キンモクセイ 金木犀
Osmanthus fragrans Lour. (1790)
var. aurantiacus Makino (1902)
科 名 : モクセイ科 Oleaceae
属 名 : モクセイ属
   Osmanthus Lour. (1790)
中国名 : 木犀 mu xi (ギンモクセイ)
英語名 : sweet osmanthus (ギンモクセイ)
原産地 : 中国 ?
最近の見解は ギンモクセイ・ウスギモクセイの色の濃い園芸品種
用 途 : 庭園樹
香りが良いので昔から人気があり、公園や庭に植えられる。


キンモクセイ の学名について


植物園の名札は標記のようになっているが、1990年代に入って ウスギモクセイ・キンモクセイ・シロモクセイは、ギンモクセイ Osmanthus fragrans の「変種」ではなく 「品種」という見解が主流となっていた。
    Index Kewensis
    朝日百科/植物の世界
などはこの見解を採用しており、筆者もこれに倣って、キンモクセイの学名は 次のようになると思っていた。

Osmanthus fragrans Lour. (1790)
      form. aurantiacus (Makino) S.Hatusima (1994)

ところが、GRIN Taxonomy for Plants /アメリカ農務省 を見直したところ、品種となっていたキンモクセイの学名が 訂正されていた。 代わりに 異名 (正式ではない名前) として、

 Osmanthus fragrans var. aurantiacus Makino キンモクセイ
    ( = Osmanthus fragrans Lour.)ギンモクセイ

となっていた。つまり キンモクセイ と ギンモクセイ は同一の学名であり、キンモクセイは ’ 栽培品種園芸品種 ’ ということになった。
これまで「日本にはキンモクセイの雄株だけが導入された」といわれていたが、1997年発行の『植物の世界/朝日百科』には、「最近の見解では、日本でウスギモクセイから見いだされて栽培された、と考えられている」とある。ウスギモクセイの雄株の、花の色の濃いものを見つけたということで、今回の GRIN の見解と一致する。
GRINでは同じように、ウスギモクセイも ギンモクセイの園芸品種となっている。

いずれにせよキンモクセイには実が生らない。ウスギモクセイには雌株があり実が生る。

これまで、色 や 形態 などの違いで 変種・品種・亜種などを定義していた。予想されたことではあるが、APG分類では 遺伝子解析による違いがなければ、同一種となってしまう。

今まで細分化の流れだった植物分類学は、統合の方向に向かっている。



小石川植物園では モクセイ科の植物 (レンギョウ、モクセイ、ハシドイ、ヒトツバタゴ など)を、70番通りに沿って植えている。
キンモクセイは ヤナギ池のさらに左側 塀の近くにあるので、70番通りからは直接見にくい。

@:キンモクセイ 樹形     2010.10.8.
正門の方を見ている。2010年で 高さ3m弱。今は一回り大きくなったが 2012年は暑さのせいで開花が遅かった。

塀の外から        2010.10.8.
職員宿舎のすぐ隣にあったのだが、不要な道路拡張工事の準備作業で切られてしまって、今は無い。

A:キンモクセイ 樹形     2012.10.12.
これには名札が立っていない。

B:日本庭園の入口      2013.10.3.
写っていないが、石畳の右側には池が広がっている。
池の飛び石を渡ってから 振り返って見る。

幹の様子
古くなると 菱形の皮目ができることがある。

新 葉      2011.4.5.
葉も紫がかっているが、新しい枝の赤紫が美しい。2対の低出葉はすぐに落ちてしまう。

満開の雄花と葉の様子     2000.10.7.
葉は皮質で周囲が少し波打っている。

花の付き方               2012.10.12.
花の数が少ないので、今年枝の葉腋に花が束生しているのがわかりやすい。モクセイの特徴は 葉腋に重なって複数の花芽が付くことである。(複芽:右のアップ写真、上部)

普通は一番上の花芽が成長する。同時に2つが膨らむこともあり、続いて2番目が咲くことも多い。

膨らんだつぼみ      2012.10.12.

雄花の詳細        2010.10.8.
雄しべが二本。中央に退化した雌しべがある。雄株ばかりなので実はできない。

いつも前からしか見ないので気が付かなかったが、よく見ると萼らしきものがある。花弁の分かれ目の位置で 4裂している。

 
キンモクセイ の 位 置
写真@: G9  70番通りタイミンチクが終わった所の左手奥、2本
写真A: G9 d  ヤナギ池の左側
写真A: E4 d  70番通り 大池の飛び石を渡る手前 左側

名前の由来 キンモクセイ

キンモクセイ 金木犀 : 
濃い黄色の花が咲く モクセイの仲間。
 
 ← モクセイ 木犀
モクセイの中国での名は 桂 (グイ)、あるいは 木犀(mu zi ムーシー)と呼ぶ。日本では 木犀を音読みして、モクセイとした。
木犀は、モクセイの樹皮が動物の「犀 サイ」に似ているところから。
ギンモクセイ
園芸品種名 aurantiacus : 橙黄色の
花の色を表している。以前は「変種名」であったが、現在の考え方は栽培品種、
 Osmanthus fragrans Lour. (1790) ' Aurantiacus '
である。
 

モクセイ類の命名の由来は 次のような経緯がある。

和名 名前 刊行物・命名者 備 考
1712  モクセイ Osmanthus asiaticus 『異邦の魅力』
    E. ケンペル
『植物の種』以前のため 無効名
1784  モクセイ Olea fragrans 『植物分類体系』14版
    ムレイ
ツュンベリーの研究を『日本植物誌』
よりも少し前に発表してしまう
1784  モクセイ Olea fragrans 『日本植物誌』
    ツュンベリー
ギンモクセイかどうかはっきりしない
『異邦の魅力』を参考にしていたツュンベリーが、その Osmanthus属 を採用しなかったのは、
 恐らく、師リンネがOsmanthus属を定義していなかったため。
1790  ギンモクセイ Osmanthus fragrans 『交趾植物誌』
    ロウレイロ
 正名
1902  キンモクセイ Osmanthus fragrans
   var. aurantiacus
『植物研究雑誌』
    牧野富太郎
キンモクセイをギンモクセイの
 変種とする
1994  キンモクセイ Osmanthus fragrans
  form. aurantiacus
『琉球植物誌』ed.2
    初島 佳彦
品種扱いに訂正

種小名 fragrans :
強い香りのある という意味。モクセイの花の匂いによる。
 
Osmanthus 属 :
ギリシア語の osme (匂い)+ anthos (花) に由来。
 
モクセイ科 Oleaceae
モクセイ科の基準属は オリーブ属 Olea である。トゥルヌフォールが提唱していたものを、リンネが『自然の体系』第1版に記載した。

オリーブの古いラテン語名による とも、ギリシア語の名前 elaia によるとも言われている。意味は「油質の」のようだ。
オリーブ

 

植物の分類 APG II 分類による キンモクセイ の位置
原始的な植物
 緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など
大葉植物(シダ類): マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
 裸子植物 :  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、ヒノキ、など
 被子植物 :  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
 単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、など
中核真生双子葉類 ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ブナ、など
アオイ群: アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : ガリア、リンドウ、ナス、シソ、など
  シソ目  モクセイ科、イワタバコ科、ゴマノハグサ科、ゴマ科、
 キツネノマゴ科、クマツヅラ科、ノウゼンカズラ科、
 シソ科、キリ科、など
モクセイ科  トネリコ属、オリーブ属、モクセイ属、ハシドイ属、など
キキョウ群: モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )           

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