.6.5
標識34番から南の方を見ている。左奥にハンカチノキがある。

     C : 斜面に生えるモチノキ
標識62番から始まる緩やかな坂道 (仮称 コクサギの並木)右側の斜面に生える大きな木。倒れないように次から次へと根を出して踏ん張っている。
木に囲まれてしまって 高さは はっきりしない。



 
モチノキ の 位 置
写真@ : F15 a ソメイヨシノの左隣、 雄株
写真A : E9 ac 雌株
写真B : D8 d 雄株
写真C : F11-F12 50番通り右手 斜面、 雄株
D9 a 3本楠の裏手
D6 ac 30番通り、震災記念碑の先 左側
D8 b 標識34番から 坂を下りる途中
E8 ac 30番通りと40番通りの間、斜面の途中

名前の由来 モチノキ Ilex integra

モチノキ : 黐の木
モチノキの樹皮から「とりもち 鳥黐」を作ったことから。

現在は鳥類保護のために禁止されているが、かつては様々な樹皮から鳥もちが作られた。モチノキ属のクロガネモチ、タラヨウ、イヌツゲ、ヤマグルマ科のヤマグルマなどであるが、モチノキの鳥もちが最上等とされて「ホンモチ 本黐」といわれていた。主成分は高級アルコールエステルで、樹脂やゴムも含まれているそうだ。

筆者は見たことはあるが、使ったことはなかった。竿の先に付けて 鳥や昆虫などを捕ると、粘着力が強すぎて羽などが傷んでしまうので、生け捕りにするためには枝に鳥もちを巻き付け、鳥笛やおとりを使ってそこに鳥が止まるのを待ったという。

種小名 integra : 全縁の (鋸歯のない) という意味 
学名の命名者は「タラヨウ」と同じく ツュンベリーが日本で見たもので、葉の縁の形状に基づくものである。トゲもない。
しかし・・・
現在では、モチノキ属にはいくつもの「全縁の」種がある。

当時知られていたモチノキの仲間として、ツュンベリーの直接の師 リンネの著書『植物の種』(1753)には、5種+3変種が記載されていた。
1. Ilex aquifolium: セイヨウヒイラギ

aquifolium
  凸頭葉の の意味
2. I . cassine: ダフーンヒイラギ

全縁だが先端
にトゲがある
Wikipedia より
3. I . asiatica:  不明。 種小名はアジアの
4. I. cuneifolia → Iodina cuneifolia
    種小名は くさび形の葉の 意味
5. I. dodonaea → Comocladia illicifolia
              モチノキ属のような葉の

asiatica については様子がわからないが、タラヨウにも鋸歯があるので、ツュンベリーがモチノキを記載した時点では、ほかには全縁のモチノキ属が無かったためだと思われる。

Ilex モチノキ属 :
セイヨウヒイラギ Ilex aquifolium L. のラテン名に由来する。                『園芸植物大事典』

モチノキ科 : Aquifoliaceae
F. ミラーが Aquifolium属 を定義したのは1754年であり、リンネの『植物の種』よりも後である。それなのに、なぜ科名に リンネが使った属名 Ilex ではなく Aquifolium が使われているのかは 不明。
 
小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ