モクレン 木蓮
Magnolia liliiflora Desr. (1792)
園の名札: Magnolia quinquepeta Dandy (1934)
別 名: シモクレン 紫木蓮
科 名: モクレン科 Magnoliaceae
属 名: モクレン属 Magnolia L. (1735)
英語名: purple magnolia, red magnolia,
woody-orchid
原産地: 中国原産とされるが、自生は見つかっていないようだ
用 途: 庭木、薬用

国際植物命名規約(ICBN)により、標記の学名とする。

             ①:樹 形       2011.4.15
上の段 30番通り、標識36と37の中間 右側。写真の奥にシマサルスベリの並木が見える。高さ 約3m。開花時の葉は少ない。
木が古くなってきているためか、細いひこばえがたくさん出ている。

      ②:柴田記念館手前 2012.4.22

           ①:つぼみの状態      2011.4.15
           ①:開いた花      2011.4.15
花弁の長さ 10~12cm。

           未成熟の雄しべ      2011.4.15
中央の色の濃い部分が雌しべ群。モクレン類は雌しべが雄しべよりも先に成熟する。

           熟して開いた実      2007.9.11


 
モクレンの 位 置
写真①: C 4-5 30番通り 標識36と37の間、右側
写真②: C13 cd 柴田記念館への曲がり角 右側

名前の由来 モクレン Magnolia liliiflora

モクレン 木蓮、木蘭 : 
「サクラ」という種 (しゅ) はないが、「モクレン」はある。
白いモクレンの和名は「ハクモクレン」で、これと区別するために 別名の「シモクレン」が使われることもある。

現在の中国名は「木蘭」である。古くに日本に渡来した時の名称はわからないが、もし現在と同じだったならば その音読み、モクラン が モクレンに変化したものだろう。花の形が「蓮」ハスに似ているのは、ホオノキや北米のタイサンボクの方だ。

種小名 liliiflora : ユリの花に似た
一般に横向きに咲くユリとは違って モクレンは上向きに咲くが、ラッパ型の形は似ていないことはない。花弁数も6枚。

Desrousseaux が本種を命名するに当たって 影響を受けた可能性があるのは、その少し前の 1790年に、ポルトガルの植物学者 ローレイロが、モクレン科の別の植物2種を ユリノキ属 Liriodendron属として記載した事だ。注)

その2種よりは 本種の花の方がユリに似ている。
注) Liriodendron coco→ Magnolia coco → 現在の名は?
  Liriodendron figo → Michelia figo → Magnolia figo

モクレン科 Magnoliaceae : 人の名前に由来する
17世紀フランスの植物学者で、地中海に面するモンペリエの植物園園長であった、ピエール・マニョール(1638-1715) を顕彰したものである。
マニョール
Wikipedia より

英語名 : woody-orchid
中国名の「木蘭」を直訳したものだ。


 モクレンの学名 命名の経緯

今の植物園の 名札は Magnolia quinquepeta だが、昔の名札は 本稿で採用した学名、Magnolia liliiflora であった。
2007.6.16

ただし ミスプリがあり、
i がひとつ 抜けていた。
せっかくの名札を付け替えてしまったのは、以下の経緯が有ったためだ。

年号 学名 命名者 和名 備考
1735  Magnolia  リンネ  モクレン属  リンネ以前に プルミエがたてていた
1779  Lassonia quinquepeta  P. J. Buchoz  モクレン?  
1792  M. liliiflora  Desrousseaux  モクレン  現在の 正名
1935  M. quinquepeta  J. E. Dandy  モクレン?  ①が有効として モクレン属に変更。
 一時は これが支持されたようで、
 園でも名札を作り直した。
  しかし、
長い議論の末に ①は無効とされ、②が復活した。 理由は、
  ・①は 別の種の一部分で作られた架空の絵 (キメラ)に基づく
  ・Buchoz は植物標本を 引用も保存もしていない
ためで、①を訂正した③は 異名となった。
命名時には標本 (タイプ)が必要、という主義に基づいた判断だと思われる。
Lassonia属は 現在 使われていない。

結果を受けての感想だが、6枚の花弁 (花被片)を持つモクレンに quinquepeta "5枚の花弁の" と名付けたのは、実物の観察をしていない証拠で、植物学者として失格と言えよう。
本項の参考文献:Wikipedia 英語版。
        日本語にもかなり正確に訳されている。
        GRINの記載とも合致するので参考にした。


 モクレン (シモクレン) と ハクモクレン の違い
遠目には 色と開き方の違いぐらいしかわからないが、よく見ると大きな違いがある。

モクレン 自宅の ハクモクレン
萼片の
大きさ
萼片は花弁より著しく小さく 緑色 萼片は花弁とほぼ同じ形状で白色
葉の展開 開花中 あるいは 開花後 開花の後
モクレンの花弁数6枚に対して、ハクモクレンは 萼が花弁化しているため、花弁の数が 1.5 倍 の9枚に見える。
このためハクモクレンは豪華に、シモクレンは優雅に見える。

白い花が好きな筆者だが、やはりモクレンに軍配をあげたい。



植物の分類 : APG II 分類による モクレン の位置

花の各器官は「葉」が変化したものと考えられている。
モクレン類は被子植物の中では 早くに分化した植物で、1本の軸の周りに「花弁・雄しべ・雌しべ」が多数付く原始的な花の構造が、それを示している。
軸の周りに付いている状態
自宅のハクモクレン。 手前側の 花被片を取り除いて撮影。













←花弁の落ちた跡

←萼の落ちた跡
(花弁の下にある)
雄しべが落ちた跡を見ると、螺旋状に付いているのがよくわかる。


原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
モクレン目   ニクズク科、モクレン科、バンレイシ科、など
モクレン科   モクレン属、ユリノキ属、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱: ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群: ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱: ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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