モクレイシ 木茘枝
Microtropis japonica Hallier f. (1911)
← Elaeodendron japonicum
    Franch. & Sav. (1879)
科 名 : ニシキギキ科 Celastraceae
属 名 : モクレイシ属 Microtropis Wall
(1831)
原産地 : 日本
備 考 : 雌雄異株の常緑低木


初登場のニシキギ科、目の醒めるような赤い種子。ツルレイシ(ニガウリ)との関連で付けられたという和名、その由来の謎に迫る・・・。

           @ : 樹 形        2012.1.25.
看板商品のひとつである サネブトナツメ (右の柵内) のすぐ隣。地際でふたつに分かれ、扇形となっている。高さ3メートル程度で、恐らく 雄株。

A : 奥の2本       2012.3.30.
名札の後ろが雄株、右側が 雌株。高さは3mぐらい。

A:雌株の幹の様子      2013.3.12.
地面から80センチの所、斜めになった雌株の太さは10センチ弱。

A:雌株の枝の様子      2013.3.12.
メインの枝は 水平に出ている。

葉の様子        2012.1.31.
ニシキギ科の中では一番シンプルで 艶やかな常緑の葉。つぼみが付いている。葉の長さは 5センチ前後。

つぼみの様子       2012.1.31.
花はの出方は「二出(二岐)集散花序」。二股に分かれるとともに 二股の中央部分にも付く。

  花序の付く位置(雄花)
花芽は前年の枝 (赤茶色の枝) に付くが、一般的な葉腋 (写真の中央と右) のほかに、芽鱗の落ち跡 (印) からも出る。

雄 花          2007.3.2.

雌 花         2013.3.12.
雄しべもあるが退化している。

雌 花         2013.3.12.
この花の雄しべは 花弁化している。

青い果実         2012.8.9.

熟した果実       2003.12.27.
果皮は緑のままで裂け目ができ、やがてふたつに開いて落下する。 は 落ちかけている果皮。赤い種子は翌年まで残る。すでに来春の花芽が大きくなっている。(開花は2月頃)

 
モクレイシ の 位 置
写真@: B5 b 10番通りと20番通りの間、サネブトナツメの先
写真A: B4 ac 10番通り右側 塀際の目立たない場所

名前の由来 モクレイシ Microtropis japonica

和名 モクレイシ 木茘枝 :
『牧野新日本植物図鑑』には、 「モクレイシはツルレイシに対して「木茘枝」と書くが その意味はわからない」とある。

もともと レイシ 茘枝 (ライチ) は樹木であるから、「木茘枝」は「馬から落馬する」のたぐいの名称であり、筆者は レイシとの直接の関係は無いと考える。

ツルレイシ は「ニガウリ 苦瓜 (沖縄でゴーヤー) 」の別名。

 ← ツルレイシ 蔓茘枝 Momordica charantia
ツルレイシ の由来については『園芸植物大事典/小学館』に記述があるので、長くなるが 引用する。
原産地は東インドまたは東南アジアといわれ(中略)日本へは慶長年間 (1596-1615) 以前に観賞用として導入されている。和名については議論も残されているが、(中略)観賞用または小型種としては ツルレイシ、果菜として利用される長大種には ニガウリ または同様の意味を示す名前が使用されている。
レイシの名は 熱帯果樹のレイシのように いぼ があるためにつけられ、混同を防ぐために ツルレイシ とよばれるようになった(後略)。
ツルレイシ   レイシ(ライチ)
今のニガウリは サイズが大きいので、ライチと比較する事じたいが不自然に感じられてしまう。
また 江戸時代に名付けられた「ツルレイシ」を元に、日本に自生する「モクレイシ」の名が付けられた というのであれば、比較的新しい名前 ということになる。古代には別の名があった、ということか?

筆者が考えたモクレイシのおこりは、赤い種子に由来する。

ツルレイシの実の中から、赤い種皮に包まれた種子が見えるのは橙色に熟してからだが、その鮮やかな朱赤が モクレイシの種子と似ているためではないだろうか。

ツルレイシ 熟して落下した果実 赤い種皮 と 種子

モクレイシの 赤い種子     2010.2.20.
ツルレイシのような 赤い種子が生るので、モクレイシ。

もう花が咲いている時期で、赤い種皮は水分がなくなりつつある。
ニシキギ科では 仮種皮が付く種が多いが、モクレイシの赤は「種皮」だそうだ。

種小名 japonica : 日本産の
野生種は 海岸近くの林内に生える。

属名 Microtropis
ギリシア語の mikros 小さな + tropis 竜骨 ということだが、どの部分を指すのかは不明。和名は モクレイシ属。
アジアの亜熱帯および熱帯地方に 25種、中央アメリカに1種が分布する。

ニシキギキ科 Celastraceae :
ニシキギ 錦木 は秋に真っ赤に紅葉するところから。
ニシキギ   2001.12.1.

科名としては ニシキギとなっているが、基準となる属は ツルウメモドキ属 Celastrus属である。
ツルウメモドキは つる性のウメモドキの意味だが、実際のウメモドキ(モチノキ科)と ツルウメモドキ(ニシキギ科)は、全く似ていない。なにかの勘違いで名付けられたのだろう。
2007.5.19 葉          ツルウメモドキ          実 2008.11.2
属名 Celastrus はギリシア名 kelastros に基づく。kelas は「後半の季節、晩期」の意味で、ツルウメモドキの果実や種子が遅くまで木に付いたまま残ることに由来している。橙色の部分は 仮種皮。→ 文末の「色々な仮種皮」参照。


植物の分類 : APG II 分類による モクレイシ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
ニシキギ目  ニシキギ科、カタバミノキ科
ニシキギ科  ツルウメモドキ属、ニシキギ属、モクレイシ属、クロヅル属、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           


 
色々な 仮 種 皮

モクレイシの赤い部分は 仮種皮(かしゅひ、かりしゅひ)ではないが、ニシキギ科や その他時々現れる言葉「仮種皮」とは何か?
受精後、種子が完成するまでの間に、珠柄または胎座などが肥大して、種子全体を覆うまでに成長した構造。種衣(しゅい)とも。
糖質や油質成分があることが多く、動物による種子散布に役立っている。(胎座:子房の中の胚珠の付く壁面。側膜胎座や中軸胎座など、様々な型がある)

・液質の仮種皮の例
イチイ    2000.9.17. イヌマキ   2012.12.23.
 種子を取り囲んでいる。  花床が肥大したもので 甘くて食べられる。

・肉質の仮種皮の例
ツルウメモドキ  2008.10.5. トベラ    2011.11.5.

果皮はみっつに割れる。仮種皮の中には ゴマのような小さな種子がたくさんある。

花は5数性なのに 果実は3裂する。
ヒゼンマユミ              2012.1.4.
 種子は落ちやすく、果皮が残る。  丸い種子を包んだ橙色の仮種皮
ライチ ニクズク
 白い果肉状の部分を食べている。  赤い仮種皮を乾燥させたものがメース。

小石川植物園の樹木 −植物名の由来− 高橋俊一 五十音順索引へ